2016年3月、日本の安全保障に関連する「平和安全法制」が施行されました。日本の平和と安全のためにとても大事な法制です。でも、具体的にどんな内容なのかを理解するのは、ちょっと難しい…。
そこで、作家・岡田真理さんによる、平和安全法制について軽く読めるカリキュラムをお届けします。2回目となる今回は、日本に武力攻撃が関わるときの対処法について。
※この記事は、『MAMOR』2016年6月号から2017年5月号まで連載された「岡田の軽キュラム」から一部を抜粋して再構成しています
※1回目はこちら(https://mamor-web.jp/_ct/17671617/)
私たちの安全を脅かす「グレーゾーンの事態」って?
平和安全法制では、「なんか大変なことが起きたらこうしよう」ということを定めているので、「事態」という言葉がたくさん出てきます。
「武力攻撃事態」、「武力攻撃予測事態」、「存立危機事態」、「重要影響事態」、「国際平和共同対処事態」……。
なんで「事態」がこんなにたくさん増えたのか。それは、「切れ目のない対応」が必要だからです。
ここ最近は、「これって戦争ってワケでもないけど、平和かというとそうじゃなくない?」ということ(「グレーゾーンの事態」)が増えてきました。
こういった「新たな脅威」による大変なことが起きたとき、「あーこれは今までに決めてたこの事態にもこの事態にも当てはまらないな。じゃあなにも対処せずに寝てよう」というワケにはいかないので、これまで以上にあらゆる脅威を想定した「事態」を作り、そして対処できるようにしました。
つまり各事態にはそれぞれに「こういうときはこうしよう」があるワケです。では、武力攻撃が日本にどえらいがっつり関係するときに適用される事態対処法では「どんな事態のときにどうする?」をお勉強しましょう。
「事態対処法」で定められる3つの事態
武力攻撃が日本にどえらいがっつり関係するとき、当てはまる「事態」は、「武力攻撃事態」、「武力攻撃予測事態」、「存立危機事態」の3つです。
武力攻撃事態:(A)日本への武力攻撃が発生した事態、(B)日本への武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態
ここで大事なのは、日本への武力攻撃(他国の軍や組織から砲やミサイルなどの武力で攻撃されること)の「発生」と「切迫」です。もうガチで起こっちゃってるときや、ガチなのが切迫しているときがコレです。
武力攻撃予測事態:武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、日本への武力攻撃が予測されるに至った事態
ここで大事なのは武力攻撃の「予測」です。「ガチなのが明らかに迫ってるっぽくね?」です。
存立危機事態:日本と密接な関係にある他国へ発生した武力攻撃で日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
「武力攻撃は日本じゃない国に起こってるけど、それは日本にとってもガチやばい」なときです。
この3つの事態は、「事態対処法」というもので定められています。
各事態では、
●防衛出動をするかどうか
●武力行使をするかどうか
という対処が決められています。「こうなったらこうする!」をあらかじめきっちりかっちりしておくことで、なんか大変なことが起きてもスムーズに対処できるワケです。では、そもそも防衛出動とはなにか、武力行使とはなにか、から順番に見ていきましょう。
防衛出動ってなに?
「防衛出動ってなんなの?」
防衛出動は、自衛隊が行う活動のうちの1つです。自衛隊の活動はいろいろありますが、中でもいちばん耳なじみがあるのは「災害派遣」ですよね。
災害派遣は、災害が起きたときに、被災者の捜索・救助・生活支援、人や物資の緊急輸送などを行う活動です。自衛隊は、都道府県などを支援する形で災害派遣をします。ので、災害派遣は都道府県知事などの要請により行われます。
自衛隊の活動には、「治安出動」というものもあります。これは、警察力をカバーする活動です。国内で大きな暴動などが起きてしまい、警察だけでは治安の維持ができなくなったときに、自衛隊が治安を守る活動をします。
治安出動は、都道府県知事の要請や、内閣総理大臣の命令で行われます。内閣総理大臣の命令で治安出動をする場合は、国会の承認が必要です。
そして「防衛出動」。これは、他国の軍や組織などによる砲やミサイルなどの武力攻撃から日本を守るための活動です。
「『武力攻撃事態』と『存立危機事態』のときに自衛隊が防衛出動をする」と事態対処法で定められています。なので、「武力攻撃予測事態」や「他国へ武力攻撃が起きてるけど、日本にどえらいがっつりは関係しないとき」など、「武力攻撃事態」と「存立危機事態」以外の場合は全て、防衛出動は認められていません。
またこの防衛出動も、内閣総理大臣の命令+国会承認が必要です。
「『日本がガチやばい』ときである、『武力攻撃事態』と『存立危機事態』の2つの事態にだけ」行われる防衛出動。
ただし、「武力攻撃予測事態」は「ガチなのが明らかに迫ってるっぽくね?」なので、「防衛出動はしちゃダメだけど、防衛出動のための待機はしてもいいよ」とされています。
これはそのまま「出動待機」という名前で、防衛大臣が命令を出します。出動待機を命令された部隊は、いつでも防衛出動ができるように準備を整えます。
武力行使ってなに?
では、次。
「武力行使ってなんなの?」
防衛出動した自衛隊は、状況に応じて「武力行使」することが認められています。他国の軍や組織からの武力攻撃を排除し、日本を守るために行う戦闘行為が「武力行使」です。
先ほど、「防衛出動するのは『武力攻撃事態』と『存立危機事態』のときだけ」とお勉強しましたが、武力行使はこの「防衛出動しているときにだけ」認められていて、それ以外のどんなときにも行うことはできません。
そしてさらに防衛出動のときであっても、武力行使は「こういうときにしかしてはいけませんよ」といった「歯止め」が厳密に決められています。
自衛隊の活動には、全て「歯止め」があります。自衛隊の部隊が勝手に「出動や派遣をしよう!」というのは認められていません。
災害派遣は都道府県知事などの要請が、そして治安出動と防衛出動は内閣総理大臣の命令があって初めて行われます。
さらに内閣総理大臣の命令は国会に承認される必要がありますし、防衛出動のときの武力行使にも「歯止め」があるのです。
【岡田真理】
作家。「女子高生にも分かる国防」をモットーに執筆を行う。著書に『いざ志願!おひとりさま自衛隊』(文芸春秋)、『誰も知らない自衛隊のおしごと 地味だけれど大切。そんな任務に光あれ』(扶桑社)、『自衛官になるには(なるにはBOOKS)』(ぺりかん社)
(MAMOR2024年1月号)
<文/岡田真理>