•  古今東西の軍隊において活用される偵察任務。自衛隊には陸上自衛隊と航空自衛隊に偵察を任務とする部隊が所在するが、どのような偵察を行っているのだろうか?

     敵を偵察するには高い位置を取ることが重要である。それなら航空自衛隊の独壇場なのか?

     長く偵察機RF-4E/Jを運用していた空自だが、ドローンなどテクノロジーの進化とともに、近年、偵察布陣が急激に変化しつつある。無人偵察機「グローバルホーク」を運用する偵察航空隊などを中心に、空自の偵察を紹介しよう。

    有人機から無人機へ変わる空自偵察部隊

    画像: 偵察航空隊司令「今年の偵察航空隊のスローガンは『1』です。1年目のフレッシュな部隊で、無人機部隊の先頭を走る存在である責任感も表します」と熱く語る髙口1佐

    偵察航空隊司令「今年の偵察航空隊のスローガンは『1』です。1年目のフレッシュな部隊で、無人機部隊の先頭を走る存在である責任感も表します」と熱く語る髙口1佐

     航空自衛隊には偵察専門部隊として偵察航空隊が1961年に松島基地(宮城県)で発足。75年に百里基地(茨城県)に拠点を移し、上空から偵察を行う唯一の部隊として活動をしていた。

     部隊では偵察機としてRF−4E/Jを運用していたが、機体の老朽化などで2020年3月に全機が退役し、偵察航空隊も廃止される。だが偵察部隊による継続的な情報収集は国土防衛に不可欠であることから、22年12月、三沢基地に偵察航空隊が新編された。

     偵察航空隊司令の髙口拓二1等空佐は「ここでは空自として初の無人偵察機グローバルホークを運用します。部隊新編にあたり、隊員は全国から集結しました。操縦士や整備員の教育訓練も行われます」と話す。続けて部隊運用についてこのように話してくれた。

    「23年6月に3機目のグローバルホークが配備され、活動が本格化します。私たちは空自無人機部隊のさきがけとして経験を積み、効率的に任務に貢献できるよう努力しています」

    画像1: 有人機から無人機へ変わる空自偵察部隊

    【RQ-4B グローバルホーク】
    アメリカのノースロップ・グラマン社製で捜索・監視用の各種センサーやレーダーを搭載した無人航空機。長時間滞空しながら偵察活動が可能。サイズは意外に大きく、全幅はF-15戦闘機の約2.7倍ある。

    <SPEC>全長:約13.5m 全幅:約35.4m 全高5m 重量:約14.6t 巡航速度:約570km/h 航続時間:約36時間

    画像2: 有人機から無人機へ変わる空自偵察部隊

    【RF-4E/J】
    航空自衛隊が運用をしていた偵察機RF-4E/J。愛称はファントム。2020年に全機が退役した。

    <SPEC>全幅:約11.7m 全長:約19.2m 全高:約5.0m 最大速度:約2690km/h

    グローバルホークは二人三脚で操縦をする

    画像: 無人機の安全運航のため、戦闘機や輸送機の部隊同様、フライト前に空域や飛行場の気象の確認などをするブリーフィングを行っている

    無人機の安全運航のため、戦闘機や輸送機の部隊同様、フライト前に空域や飛行場の気象の確認などをするブリーフィングを行っている

     グローバルホークの運用は操縦担当のパイロットと、偵察用の各種電子機器を操作するセンサーオペレーターの2人1組で行い、基地の1室にある操縦席で遠隔操作をする。

    「航空機を安全に飛ばすためには有人機での経験が必要」との方針から、操縦はパイロット経験者が担当。

    「基本は事前にプログラミングしたルートを自動で飛ばしますが、操作が必要になった時は操縦かんではなくマウスとキーボードで操縦します」と語るパイロットの菅原秀晃1等空尉。

    「無人機は長時間の航行でも要員の負担が有人機より軽く、有事の際に機体が墜落しても人命が失われないメリットがある」と話す。

     センサーオペレーターを務める水野達矢2等空佐もグローバルホークの性能をこう語る。

    「画像データなどをリアルタイムに伝送できるため、収集した情報をすぐに確認できるのは大きいです。偵察地点の天候や光の具合などに応じて各種センサーを使い分けることは難しく、加えて、撮影しやすいようにパイロットに機体を動かすように指示を出すなど、考えることがたくさんあります」

    パイロット

    画像: パイロット

     F-15戦闘機からグローバルホークのパイロットになった菅原1尉。「画面を見ながらの操縦は難しく、乗りこなすには慣れが必要」と語る。

    センサーオペレーター

    画像: センサーオペレーター

    「センサー類の操作や運用方法などのマニュアルは全て英語のため、語学力も求められます」と話す、センサーオペレーターの水野2佐。

    有人機も無人機も同じ気持ちで整備する

    画像: 2022年12月21日、降雪の中でグローバルホークの初フライトを実施。悪天候の中でも運用できることを証明した

    2022年12月21日、降雪の中でグローバルホークの初フライトを実施。悪天候の中でも運用できることを証明した

    「無人機といえども同じ航空機ですから整備は変わりません」と語る整備員の鈴木一真2等空曹。

     違う点については「通常の航空機の整備とは異なり、グローバルホークの整備や教育の一部はアメリカ政府関係者の支援を受けています。そのため英語での意思疎通を大切にしています」と話す。

    画像: これまでF-15、F-2と2種類の戦闘機の整備経験がある鈴木2曹。「新しいものが好き」と偵察航空隊での新たなチャレンジを選んだ

    これまでF-15F-2と2種類の戦闘機の整備経験がある鈴木2曹。「新しいものが好き」と偵察航空隊での新たなチャレンジを選んだ

     整備員から見たグローバルホークの特徴について「人が乗らないのでとても軽い。偵察に必要なものだけが詰め込まれていて、無駄なものがないです」と鈴木2曹。

     偵察航空隊に配属される整備員の教育も担当するという。「今後、空自に無人機部隊が増える際は偵察航空隊が模範になります。整備の技術を磨き、隊員の育成も気を引き締めて取り組みます」。

    (MAMOR2023年10月号)

    <文/臼井総理 写真提供/防衛省>

    自衛隊偵察部隊の術とは?

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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