軍事作戦の遂行上、重要な任務の1つが偵察だ。敵の情報を収集し、自軍を有利に進める作戦を遂行するための偵察には、気配を隠し情報を探る「隠密偵察」と、交戦し敵の勢力などを探る「威力偵察」がある。
近年の自衛隊では威力偵察の重要性が増し、攻撃力を持った偵察戦闘大隊を新編。また無人偵察機の運用がスタートするなど進化している。自衛隊の偵察術について紹介しよう。
軍隊における偵察任務とは?
そもそも偵察は何のために行われるのか? そしてその重要性は? 陸上自衛隊の元幹部自衛官で多数の著書もある二見龍氏に、軍隊における偵察任務の内容と大切さについて聞いてみた。
「軍隊にとって情報力は火力と同等、いやそれ以上に重要な“力”です。例えば敵の位置が分かればピンポイントでたたけ、戦況を有利に進められるからです」と語るのは元陸将補の二見氏。
偵察には敵に察知されないように情報を探る隠密偵察と、攻撃をして相手の反撃の規模から情報を得る威力偵察の2つがある。威力偵察は敵の位置が不明な場合に怪しい場所に射撃を行い、敵が潜伏しているか探ることもある。これらの偵察で得るべき情報について二見氏は続ける。
「まずは敵戦力の把握。どれくらいの戦力でどんな装備を持っているのか、配置はどうかなど。次に、地形が作戦に与える影響を知ること。戦場になり得る場所やそこへの進出経路、退却経路を調べます。気象条件なども含まれます。地理情報を集めることで敵の潜伏地点が予測でき、どこから攻撃すべきかを決める判断材料になります」
敵の情報を探るには、読みと忍耐が大切
偵察で収集した情報は、地図に情報を加える形でまとめる。自軍の移動経路や集結地点が安全かどうかは特に重要だ。
「自軍の集結地点をたたかれると大損害が出るため細心の注意を払います。情報を総合し、自らが防御側なら守りやすい場所、攻撃側なら攻めやすい場所を見極めます」と二見氏。
では偵察部隊の隊員はどんなスキルが求められているのだろう。
「自らは見つからずに隠れた敵を見つける『読み』と『忍耐』が大事。じっと動かず敵の反応を待ち、小さな反応を見逃さずに敵情を類推する。想像力、分析力、用心深さを備えるのが偵察のプロです」と二見氏。
さらに、偵察を有利に進める装備品が欠かせないと話す。
「偵察部隊をつぶしてしまえば敵の目や耳をふさいだ上で有利に戦えるため、戦場では真っ先に狙われます。絶対に見つからないことが第1ですが、万が一発見された際は素早く離脱できる装備も重要。自衛隊の偵察部隊にオートバイが配備されているのも、機動力が買われているからです」
地理特性に合わせて装備品を変えて偵察
陸上自衛隊の偵察部隊には、オートバイや各種装甲車のほか、地域によっては軽雪上車、さらに16式機動戦闘車(以下MCV)を配備。
MCVは装輪式で機動力があり強力な砲を持つため、威力偵察における隊員たちの安全性、生存性が向上した。そしてドローンなどの各種無人航空機(UAV)を装備する部隊がある。ドローンについて、偵察の幅が広がる存在だと語る二見氏。
「偵察用装備は、高い位置から偵察する順に衛星、航空機、地上の人間という区分がありました。航空機による偵察は広範囲の情報を得られますが機体の大きさやエンジン音などで発見されやすい。ですがドローンは小型で音が小さく発見されにくく機動力も高い」
「2022年に起こったロシアとウクライナの戦いでもさまざまなドローンが活躍し、人が敵地に潜入して取っていた情報をドローンが収集しています。ドローンを操作する隊員の育成など、偵察部隊の人員養成も新しい局面に突入しているのではないでしょうか」
【二見 龍氏】
元陸将補。東部方面混成団長などを務めた後、2013年退職。現在は民間企業で危機管理の仕事を行う傍ら執筆活動もしている
(MAMOR2023年10月号)
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>
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