自衛隊には、スイーツの作り方を教える学校から、デザートのコンテストまであると知っていましたか?
自衛隊とスイーツの、人知れず深まっている甘くて意外な関係をもっと知りたい方に、硬軟織り交ぜた「あま~い話」を進呈しよう。あなたのお好みはどれかな?
遠洋練習航海中の楽しみ「珠玉のスイーツバイキング」
遠洋練習航海は、海自の新人幹部が経験する実習だ。数カ月、練習艦に乗り、不測の事態に備えた訓練などを行いながら各国を巡る航海をする(コースは年により変わる)。
長期の艦内生活で、幹部たちが楽しみにしているのが、月に1回ほど行われることがあるデザートイベント、その名も「スイーツパラダイス」だ。
給養員が、この日のために腕をふるって作るのは、ロールケーキやチョコレートケーキ、シュークリームやプリンなど、十数種類にも及ぶ。
バイキング形式のため、隊員食堂の一画にスイーツが並べられると、幹部たちはいっきに盛り上がるそう。
長期航海から帰る前日の「入港ぜんざい」
旧海軍時代、当時は高価だった砂糖や小豆を使った「ぜんざい」は、乗員にとって長期航海をねぎらう特別な料理だったといわれている。
入港日の前日に乗組員に振る舞われた「ぜんざい」は、家族に会える喜びと、労をねぎらい「入港万歳」と唱えた言葉に掛け合わせ、「入港ぜんざい」と名付けられた。
この習慣は現在も海自に受け継がれ、レシピは海自公式ホームページでも公開されている。ちなみに、箸休めはたくあんがお勧めとされている。
航空学生の先輩が後輩に「お菓子」を贈る習慣
「航空学生」とは海上自衛隊と空自のパイロットなどを養成する制度のこと。
航空学生として採用されると、空自は山口県防府北基地にある第12飛行教育団に入隊し、全員が学生宿舎に入って2年間の基礎教育を受ける。
6時の起床から22時10分の消灯まで、みっちり詰め込まれたスケジュールをこなす学生たちの結束は固い。
1学年の生徒が初めての徒歩行進(注)にチャレンジしているとき、2学年の先輩が1学年の居室に忍び入り、頑張ったご褒美として机の上にお菓子などを用意するのは、航空学生に受け継がれている伝統だそう。
疲れた体に甘いお菓子は染み入るだろう。
(注)隊列を組み、小銃などを持ち、足並みをそろえて歩く訓練。有事の際に必要な能力である、武器を所持して徒歩で長距離を移動する要領を身に付ける目的で行われる。
自衛隊レーション「小形乾パン」の中に「色鮮やかなコンペイトー」
レーション(戦場、被災地での作戦行動中、または訓練中に取るために配給される食糧)の1つである乾パン。その優秀さは、調理が要らず、必要な量を歩きながらでも取れ、腹持ちがよいと、隊員のお墨付きだ。
しかも油分・糖分ともに控えめとくれば、文句もなしと言いたいところだが、「乾パンを食べると口の中の水分が吸収されてパサパサになる」のが難点だ。
この問題の解決策として、陸自と空自では、色鮮やかなコンペイトーを乾パンの袋に同封した。
乾パンと交互に食べることで唾液の分泌を促してくれるうえに、糖分による疲労回復や、ほどよい甘さによるリラックス効果も期待できるからだという。
夏の「遠泳訓練」で教官が投げ込む「氷砂糖」
海自では、新入隊員が最初に配属される教育隊から幹部候補生学校まで、水泳が必修科目だ。
特に「海面訓練」と呼ばれる遠泳は伝統行事の1つ。隊列を組んで長距離を泳ぐことで、心身の鍛練と連帯感の育成を目的に行われる。
広島県江田島地区にある第1術科学校では、江田島湾において「5マイル遠泳」が実施される。
途中、泳ぐ学生たちに向け、伝馬船上の教官から栄養補給のための乾パンや氷砂糖などが投げ込まれる。
立ち泳ぎをこなしつつ、懸命にキャッチする姿は、まるで餌付けされるコイのようなんだとか?
入間基地と和菓子店がコラボした「C-2配備記念」の上生菓子
埼玉県川越市にある1887年創業の老舗和菓子店、「くらづくり本舗」。この店では、四季の移ろいを表現した上生菓子をデザイン・販売している。
2021年4月には、空自入間基地の『C-2輸送機配備記念コラボ』として、入間基地内限定で販売している上生菓子を全店舗にて予約販売し、話題となった。
菓子は「C-1」輸送機、「C-2」輸送機、「C-2」の愛称であるブルーホエール(シロナガスクジラ)をイメージした3種類がセット。
入間基地が監修したパッケージは、広げると入間基地の滑走路に。パッと目を引くキュートなデザインも人気に火を付けた。
鹿児島地方協力本部の「乾パントッツォ」鹿児島
1、2年前にちまたで話題となったイタリア発祥のスイーツ「マリトッツォ」。
この流行を受け、ツイッターで自衛隊風オリジナルメニューを公開したのが、鹿児島地本による「乾パントッツォ」だ。
「マリトッツォ」といえば、ふわふわのパンにたっぷりのクリームを挟んでいるのが特徴。
一方、自衛隊風は、定番のレーションだった「乾パン」にクリームを挟み込んだもの。板状の乾パンで大量のクリームを挟み、きれいに形を整えるのは難易度が高かったが、乾パンの塩味と生クリームの甘味がマッチして、想像以上のおいしさに仕上がったそう。
ただし、時間がたつと乾パンの食感が変わってしまい、イマイチになるのだとか。自分で作ってみる場合は、すぐに食べたほうがよさそうだ。
基地や駐屯地の売店、イベントで買える人気のお菓子「守るぞニッポン」
防衛省や自衛隊の基地、駐屯地の売店、航空祭などの自衛隊のイベントで、食品や自衛隊関連のグッズの販売をしている「源氏屋」(神奈川県)に、売れ筋のお菓子を聞いたところ、以下に紹介する2品が挙がった。
これらは、隊員が家族や知人へ買ったり、訓練で基地や駐屯地を訪れた他部隊の隊員がお土産として買うほか、イベントなどに訪れる一般客にも人気なのだとか。
商品名やパッケージなどにもユーモアを込め、思わず笑顔になるような商品づくりを進めてきたという。源氏屋が扱う商品の一部はウェブサイトでも購入可能だ。
(MAMOR2023年9月号)
<文/真嶋夏歩 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです