スポーツで強くなるためには、練習も大切だが「試合」が欠かせない。「試合」は「練習」に目標を与え、選手のモチベーションを上げ、さらに競うことでしか身に付かないものがあるからだ。
自衛隊についても同様のことが言えるだろう。日々の訓練でどれほど強くなったのか?
陸・海・空各自衛隊には、それを試すさまざまな競技会がある。競技会の種類は、艦艇や航空機、対空ミサイルや戦車を使うものから、隊員食堂で提供する料理の調理技術にまで及ぶとは驚きだ。
マモルでは、陸上自衛隊大宮駐屯地(埼玉県)で行われた、埼玉県内の防衛を担当、首都圏防衛の一翼を担う部隊である第32普通科連隊の各種競技会を取材。この記事では「車両競技会」をレポートする。
自衛隊車両に関する総合能力が問われる種目
一般の市販車とは違う性能を持ち、乗用車とは違う使われ方をする自衛隊車両。その運用に関する知識と技術を競うのが車両競技会だ。
天候などが過酷な条件下でも、整備された道路ではない場所でも、国防のために車両を稼働させる総合能力が問われるのだ。
車両競技会のルール
競技項目は、学科と術科(実技)に分かれている。団体戦は、各中隊から学科担当10人、術科担当10人の計20人でチームを組み、合計点により優勝チームが決定。学科試験は、自衛隊車両の運行上の規則から出題。試験時間は30分、択一の正誤判定形式で解答する。
術科試験は、駐屯地内の指定のコースを走行する運転技術と2人1組で行う運行前車両点検により採点される。使用する車両は小型車、軽装甲機動車、高機動車、そして大型車の4部門に分かれる。個人戦では、団体戦の結果のうち、学科・各車両の部門で優秀成績を収めた隊員が表彰される。
各中隊から選抜された隊員が集結!「車両競技会」の様子をリポート
2日間にわたって実施された車両競技会。初日の学科試験では、各中隊から10人ずつ選抜された、曹士合計70人が競技会場に集合。試験開始ギリギリまで参考書を見ている隊員も。30分の試験時間だが、ほぼ全員が慌てることなく解答を終えた。
2日目は朝から実技の試験。整備庫前では、走行前点検の競技が実施されている。「オイルの漏れなし!」、「量よし!」などと声を掛けながら進めていく。
安全運行のためには普段から欠かせない点検ということもあり、みな慣れた様子でテキパキとこなしていく。
操縦競技は、メイン会場である大宮駐屯地の駐車場で行われた。テープで引かれたラインと、壁代わりに積み上げられた木箱で造られたコースは、狭いクランクや、切り返して方向転換するポイントなど、難易度の高いレイアウトだ。
どの隊員も採点者が助手席に同乗しているせいか、固い表情でスタートを待つ。正確な操縦とタイム短縮を両立するのは簡単ではない。
号令とともにスタートすると、コース随所に配置された計5人の審判が、コースから脱輪するとすぐさま赤旗を上げる。
全く脱輪せずに走れる隊員は多くない。中隊ごとののぼり旗を掲げた隊員たちが、選手たちの大胆かつ繊細な運転を見守り、声援が会場をにぎわせた。
優勝者に聞いた、勝利の秘訣とは?
第5中隊の嘉悦拓磨3曹は「団体での優勝、本当にうれしいです。勝因は、各車両の運転手を得意な隊員にしたこと、指導員に操縦の見本を見せてもらい到達点を明確にして練習に励んだことにあると思います」と話す。
<文/臼井総理 写真/荒井健>
(MAMOR2023年9月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです