スポーツで強くなるには、練習も大切だが「試合」が欠かせない。「試合」は「練習」に目標を与え、選手のモチベーションを上げ、さらに競うことでしか身に付かないものがあるからだ。
自衛隊についても同様のことが言えるだろう。日々の訓練でどれほど強くなったのか?
陸・海・空各自衛隊には、それを試すさまざまな競技会がある。競技会の種類は、艦艇や航空機、対空ミサイルや戦車を使うものから、隊員食堂で提供する料理の調理技術にまで及ぶとは驚きだ。
マモルでは、陸上自衛隊大宮駐屯地(埼玉県)で行われた、埼玉県内の防衛を担当、首都圏防衛の一翼を担う部隊である第32普通科連隊の各種競技会を取材。この記事では、連隊内にある7つの中隊がチームを作りしのぎを削る、隊員たちの団結と、緊張と高揚、熱気に満ちた「バトラー射撃競技会」をリポートする。
相手を排除しながら前線を押し上げろ!トーナメント方式の部隊対抗戦
第32普通科連隊の戦闘力を高めることを目的として、大宮駐屯地(埼玉県)で行われた競技会をリポート。空包とレーザーによる判定装置を使ってバリケードなどが配置されたフィールドで撃ち合い、連隊内で最も強いチームを決める戦いだ。
各中隊から選出された全20チームによるトーナメント方式で行われたバトラー射撃競技会。8人のチームワークはもちろん、個々の射撃技術、どう攻めるかといった戦術面も勝敗を分ける。
選手は陸曹と陸士で構成され、陸士を3人以上含むことが条件になるなど、戦闘要員を鍛えることが主眼に置かれている。フィールドの周りには、各中隊ののぼり旗を持って応援し後輩を見守る隊員たちの姿も目立った。
バトラー射撃競技会のルール
幅約120×縦約220メートルの「戦場」で各8人の2チームが両サイドに分かれて戦う。各隊員はレーザー送受信装置(バトラー)をつけ、レーザーを撃ち合う。銃から発射されたレーザーが体の受信装置に命中するとバトラーが軽傷・重傷・死亡などを判定。重傷・死亡判定が出た隊員は退場となる。
12~15分の競技時間内に、敵陣にある旗を奪取すると勝利。時間内に決着がつかない場合は、審判がバトラーの記録や実際の進出した距離を判定し、倒した数、味方の残存人数とともに点数化し、高いほうが勝利となる。
バトラー装備とは?
バトラー装備は、レーザー受信装置とレーザー送信装置によって構成される。
レーザー受信装置
敵が発したレーザーが受信装置に当たると軽傷・重傷・死亡などの判定が自動的に行われ、左胸に装着されたディスプレーに結果が示される。
ヘルメットや防弾チョッキにはレーザーの受信装置が取り付けられている。レーザーが命中すると胸部のディスプレーに情報が送られる。
レーザー送信装置
小銃の先端に装着されるレーザー送信装置。競技会では、空包の発射と同時にレーザーが送信されるよう設定され、実弾さながらの迫力だ。
「バトラー射撃競技会」をリポート!勝つのはどっちだ?
フィールド内には双方のチームに違反がないか監視する6人の審判、仮設で設けられた統制本部には7人の審判が待機している。審判の「状況開始!」の合図とともに、両チーム全員がダッシュ。有利なポジションを取りにいく。
撃たれないようバリケードに隠れながら、敵がどこにいるかを索敵する。
「2枚前のバリケードに1人!」など味方同士声を掛け合いながら、隙をみて前進。実力伯仲の試合は相手の陣地を攻めとって旗を奪うまでには到らず、敵を撃破しつつどこまで前進できたかで勝敗が分かれた。パン!パン!と空包の音が響くなか、はいつくばって隠れながら戦局をつかもうとみな必死だ。
タイムアップとともに、審判のホイッスルが鳴らされ「状況終了」。戦場にいる隊員は全員その場にとどまり、審判の判定を待つ。
その後、安全処置のために未使用の空包を返納し、試合結果が発表されると、双方によろこびや落胆の色が浮かんだ。
優勝者に聞いた、勝利の秘訣とは?
第1中隊の日笠山翔士長は「勝因は隊員間の認識の共有と『声出し』にあったと思います。練習期間が短い中、集中できる環境を作ってくださった先輩やメンバーのおかげで、戦う基盤を作ることができたと思います」と話す。
<文/臼井総理 写真/荒井健>
(MAMOR2023年9月号)