わが国の領海に侵入する潜水艦を阻止するため、365日24時間、哨戒部隊が実任務として、警戒監視活動を行っている。
最前線で戦う隊員を育てている第203教育航空隊の教官に、P-3Cの搭乗員それぞれの役割とその重要性を聞いてみた。
P-3C
潜水艦や不審船舶の監視を行う哨戒機。機動力が高く、広い範囲を捜索できるため、遠方の警戒・監視を担当する。
<SPEC>全幅:30.4m 全長:35.6m 全高:10.3m 全備重量:約56t 巡航速度:約645km/h 最大速度:約730km/h
操縦士
戦術航空士の戦術を理解し、目標地点に先回りして飛行
戦術航空士の組み立てる戦術を理解し、最適な飛行経路を考えながらP−3Cを操縦することが求められます。
どの位置にソノブイ(水面に浮き、キャッチした音波の情報を航空機に送信する授波器)を落とし、そこにどのタイミングで進入するのかを秒単位で正確に把握し、先回りして飛行するよう心がけているのです。
一方、任務達成のためには安全な飛行が第一なので、悪天候や夜間での低空飛行などを実施する際にはとくに注意を払い、「必ず基地に帰る」という思いを学生に伝えています。
戦術航空士
機内のブレーンとして、潜水艦探知に最適な戦術を提案する
P−3Cに搭乗する各搭乗員からの情報を的確に評価・処理し、彼らと連携しながら、任務遂行のための戦術と手順を考えるのが戦術航空士(TACCO:Tactical Coordinator)の主な仕事です。搭乗員間の意思疎通と認識の統一をさせる重要なポジションです。
各搭乗員が欲する情報を推測するなど、常に相手の目線でコミュニケーションをとるようにと指導しています。それぞれの役割を全うしてもらうため、機内のブレーン的な存在としてしっかりと指揮統率できる能力が求められます。
音響員
潜水艦の発する小さな音も聞き逃さずに捜索・探知を行う
ソノブイの音響情報を分析して潜水艦の捜索を行うことが音響員の役割です。
潜水艦が発するどんな小さな音でも聞き逃さないようにするため、諸外国の潜水艦に関する音響情報を日々、収集し、識別できるよう研究しています。
日本近海は海底の地形や海流が複雑なので音の反響が多様であり、また、国籍問わず商船・漁船などが航行してさまざまな音を発しているので、潜水艦の信号を聞き分けるのは大変ですが、どんなに困難な状況でも職責を全うするように教育しています。
非音響員
各種センサーを駆使して潜水艦の捜索・探知を行う
レーダー、赤外線カメラ、電波探知装置、磁気探知装置などの非音響機器を駆使して潜水艦を捜索するポジションです。
とくに潜水艦を捜索する際は、潜望鏡などが海面上に出るわずかな時間を捉えなければならず、長時間の飛行の中で一瞬のチャンスを見逃さない集中力が求められます。
また、レーダーにより悪天候やほかの航空機などを把握する航空機の目として操縦士や戦術航空士と確実な意思疎通をすることで、安全に任務を完遂できるよう教育しています。
航法・通信士
情報の速やかな通信と確実な航法の実施を担う
潜水艦を探知した場合、その情報をさまざまな通信機器によって速やかに基地の作戦室に報告すること。そして、潜水艦を捜索しているエリアにおける自機と目標の位置情報を、航法システムやチャート(地図)によって把握することが、対潜戦中の航法・通信士の主な任務です。
また、航行中の航空機の位置や針路などを正確に認識して、確実な航法を実施する役割もあるので、安全な飛行を徹底する、という信念のもと、教育に取り組んでいます。
機上整備員
任務遂行の基本となる安全な飛行を確保
任務遂行の基本となる飛行の安全性を最重視し、エンジン計器の監視や、燃料の残量チェックなどを行うのが任務です。
飛行システムの不具合への対処も仕事の1つなので、航空機マニュアル「フライトハンドブック」や各機器の説明書を繰り返し読み、手順を確認するよう指導しています。
また、「燃料の1滴は血の1滴」といわれるほど燃料は重要で、残量計算を間違えると帰投できなくなる恐れがあるので、常に危険な状況を意識して任務に当たるよう教えています。
機上武器員
機内会話を傾聴し次を予測・準備
ソノブイをはじめ、魚雷や機雷、ミサイルなどP−3Cが搭載する全ての武器の管理、搭載を実施します。洋上の監視を行う際には、艦船の識別と写真撮影も担当します。
常時、機内の会話に耳を傾け、状況を判断して次の作業を予測・準備し、ほかのポジションの任務や思考を知るようにして、作業の円滑化を図ることが大切です。
ソノブイ発射に使用する火薬など、危険物の扱いにはとくに注意し、安全・確実を心がけるよう伝えています。
機上電子整備員
電子機器全般の点検・対処を担当
機外と機内の飛行前点検を実施し、通信・戦術システムや音響センサーなどの電子機器に不具合がないか確認。フライト中は機外の監視と、機器に不具合が生じた場合の対処を実施。
どんな不具合にも対処できるよう、情報交換を欠かさないよう教えています。何でも相談・解決できるカスタマーセンターのような存在ですね。
(MAMOR2023年7月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/魚本拓 写真/星亘(扶桑社)>