第1次世界大戦で歴史の表舞台に登場してから100年以上経過した戦車。大きな攻撃力を持つ大砲、堅い装甲、そして荒れ地も乗り越える履帯による機動力を持つ「陸戦の王者」はどのように戦うのか?その一例を紹介しよう。
戦車の主任務は、敵戦車を排除すること
戦車の戦いは、味方にとって脅威となる敵の装甲兵力、特に敵戦車を撃破することに主眼が置かれる。戦車の理想の戦い方は、敵がこちらに気付く前に発見して撃破すること。そのためには、目立たないようにぎ装したり、攻撃しやすい場所に隠れて陣を構え、有利な態勢を作ることが求められる。
一例として、ウクライナ軍がドネツク州のブフレダル地域で2023年2月、3週間にわたる戦闘で多数のロシア軍戦車を撃破したとする戦いを挙げよう。
ロシア、ウクライナ間の戦車戦の一例
ウクライナ軍は、ロシア軍が隊列を組んで進む道路の周辺の森にぎ装して潜み、道路以外の平原には地雷を設置してロシア軍が特定の道路を進むように誘導。進軍したロシア軍は、戦車や対戦車ミサイルを含むウクライナ軍から待ち伏せ攻撃を受けた。
この奇襲攻撃にロシア軍は混乱。退却する道路にもウクライナ軍は戦車を待ち伏せさせて攻撃。少なくとも130両以上のロシア軍戦車などが撃破されたと報道されている。
戦車だけでは弱い!? 他職種と協力して戦う
戦車の戦いというと平原や砂漠地帯のような広い場所で戦車が撃ち合いをするイメージを持ちがちだが、実際には戦車だけで戦うことはほぼない。
例えば1973年の第4次中東戦争では、戦車だけで構成されたイスラエル軍の大部隊が、戦車や対戦車ミサイルを装備したエジプト軍部隊に待ち伏せされ、数分で壊滅した事例もある。戦車は強いが無敵ではないのだ。
戦車は堅い装甲で囲まれている分、視界が狭い。音も姿形も大きく、敵から見ればいい標的となる。戦車の死角をカバーし敵歩兵の攻撃を排除するためにも戦車と歩兵の協力が必須。これを「歩戦協同作戦」といい、敵の位置情報などのデータを共有(データリンク)し連携する。
さらに戦車がスムーズに進撃できるよう、地雷原の処理や壊された橋の修復など、土木・建築などに特化した「工兵」ともデータ共有で連携する。これら複数職種が一体となって作戦を行うことを「諸兵科連合」という。戦車だけでも強いといえるが、それだけだと弱点も多い。戦車と共に行動する歩兵や工兵などと連携するからこそ、有利に戦えるのである。
戦車の戦い方(1):射撃方法
通常、戦車の射撃は停止した状態で撃つが、10式戦車などは走りながら射撃する「行進射」が可能。直進しながら射つ「直行行進射」や、敵の的にならないよう蛇行(スラローム)をして射つ「蛇行行進射」などの方法がある。
戦車の戦い方(2):射撃姿勢
戦車戦は丘陵の斜面などの地形を利用して相手に見つからない状態で射撃をするのが有効。自衛隊の戦車は車体の姿勢制御装置があり、その技術は世界有数だ。車体の後部を上げて砲身が相手と水平になるように調整し射撃する。
戦車の戦い方(3):射撃陣形
味方も敵も複数の戦車がいる場合、敵戦車の装甲の弱側面を攻撃できることが望ましい。だが、敵戦車の側面が見える位置に移動しようとすると敵の僚機に自機の側面を狙われる危険がある。そのため、斜め方向から対角線上に射撃をする交差射(英語ではクロスファイアと呼ばれる)で攻撃し、できる限り相手の側面に当てるのが効果的だ。
戦車の戦い方(4):戦車と歩兵の連携
先回りした歩兵が敵の状況を戦車に報告したり、戦車が討ち漏らした敵に歩兵が近づいて戦車の死角から攻撃を行うなど、戦車と歩兵がお互いの情報を共有し連携して戦う。
<文/臼井総理 写真/林紘輝 イラスト/ナーブエイト 撮影協力/タカラトミー・Catwo・Aby・箱庭技研>
(MAMOR2023年7月号)