•  かつて「陸戦の王者」と呼ばれた戦車。第1次世界大戦時に誕生したこの兵器は、「時代遅れで21世紀の戦争で使われることはないだろう」と、近年は軍事アナリストらの間で言われてきた。ところがロシアがウクライナに侵攻する際、主力となっているのが戦車だ。対するウクライナも、最新型の戦車の供与を主要各国に要請している。

     戦車が勝敗を決するとでもいうような扱いに、あらためて戦車について考えてみた。

    専門家が選んだ戦車6車種を徹底比較

     報道によれば、ウクライナ軍が装備していた戦車ではロシアの侵攻を止められないと、西側諸国に新鋭戦車の供与を要請したとのこと。

     そんなに戦闘能力の差があるのか?元戦車専門誌編集長の柘植優介さんに世界トップクラスの戦車を選んでいただき、解説いただいた。

    10式戦車(日本):日本が誇る軽量・高機動・高火力戦車

    画像: 写真/防衛省

    写真/防衛省

     国産2代目の戦車である74式戦車のサイズに、耐弾性を向上させた90式戦車以上の性能を詰め込み、日本の道路や国情に合った小型・軽量で高性能な純国産戦車だ。主砲も日本製。独自開発の新素材を使用した複合装甲は防御力も十分。

     モジュール装甲という追加・取り替え可能な装甲システムで、防御力のアップも可能である。

    「データリンク」と呼ばれる高度な指揮通信システムを装備し、戦車同士の情報共有のほか、普通科部隊など、ほかの味方部隊や偵察を行う航空機などと連携することで、より強い戦いができる。

     油圧式サスペンションで車体の姿勢を自由自在に変えられ、蛇行しながら正確な射撃ができるなど安定性も抜群だ。

    M1エイブラムス(アメリカ):実戦経験も豊富。事実上の世界最強戦車!?

    画像: 写真/U.S.Army

    写真/U.S.Army

     120ミリ滑腔砲の攻撃力、堅い劣化ウランで作られたプレートを採用した複合装甲による防御力、機動力の全てが高いレベルでまとまっている。

     特に、機動力を支えるエンジンには、燃費は悪いものの小型で高出力なガスタービンエンジンを採用しているのが特徴だ。湾岸戦争(1991年)、イラク戦争(2003年)での活躍は世界にインパクトを与えたのも記憶に新しい。ほかの戦いでも負け知らず。

     誕生から現在に至るまで絶え間なく改良が加えられている点も見逃せない。そして今も改良中。

     ほかの戦車と比べ導入コストが高いともいわれているが、予算が許すなら各国軍が欲しがる戦車なのだ。

    レオパルト2(ドイツ):ヨーロッパのベストセラー戦車

    画像: 写真/German Army

    写真/German Army

     ウクライナが名前を出して供与を求めたのが、このレオパルト2。44〜55口径の120ミリ滑腔砲は威力抜群で、1500馬力を超えるエンジンを持つパワフルな性能は、M1エイブラムスに比肩する。

     冷戦中、旧ソ連の戦車に対抗するために発展を遂げ、総生産数は3500台以上。冷戦終結後は生産国のドイツなどが保有していた余剰車体が広く流通し、NATO(注1)に加盟した東欧諸国なども採用したことで、現在は20カ国以上が導入するヨーロッパのベストセラー戦車になった。

     各国が保有しているため供与される数をそろえやすいこともウクライナが求めた理由の1つ。

    (注1)北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)。北米2カ国と欧州29カ国の計31カ国が加盟する政府間軍事同盟

    チャレンジャー2(イギリス):堅固な装甲、孤高の存在

    画像: 写真/Alan Wilson

    写真/Alan Wilson

     湾岸戦争で活躍した「チャレンジャー1」の後継機として登場。

     イラク戦争では味方の誤射で損傷した以外、戦いでの損失ゼロを記録し、無敵の名をほしいままに。イギリス戦車の伝統でとにかく「堅い装甲」が特徴。

     しかし、その分ほかの戦車と比べると重くなっている。

     また、他国の戦車が主砲に120ミリ級の滑腔砲を装備する一方で、チャレンジャー2はイギリス戦車伝統のライフル砲にこだわっている。イギリス軍が多用する「粘着りゅう弾」という種類の砲弾を使う場合、ライフル砲のほうが命中精度が高いためだ。

     ちなみに、どこでも紅茶が飲めるよう戦車内に湯沸かし器を装備しているというイギリスらしい特徴も。

    T-90(ロシア):旧ソ連から続くロシアの主力戦車

    画像: 写真/Vitaly V.Kuzmin

    写真/Vitaly V.Kuzmin

     安価で高い性能を持つことから、インド、アルジェリア、アゼルバイジャンなど旧東側諸国を中心に導入している。

     T−72から機動性能や射撃統制性などが向上した。特筆はミサイルや砲弾から戦車を守る「アクティブ防御システム」で、例えば「シュトーラ1」。敵ミサイルのレーザー誘導を赤外線や電子機器などで妨害するシステムだ。125ミリ滑腔砲や対戦車ミサイルを装備した、ロシア戦車の標準的な機能を盛り込んだ戦車。

    T-72(ウクライナ):冷戦時代から使われる旧東側主力戦車

    画像: 写真/Autoevolution.com

    写真/Autoevolution.com

     冷戦中の1971年に旧ソ連で開発。威力の高い125ミリ滑腔砲を搭載し、加えて、複合装甲で防御力も十分。西側戦車のライバルと目されていたが、中東の戦争で西側諸国の戦車に敗れたため「やられ役」の印象がついたのは残念。

     今のロシア・ウクライナの争いでも多数撃破されている。2万両以上生産され東側諸国を中心に40カ国以上が使用。ウクライナ軍の主力戦車だが、なにぶん古いため、より強い西側諸国の戦車を求めている。

    明白な性能差が勝敗を分けるか

    画像: (注2)多くの戦車は燃費が良く高トルクで力の出るディーゼルエンジンを採用。M1エイブラムスなど一部の戦車では飛行機に使われるジェットエンジンに似たガスタービンエンジンを採用しているが燃費が非常に悪い。 (注3)戦車の乗員は車長(車両の指揮官)、操縦手(運転手)、砲手(火器を操作)、装てん手(砲塔などに弾薬を込める役割)の4人。砲手が装てん手を兼ねた3人乗りの戦車には機械が自動で弾薬を込める「自動装てん装置」が装備されていることが多い。

    (注2)多くの戦車は燃費が良く高トルクで力の出るディーゼルエンジンを採用。M1エイブラムスなど一部の戦車では飛行機に使われるジェットエンジンに似たガスタービンエンジンを採用しているが燃費が非常に悪い。
    (注3)戦車の乗員は車長(車両の指揮官)、操縦手(運転手)、砲手(火器を操作)、装てん手(砲塔などに弾薬を込める役割)の4人。砲手が装てん手を兼ねた3人乗りの戦車には機械が自動で弾薬を込める「自動装てん装置」が装備されていることが多い。

     戦車は技術発展に伴い「第○世代」と区別している。現在各国の主力戦車は第3世代と呼ばれ、攻撃力の高い120ミリ級の滑腔砲、鋼鉄やセラミックなど2種類以上の素材を組み合わせた防御性能が高い複合装甲、1000馬力級の強力エンジンによる高機動性が特徴だ。

     さらに通信機能などの電子装備が強化された戦車は、第3・5世代と分類されることがある。ロシア、ウクライナ双方が戦場に投入したT−72は第2世代で、主砲の攻撃力は高いが設計は古く、電子装備も充実した西側諸国の最新戦車と戦うのは不利といわれる。

     ウクライナ軍はイギリスからチャレンジャー2、アメリカからM1エイブラムス、ドイツなど各国からレオパルト2が供与され、これらの投入が戦況を左右する可能性が高い。

    <文/臼井総理>

    (MAMOR2023年7月号)

    ドローンが飛び交う現在の戦争に、戦車は有効なのか?

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