防衛装備品の世界で大きなトランスフォーメーションが起きている今、激変する世界の安全保障環境の潮流に対応した新世代護衛艦『もがみ』がデビューした。なにが先進的なのか、細部にわたってリポートしよう。
高ステルス性、多機能、コンパクトなど、さまざまなキーワードで語られる『もがみ』。従来の護衛艦と比べ、どのような進化を遂げたのか?
その特徴をパーツごとに見てみよう。細かなディテールにまでこだわり抜いた『もがみ』から、未来の艦艇の姿が見えてくるはずだ。
フォルム
従来の護衛艦と一線を画す外観
『もがみ』の最大の特徴は、極端にそぎ落とされ、単純化された独特の外観である。
近くで見ると、艦体表面にはリベットが1つもないのが分かる。特に艦体側面は巨大な斜めの壁で、両舷に前甲板と後部をつなぐ通路はない。レーダー反射断面積(RCS)を小さくするため、全体がレーダーの電波を海面や空にはね返すためのフォルムになっている。
『もがみ』の基準排水量は3900トンと従来の護衛艦である『しらぬい』(5100トン)よりひとまわり小さいが、速力は同じだ。
前甲版
凹凸のないフラット前甲板
ステルス性を高めるために艦体から余計な突起物を一切取り除いた『もがみ』の前甲板は主砲以外に何もなく、フラットになっている。従来艦にあった、停泊するためのいかりにつながれた鎖を巻く機械、「揚錨機」が上甲板に設置されていない。
さらに航海時やステルス性を高める際は、周囲の外柵や自衛隊旗を掲げるための艦首のポールも格納する。これにより、ほかの艦艇などから受けるレーダー波を反射する要素を徹底的に排除し、艦全体のステルス性を高める工夫が施されている。
艦体外装
舷側通路はハッチで隠されレーダー波を空に反射する
『もがみ』は右舷中部に燃料を補給するための給油ステーション、左右両舷に魚雷を発射できる3連装の短魚雷発射管を1機ずつ持っている。
これらの装備品は、従来艦では舷側の甲板上に設置されていたが、舷側通路がない『もがみ』では全て外装内に格納されており、使用するときだけ側面のハッチを開けて、それらの装備品を使えるようにしている。
こうして横から受けるレーダー波を外壁で空に反射させることで、ステルス性を向上させている。
格納区画
小型ボートやコンテナを搭載でき、クレーンも装備
従来艦にない区画として、右舷に「中部汎用区画」、左舷に「複合型作業艇格納区画」がある。
中部汎用区画には、貨物用コンテナが搭載可能で、任務や災害派遣時の物資などを格納することができる。複合型作業艇格納区画には複合型作業艇(小型ボート)を格納でき、洋上から陸への乗員・貨物の輸送や溺者の救助など、訓練や任務での活躍が見込まれる。
両区画には作業用のクレーンが設置され、自力での積み降ろしが可能となっている。
マスト・旗りゅう信号
船体中央部にそびえ立つ「ユニコーンアンテナ」
『もがみ』の象徴ともいえるのが、ユニークな形状をした「ユニコーンアンテナ」だ。
正式には「NORA−50複合空中線」というこの棒状のアンテナは、レーダー反射断面積が少ないだけでなく、従来艦ではバラバラに設置されていた各種周波数の無線機などが1カ所に統合されている。そのため、故障時には、ユニコーンアンテナごと取り換えればよく、修理や配線の接続などにかかる手間が大幅に省ける。
この旗甲板には通信用の旗を掲げる旗りゅう信号のロープも設置されているが、従来は10本以上あったものが『もがみ』には7本しかない。
(MAMOR2023年5月号)
<文/古里学 写真/村上淳>