防衛装備品の世界で大きなトランスフォーメーションが起きている今、激変する世界の安全保障環境の潮流に対応した新世代護衛艦FFM『もがみ』がデビューした。
FFMとは、対潜・防空能力を持ち、揚陸部隊や補給部隊などの護衛を任務とする艦艇フリゲートのFF(Frigate)に多目的(Multi -Purpose)と機雷(Mine)のMを足した多機能護衛艦という艦種である。海上自衛隊のFFMは『もがみ』だけではない。すでに進水した同規格の『くまの』や『のしろ』のほか、さらに数隻のFFMが建造中だ。
新型護衛艦が誕生するきっかけとは? また、従来の護衛艦に比べFFMの強みとは何か?『もがみ』のクルーに話を伺ったので解説しよう。
掃海長:新たに機雷戦が行える護衛艦が誕生
多機能が特徴で従来の護衛艦にはない機雷戦能力を有している『もがみ』だが、鋼鉄の艦体で機雷を安全に捜索・処分するために、USV、UUVという特殊な無人機を搭載する予定だ。
また護衛艦では初めて、機雷処分を実施する「水中処分員(EOD)」も乗艦する。これにより、従来の護衛艦では対応できなかった機雷戦(機雷の敷設や処分など機雷に関する作戦)が行えるようになった。
掃海に関する指揮を行う掃海長の胡真二3等海佐は、「既存の護衛艦では初めてとなる無人機雷排除システムの体制確立と『もがみ』の早期戦力化を図るために、慣熟訓練を繰り返しています」と熱く語る。
船務長:艦内や各機器の状況がCICで一目瞭然
円形に14台のコンソールが並ぶ、近未来的な『もがみ』のCIC。3面式のタッチパネルディスプレーを採用し、これまではオペレーターによって着席するコンソールが決まっていたが、ここではフリーアドレス制になっており、オペレーターの配置が自由になった。少ない人数でも最適な配置で運用できるため、従来艦よりも乗員数を少なくすることができた。
船務長の井上晃志3等海佐は、「これまでの護衛艦では通信員、電測員、電子整備員、機関科員などが別々の区画で勤務していましたが、『もがみ』ではみんなここにまとまって勤務しています」とCICが省人化を体現した形だと説明する。
砲雷長 副長:従来の護衛艦よりも探知されにくい
高ステルス化の追求は、特徴的な外観だけではない。主砲やアンテナの基部も台形、はては艦載ヘリの格納庫に設置された探照灯まで多面体をしていて、細部までとことんレーダー返射断面積低減を図っている。
「従来艦と比べると、側面のハッチを開ける必要があるので、魚雷やいかりなどの運用には、やはり手間がかかってしまいます」。そう語るのは、砲や魚雷など武器関連を総括する砲雷長兼副長の大谷邦雄3等海佐。
「しかし、敵のレーダーから探知されにくいというのは、その手間を上回るほどのメリットです。より重視した『もがみ』のステルス性は、今後の任務において重要だといえます」と強調する。
艦長:今後配備されるFFMのパイオニア的存在となる
旧来の護衛艦にはない『もがみ』の強みとは何か?その質問に『もがみ』全体の指揮や統制を行う艦長の関健太郎2等海佐は答える。
「平時は増大する警戒・監視活動に従事し、有事においては対潜戦、対空戦、対水上戦など各種の任務ができる。さらに、これまでは掃海艦艇が担っていた対機雷戦機能も有しており、従来の護衛艦に比べ多様な任務への活用が可能でありながら、船体がコンパクトで少人数で運用している。それが最大の特徴です」
最新鋭艦ということで、とかく艦体構造や新規装備品が話題になりがちな『もがみ』だが、関2佐はそれらを運用するために励んでいる乗員にも注目してもらいたいと力強く語る。
「『もがみ』の後に何隻も控えているので、続くFFMの道標になれるように、航跡をしっかりと残すのが1番艦の乗組員の使命です。みんなにはそうした気概を抱いて、パイオニアになれる喜びを感じながら勤務してほしいですね」
(MAMOR2023年5月号)
<文/古里学 写真/村上淳>