•  企業や官庁など多くの組織では年齢が上がったり、役職が上位になると現場から離れ管理=デスクワークが仕事の中心になっていくことが多い。トラブルなどが起きて急遽、現場に駆り出され右往左往する管理職を見たことはないだろうか?

     自衛隊では、階級が上がっても「常時臨戦態勢」を保持している。毎年の体力検定で屈強な肉体を維持し、射撃訓練などで技能を磨き続ける。それは航空自衛隊の戦闘機パイロットも同じだ。

     現場を離れた隊員のパイロットとしての技量を保持するための教習所ともいえる「支援飛行隊」。ときには自分より高位の「訓練生」を「指導」する場合もあるというちょっと変わった部隊「中部航空方面隊司令部支援飛行隊(以下:中司飛)」をリポートしよう。

    飛行訓練に1日密着!これが中司飛の技量維持飛行訓練だ!

    画像: 飛行訓練に1日密着!これが中司飛の技量維持飛行訓練だ!

     中司飛の任務の1つである、練習機T-4を使用した管理職などの操縦者の飛行訓練は、教官のパイロットである「検定操縦士」との2人1組で実施される。この訓練は、どのように行われているのか。訓練の開始から終了までを取材した!

    8:00 気象ブリーフィング

    当日の気象情報を気象幹部が提供する

    画像: 気象ブリーフィングでは、入間基地周辺の前日からの雨量や雲の状態を説明。また今後予想される天気の移り変わりや風向、風速、気温、視程(大気の見通し)などの気象情報を提供する。

    気象ブリーフィングでは、入間基地周辺の前日からの雨量や雲の状態を説明。また今後予想される天気の移り変わりや風向、風速、気温、視程(大気の見通し)などの気象情報を提供する。

    「気象幹部」が飛行訓練を実施するパイロットを前にして「地上天気図」などをモニターに示しながら、入間基地のある関東周辺の天気や各飛行場の気象情報について解説。その後、指揮所幹部が入間基地上空を航行する飛行機の交通量について説明。最後に飛行隊長がフライトにあたっての注意事項を伝達した。

    8:10 プリブリーフィング

    安全のための基本事項やミッションを確認する

    画像: 飛行訓練の内容が記載された「ミッションカード」

    飛行訓練の内容が記載された「ミッションカード」

    画像: 「ミッションカード」を指し示しながら「プリブリーフィング」は行われる。内容はその日に行われる訓練から緊急時の役割分担の確認にまで及ぶ 写真/SHUTO

    「ミッションカード」を指し示しながら「プリブリーフィング」は行われる。内容はその日に行われる訓練から緊急時の役割分担の確認にまで及ぶ 写真/SHUTO

     飛行訓練を受ける山田2佐と教官の井川3佐による「プリブリーフィング」に移行。天候や滑走路の状況を確認した後、その日のミッション「離着陸(タッチ・アンド・ゴー)」の回数などを決定。最後に「本日はお願いします」と声を交わして2人は席を立った。

    駐機場まで自転車で移動

    被訓練者用の自転車で入間基地内を移動

    画像: 駐機場へ向かう山田2佐。広大な入間基地内では、多くの隊員が自転車を利用しているが、中には「マイ自転車」を持っている隊員も。VIPが飛行訓練を受ける際は自動車で移動することもある 写真/SHUTO

    駐機場へ向かう山田2佐。広大な入間基地内では、多くの隊員が自転車を利用しているが、中には「マイ自転車」を持っている隊員も。VIPが飛行訓練を受ける際は自動車で移動することもある 写真/SHUTO

     入間基地は空自のなかでも最大規模の敷地面積を誇る。そこで、基地内の移動は自転車を使用している。中司飛は被訓練者用に自転車を用意している。

     山田2佐は「年飛車9号」と書かれた自転車にまたがり、1キロメートル先にある駐機場まで移動した。

    8:55 装備品の受領

    ヘルメットや酸素マスク・救命胴衣を着用する

    フライト用の装備品が体にしっかりフィットしているか点検する整備員。安全な飛行のため、装具一式は毎日整備員の手によって点検・確認されている

     駐機場へ移動する前に立ち寄るのは「救命装備品整備室」だ。ここで2人はフライトに必要なヘルメットや酸素マスク、パラシュートにつなぐトルソーハーネス、一体型の救命胴衣を受領。整備員は山田2佐の耐Gスーツや救命胴衣が着用できているか入念に点検した。

     ヘルメットは自分専用のものを使用している。隊員ごとにデザインを変えて自分のものだと分かりやすく工夫する。井川3佐はブルーインパルス時代に使っていたものを使用。

    9:00 練習機へ向かう

    画像1: 写真/SHUTO

    写真/SHUTO

     エプロンに駐機するT-4へと向かう山田2佐と井川3佐。前方に見える練習機の周りでは整備員が入念に機体の最終チェックを行っている。

    9:05 飛行前の点検

    フライトの前に各種点検を実施

    画像: フライト前には機体の内部・外部をパイロットと整備員が連携して入念にチェック。不具合の見落としなどがないよう、リストにそって点検する 写真/Yuh

    フライト前には機体の内部・外部をパイロットと整備員が連携して入念にチェック。不具合の見落としなどがないよう、リストにそって点検する 写真/Yuh

     駐機場に着くとパイロットは整備員とともにT−4の飛行前点検を行う。機体の表面に異常がないか確認する外部点検やエンジンなどをチェックする内部点検はもちろん、パネルの締め忘れや、エンジンの空気取り入れ口の中に鳥などが入り込んでいないかまで入念に点検する。

     点検が終わると、機長となる井川3佐と整備員が、航空機の機種や実施される任務、出発・帰投の時間などが記載されている「航空機飛行記録」に署名。その後、山田2佐と井川3佐はT−4に乗り込み、左右のエンジンをスタート。

    画像2: 写真/SHUTO

    写真/SHUTO

     滑走路へと移動する前に「プリタクシー・チェック」が行われた。プリタクシー・チェックとは航空機の速度を調整するスピードブレーキ、機体の姿勢などを制御するためのフライトコントロールシステムなどの動作確認だ。この作業は機体の正面に立った整備員とパイロットが手信号を交わして行われる。

     こうしてフライトの準備が完了したT−4は、誘導路へと向かう。エンジン音がとどろくと、整備員は敬礼してパイロットたちを見送った。

    9:10 練習機へ乗り込む

    画像3: 写真/SHUTO

    写真/SHUTO

     飛行前点検が終わったT-4は誘導路へ。出発を見送る整備員に、パイロットは手を振って応える。

    9:20 上空の訓練へいざ出発!

    その日のミッションとなる、「離着陸」の飛行訓練を実施

    画像: 好天に恵まれる中、山田2佐の操縦する練習機が約1時間に及ぶ飛行訓練のため、ごう音を響かせてテイクオフした

    好天に恵まれる中、山田2佐の操縦する練習機が約1時間に及ぶ飛行訓練のため、ごう音を響かせてテイクオフした

     T−4は滑走路に他機や危険物がないかなどの最終確認を終えたら、いよいよテイクオフとなる。上空での訓練には、さまざまなパターンがあり、例えば、目視による有視界飛行のほかにも、操縦席の計器を頼りに機体の速度や姿勢、高度などを維持して飛行する計器飛行方式の訓練、ときには松島基地や那覇基地といった他基地へ飛行する訓練を行うこともある。

     訓練のなかでも重要視されているのは離着陸(タッチ・アンド・ゴー)だ。航空機事故の多くは離着陸の間に多く発生しているという。なぜなら、離着陸時には計器類を確認しながら管制官と多くの交信をしなければならず、そこへ天候不良などが重なると、事故につながりやすいという。

     この日のミッションも、離着陸訓練が行われた。T−4は同訓練を行なったあと、テイクオフから約1時間後に入間基地へと帰投した。

     飛行訓練では、離着陸訓練や管制官が着陸のための進入角度などを誘導する精密進入の訓練、アクロバット飛行などのメニューが行われる。

    上空で行う訓練の主なメニュー

    ・計器飛行
    ・離着陸
    ・アクロバット飛行 など

    10:20 1時間後、無事着陸

    画像4: 写真/SHUTO

    写真/SHUTO

     飛行場に帰投し、飛行後点検を終えた山田2佐と井川3佐は練習機を後にしてオペレーション室へと戻る。

    10:40 デブリーフィング~11:00 訓練終了

    ミッションの達成度を意見交換して終了

    画像: デブリーフィングでは、訓練成果や教訓などを話し合い、本日の訓練は無事に完遂された。その後、お互いにねぎらいの言葉を掛け合った 写真/SHUTO

    デブリーフィングでは、訓練成果や教訓などを話し合い、本日の訓練は無事に完遂された。その後、お互いにねぎらいの言葉を掛け合った 写真/SHUTO

     無事に訓練を終えたT−4は駐機場に戻り、整備員の誘導により元の位置に停止した。駐機場ではパイロットと整備員で飛行後点検を実施し、機体に損傷がないかなどを確認する。その後、山田2佐と井川3佐は、再び「救命装備品整備室」に移動。ヘルメットや酸素マスクなどの装具を返却した。

    画像: ミッションの達成度を意見交換して終了

     オペレーション室に戻った両氏は、すぐに「デブリーフィング」を開始。離着陸訓練の達成度、訓練の成果や今後の課題について話し合い、お互いに情報を共有する。こうすることが、技量維持のためには重要となるのだ。

    (MAMOR2023年4月号)

    <文/魚本拓 写真/村上由美、Yuh、SHUTO>

    空自パイロットは生涯・臨戦態勢

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