世界各国にある日本大使館などには、軍事情報の収集や防衛協力の交渉などを行う「防衛駐在官」(以下防駐官)と呼ばれる自衛官が赴任しています。防駐官は、現場でしか収集できない“生きた”情報を得るために、さまざまな交流を行っています。家庭でのパーティーも重要な手段。防駐官の家族も“外交官”となって、各国のお客さまをもてなし、信頼関係を深め、さらに日本の文化を世界に伝える役目を果たしているのです。
その日本の“おもてなし”が、世界で賞賛されているようです。家族一丸となって世界の客人を魅了する、防衛駐在官とその家族の“おもてなし術“を紹介します。
世界各国で活躍する自衛官防衛駐在官とは?
ロシアによるウクライナ侵略や南シナ海への中国の進出など、緊迫化している世界情勢の中で、わが国の平和と安定のための正確な情報収集やその分析が求められている。はじめに、これらの一翼を担う防衛駐在官の任務について紹介をしよう。
防衛駐在官の別名は“制服を着た外交官”
防衛駐在官(以下:防駐官)とは防衛省から外務省に出向した自衛官で、外国にある日本大使館などの在外公館に駐在・勤務し、外務事務官として防衛に関する事務に従事する者を指す。任に就く際には自衛官としての階級を保持し、自衛官の制服を着用するなど、外交官と自衛官、2つの側面を持っている。
主な任務は軍事情報の収集だ。各国の軍・国防当局や他国の駐在武官団などとの交流を通じ、軍同士の関係だから入手できる情報を入手する。また、わが国の防衛政策に対する国際的な理解を深めるための活動や各国との防衛協力、装備協力などの調整業務も駐在官は担っている。
防駐官の歴史は古く、19世紀ごろには各国で認められるようになったという。わが国の防駐官制度の発足は1954(昭和29)年で、防衛庁(当時)・自衛隊の誕生と同時にアメリカへの派遣が最初であった。
2022年度にはカナダへ新たに防駐官が派遣され、23年3月現在、50の大使館と2つの国際機関の代表部(アメリカ・ニューヨークの国際連合とスイス・ジュネーブの軍縮会議)に73人の防駐官が派遣されている。これは13年度の49人体制に比べ、約1.5倍になっている。
年々重要度を増す防衛駐在官の役割
近年では国際平和協力活動や国際緊急援助活動など、自衛隊が海外で活動する機会がある。その際に部隊活動が円滑に進むよう、受け入れ先の国との調整や準備をするのも防駐官の大切な役割だ。
20年4月には、海上自衛隊のP−3C哨戒機がソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動の任務を終えジブチから日本に帰国する際、新型コロナウイルスの影響で各国が寄航と給油を断るなか、ベトナムは許可を出した。これによってP−3Cは帰国のルートを確保することができた。
ベトナムに寄航後にエンジンの不具合でP−3Cが離陸できなくなると、日本から追加派遣された整備員の入国許可や、P−3Cの交換用エンジンを積んだ輸送機の受け入れなどが必要になり、これもベトナムは快諾した。スムーズに手続きが進んだのは、防駐官がベトナムのさまざまな政府機関、軍事関係者と公私にわたり築いてきた、信頼関係が一助になっているといっていいだろう。
今般のロシアによるウクライナ侵略においても、防衛省・自衛隊、内閣府PKO事務局および各国の軍隊並びに国際機関の関係者とともに、ウクライナの防駐官が同国への装備品などの提供や物資輸送に関する現地の活動に携わった。
偽情報などが飛び交う“情報戦”が繰り広げられる現代戦において、政府発表やメディアなどから得た情報だけでは現地の状況を正しく認識することは困難だ。このため、防駐官が現地の軍事関係者などから入手した情報と合わせ現地情勢などを判断することが、重要になっている。
<文/真嶋夏歩>
(MAMOR2023年6月号)