自衛隊では、階級が上がっても「常時臨戦態勢」を保持している。毎年の体力検定で屈強な肉体を維持し、射撃訓練などで技能を磨き続ける。それは航空自衛隊の戦闘機パイロットも同じだ。
今回取材した飛行訓練では、席が2つあるT−4の前席に訓練を受ける管理操縦者が搭乗。後席には、「検定操縦士」の資格を持つ同隊の隊員が教官として搭乗し、管理職などの操縦者の技量点検=チェックを行う。そんな「技量維持飛行訓練」に、参加した自衛官の感想を紹介しよう。
訓練を終えた感想は?被訓練者と教官パイロットに聞いた
安全なフライトを行うために積極的に考えを伝えている
現在は、航空幕僚監部の情報任務に携わっている、山田2佐。月に1度のフライトは、普段のデスクワークから頭の切り替えが必要なため、飛行訓練は毎回緊張感をもって臨むという。
「今日は天気が良く、安全にフライトできました。ですが、天候が悪い場合に、機体の進路や高度の保持、姿勢の把握に誤りがあれば事故に直結するので神経を使います。」と訓練の感想を話す。
心掛けていることを聞いてみた。「パイロットは毎日フライトしていないと操縦の感覚がにぶります。ですから、訓練前は操縦の手順を再確認し、入間基地周辺の天候をあらかじめ把握するなど、落ち着いてフライトに臨めるよう、入念に準備しています」。
また、機長に対して意識していることがあるという。「安全なフライトを行うためには機長との円滑な連携が必須です。飛行中は次に行うアクションを積極的に伝え、意思疎通をスムーズに行えるようにしています」。
最後に大切にしていることを聞いた。「訓練は常に謙虚な気持ちで臨み、基本に忠実なパイロットでありたいと思っています」。
階級や年齢にかかわらず率直に意見を言うことが大切
「山田2佐は訓練の連携がスムーズで、安心してフライトをすることができました」。と教官パイロット、井川3佐は感想を話す。
「ですが、被訓練者の中にはフライトの感覚を忘れていて、操縦の手順に“抜け”のある人も当然います。そのためにも、何があっても対処できるよう、上空では広く視野を持って周囲に目を配り、つねにセンサーを張り巡らすようにしています」。
さらに、訓練中に気がついたことがあったら、すぐに「指摘(余計な一言)」を言うようにしていると、井川3佐。飛行訓練では、被訓練者と教官パイロットとのコミュニケーションが重要とのこと。
「CRM(注)の概念に基づき、同乗するパイロットの持つ技術や状況判断などの人的資源を最大限に活用するため、話を聞き逃さないことが重要です」。聞き取りづらかったところは「もう一度言ってください」と聞き直すという。
「安全な運航のためには、階級の高低や年齢の上下ではなく、たとえ相手が幕僚長であっても適切に助言し、ちゅうちょなくオーバーライドをしなければなりません」と、井川3佐。
(注)CRM(クルー・リソース・マネジメント)」とは、航空機を安全で効率的に運航するために、パイロットをはじめとしたスタッフたちの技術や知識、情報、状況判断などの人的資源を最大限に活用するという考え方
操縦感覚を取り戻すために必要なことは
飛行訓練前のイメージトレーニングと操作手順の確認を怠らないことが大事
【中部航空方面隊司令部 防衛部運用課長 猪山卓 2等空佐】
航空機は一度テイクオフしてしまうと立ち止まって考えることができません。パイロットは、つねに次に行うことや少し先のことを考えながら飛行し、外の様子を見たらすぐに各計器を順次チェックする「ワングランス・ワンチェック」と呼ばれる行動をとります。
機体の姿勢や速度、高度、針路、推力などに常に目を配りながら操縦しなければなりません。操縦感覚を取り戻すことが大切なので、飛行訓練前はイメージトレーニングと操縦に関する基本の手順の確認を怠らないようにし、訓練に臨んでいます。
(MAMOR2023年4月号)
<文/魚本拓 写真/村上由美>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです