憧れのパイロットを目指し、高い倍率を突破して自衛隊の「航空学生」になった若者たち。入隊後、彼らはどんなことを考え、どんなことを楽しみに日々を過ごしているのだろうか。現役学生の中から、1学年と2学年の男女5人の学生に「ホンネ」を聞いてみた。
任務を遂行し“役に立つ”優秀なパイロットになってみせます!
【小山田真衣学生】
高校在学時、学校での公務員説明会で航空学生に興味を持ったという小山田学生。「ヘリのパイロットになって、災害派遣など人の役に立つ仕事がしたいと思いました」と志望動機を語る。
入隊後一番大変だったのは時間に追われる生活に慣れることだった。
「最初の1カ月を導入期間といいますが、この間は理不尽なくらい時間に追われまくっていました。やることの時間配分も分からず苦労しました。特に、食事が遅かったのと、制服のアイロン掛けに時間がかかって……。半年もたてば慣れましたが、最初は本当に大変でしたね」
日々一番の楽しみは、1日の課業を終えてベッドに入る瞬間だという。これまでの航空学生生活でうれしかったのは、区隊(注1)対抗の水泳競技会で優勝し、それに貢献できたこと。「水泳は得意なほうなので、仲間と勝つことができて本当にうれしかったです」。
パイロットとして次なるステップへ進むために、1日1日を無駄にせずに、自学研さんに努めたいと語る小山田学生。彼女は航空学生になる前も自衛官として部隊勤務経験がある。
「部隊の先輩たちを見て、『使える』隊員にならないといけないと強く思いました。今後私も『使えるパイロット』になりたいと思います」
(注1)2学年は1〜3区隊、1学年は4〜6区隊と、学年ごとに各3区隊に分かれている。競技会では、1、2学年混合の1・4区隊、2・5区隊、3・6区隊がチームとなって競う
松本がいたら大丈夫!と人間的にも信頼されるパイロットになる!
【松本圭右学生】
もともとはエアラインパイロットを目指していたが、映画『トップガン』の影響で自由に飛べる戦闘機パイロットに憧れ、航空学生を受験したという松本学生。同じ空自のパイロットになるなら、最も早く航空機に乗れ、長く現場で活躍できる航空学生を、というのが志望動機だ。
「入隊前には、日々の生活は大変だろうと想像していましたが、実際にやってみると、何ごとも同期と協力して乗り越えることができたのは、大きな発見でした」
そんな松本学生が一番苦労したのは、規則や日々の生活上の「しつけ」など、基本を手抜きせず確実にやり続けることだという。
「例えば日々やっているベッドメークなども、慣れるにしたがって少し緩みが出てきてしまいます。それをきちんとし続けることは大変でもありますね」
彼の学生生活上の楽しみは休日だ。「同期の影響で始めた釣りも好きですね。仲間と海釣りに行くこともあります」。ここまでの学生生活で一番うれしかったことについては、10月に行った「野外総合訓練」を挙げる。
「3泊4日、ずっと外で戦闘訓練などを続け、最後に行った60キロメートル行進を歩ききって基地に帰ってきたときには、ものすごく大変でしたが達成感がありました」
カッコよくて、尊敬されるパイロットになる!
【宗片敦史学生】
憧れの戦闘機乗りへの最短ルートとして航空学生を志望した宗片学生。子どものころから航空学生について調べていたこともあり、入隊後も学生生活はイメージ通りだったという。そんな彼でも驚いたのが、先輩など上位者に対して敬礼することだった。「200メートルも先にいる先輩にも敬礼するというのには驚きました」。
日々の学生生活での楽しみは「スマホを使うのが許される就寝前の時間」だと語る宗片学生。休日は体を動かして過ごす。最近は自転車に乗ることが多いそうだ。学生生活で一番うれしかったことは、入隊してほどなく訪れた出来事だ。
「対番(注2)の先輩と一緒に初めて外出したのが一番の思い出です。市内を案内してもらって、回転ずしでおごってもらいました。今年は2学年になったので、後輩に対して同じことをしました。喜んでくれましたよ」
入隊後の日々で、体つきはがっしりとし、精神的にも成長したという宗片学生。
「航空学生は、交代で当直をするなど、人前に立つ機会が多いんです。いずれ幹部として部下を指導しなければならないので、その訓練になっているのですが、以前に比べて人前に出て話すのは苦ではなくなったのも成長を実感する点ですね」
(注2)新入隊員の生活面などの指導や世話をする1期上の先輩のこと、また先輩から見た世話相手の後輩のこと
誰からも強いと言われる、伝説のパイロットになる!
【木村優星学生】
空への憧れと、人の役に立つ仕事がしたいことから航空学生を志望した木村学生。入隊後に苦労したのは、全ての行動で時間に追われることだった。「最初のころは、起床や課業開始の合図に使うラッパの音を聞くと、恐怖を感じていました。時間に追い立てられるようで」と入隊当初を振り返る。
航空学生になって一番うれしかったのは、入隊直後1カ月の厳しい導入期教育をクリアして識別帽(注3)が与えられる「戴帽式」を迎えたときのこと。
「導入期は詰め詰めで教官からも先輩からも教えられるのですが、その際に先輩方の1年分のアドバンテージを見て、自分もこうなれるのか? と疑問に思ったこともありました。ベッドメークから教練での動きから、全てがすごかったです。導入期教育を終えたときに、初めて本物の航空学生になれたなと感じました。あの1カ月は人生で一番厳しかったです」
そして今、憧れでしかなかった「空」へ飛び立てる日が近づいてきていることを実感するという。
「同期も先輩も同じ夢を追っていますし、何期か上の先輩はもう戦闘機に乗っています。夢だったものが、現実的な目標になったことで、絶対戦闘機乗りになってやるぞ! という思いが強くなりました」
(注3)自衛隊において、部隊を識別するために、部隊ごとに用意される帽子
自分の生き方を誇れるパイロットになります!
【木下千尋学生】
中学2年生のとき、有川ひろの小説『空の中』(角川文庫)を読んで航空自衛隊のパイロットに興味を持った木下学生。調べるうちに高校卒業後すぐ入隊しパイロットを目指せる道があると知り、航空学生を志望した。
入隊して一番驚いたのは時間に追われること。
「最初は朝のベッドメークに手間取りましたが、3カ月くらいで慣れました。おかげで、時間に対する考え方が変わり、より時間を大切にするようになりました」
航空学生としての課業にも慣れたという木下学生は、今後もパイロットになるという初志を忘れずにやっていきたいと語る。
「座学が多いので、『何をしにここへ来たんだろう』と思うこともあるのですが、たびたび部隊見学などの研修もあって、パイロットの先輩たちの姿を見ると、ああ、私はパイロットを目指しているんだと再確認できます」
日々の癒やしは休日に好きなものを食べること。「一番食べたいのは祖母が作ったおまんじゅうです」とはにかむ笑顔からは、まだ幼さものぞかせるが、目にはしっかりとした力が感じられる。
「パイロットは危険と隣り合わせの仕事だからこそ、私も明日何があったとしても悔いが残らないよう、精いっぱい毎日を過ごしていきたいと思います」
(MAMOR2022年1月号)
<文/臼井総理 撮影/伊藤悠平>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです