•  今年話題となったNHKの朝ドラ『舞いあがれ!』のヒロインのように、自衛隊員の中にも空を舞いたくて入隊した若者たちがいる。そして、海上・航空両自衛隊にはパイロットを目指す若者が集い学ぶ「航空学生」という制度がある。その学生たちは、どんな夢を抱いて日々、どんな訓練に励んでいるのだろうか?

     それを知ろうと、山口県の防府北基地で2年間の集団生活を送る、航空自衛隊の航空学生に密着した。ただ“飛ぶ”だけでなく、国を守り人を助けるために“舞う”パイロットになるために全国から集まった学生たちが奮闘する模様をお届けしよう。

    海上自衛隊と航空自衛隊で採用 これが航空学生の汗と涙の道のりだ!

     海上自衛隊と航空自衛隊で採用されているパイロット養成制度「航空学生」。空を目指す大勢の若者が挑む航空学生の制度と、2年間のカリキュラムについて紹介しよう。

     航空学生は、高等学校卒業または中等教育学校卒業者(卒業見込みを含む)、高等学校卒業と同等以上の学力があると認められる男女を対象とした、海上自衛隊・航空自衛隊のパイロットなどを養成する制度だ。

     年1回、秋に行われる試験の受験資格は先の学歴に加え、海自では18歳以上23歳未満、空自では18歳以上21歳未満という年齢制限もあり、空自では人生で3回の受験チャンスしかない。2021年度の場合、海・空合わせて2049人の応募者に対し、採用者は海・空合わせて150人。倍率は13.7倍という非常に狭き門だ。

     人気の理由は、若い年齢からパイロットになれる道であること。高校卒業後に合格、入隊した場合、最短で20歳で航空機に乗り始め、23歳でパイロットの資格が得られる。さらに航空学生には自衛官として特別職国家公務員の身分が与えられ、給与や賞与、各種手当も支給される。

    こんなカリキュラムが組まれている! 航空学生の2年間

    画像: こんなカリキュラムが組まれている! 航空学生の2年間

     航空学生として採用されると、海自は小月航空基地(山口県)小月教育航空隊に、空自は防府北基地(山口県)第12飛行教育団に入隊し、全員が学生宿舎に入るため、家賃、食費がかからずに学ぶことができる。

     2年間の基礎教育期間中は、規則正しい団体生活を送りながら座学を中心とした学習を行うほか、自衛官としての基礎を身に付けるための各種訓練を実施。この間、飛行機の操縦かんを握ることはなく、地上で「パイロットとしての基礎知識・体力」を養う。

     2年間の教育内容は空自を例にとると、1年目は数学や物理、応用解析学や倫理学などの一般教養が中心。2年目になると実験を含む航空工学や電子工学、空気力学など専門的な内容に進む。またパイロットに必須の英語については、2年間かけてレベルアップを図る。このほか体育として筋力トレーニングや持久走、遠泳、器械体操などの種目があり、基礎体力も充実させる。

     休暇は、基本的に週休2日。1年目の夏以降は特別外出(外泊)も月2、3回認められるようになる。こうして2年間の航空学生課程を終えると、いよいよ実際に飛行機に乗る訓練へと向かっていく。

    航空学生基礎教育:1年目

     航空学生の2年間には、日々の勉学に加え、さまざまな行事がある。訓練、研修、体力測定、競技会、英語技能検定などだ。以下は空自のスケジュールだが、ギュッと詰まった2年なのがよく分かる。

    画像: 航空学生基礎教育:1年目

    ※階級は2等空士・海士/月額給与は17万9200円(前半6カ月)

    4月

    画像: 4月

    ●入隊式

    ●武器貸与式
    64式7.62㎜小銃を学生に貸与。一括保管され、訓練時など必要なときのみ持ち出す。

    ●導入教育
    入隊した日からゴールデンウイークまでの間、学生生活の基本となる教育が行われる。

    5月

    ●研修(萩)
    山口県萩市周辺にある、秋芳洞、萩明倫学舎、松陰神社などの史跡を巡って学ぶ。

    ●体力測定(1回目)
    腹筋、腕立て伏せ、3キロメートル走、懸垂、走り幅跳び、ボール投げの6項目を行う。

    ●現地訓練(海自小月航空基地および築城基地)
    小月では基地を見て学び、海自の航空学生と意見交換を行う。築城では航空団を見て学ぶ。

    7月

    ●遠泳訓練
    最終目標は3時間泳で、海水浴場で行う。

    ●水泳競技会
    1、2学年を取り交ぜた3チーム編成で、リレーや個人戦で競う。

    ●銃剣道昇段審査
    銃剣道(防具を身に着け、銃剣を模した木銃を用いて相手と突き合う武道)の技能上達の審査。

    ※以降、階級は1等空士・海士/月額給与は18万6700円(後半6カ月)

    10月

    ●空自英語技能検定(1回目)
    1回目は全員がTOEIC Bridgeを受験。ここで72点以上の者は2回目よりTOEICを受験。

    ●体験射撃
    山口県にある射場で、地面に立てて小銃を支える脚を使用した射撃を体験。

    ●体力測定(2回目)

    11月

    画像: 11月

    ●駅伝競技会
    1、2学年を取り交ぜた9チーム編成で、12区間の駅伝競走(団体戦)を行う。個人戦もある。

    ●現地訓練(海自呉基地・江田島地区)
    海自の呉に停泊する艦艇と「てつのくじら館」、江田島の幹部候補生学校などを見て学ぶ。

    ●体力測定(3回目)

    12月

    ●30キロメートル徒歩行進訓練
    小銃、鉄帽、編上靴の装備で、水、食料などを背負い30キロメートル歩く。

    2月

    ●陸上競技会(1万メートル走)
    1学年全員参加による個人走。基地内の約2.5キロメートル周回コースを4周する。

    ●体力測定(4回目)

    ●スキー訓練
    鳥取県の大山スキー場にて、雪洞づくりおよびスキーの教育訓練。

    3月

    ●空自英語技能検定(2回目)

    ●進級式

    航空学生基礎教育:2年目

    画像: 航空学生基礎教育:2年目

    ※階級は空士長・海士長/月額給与は19万2500円

    5月

    画像: 5月

    ●ファンシードリル(注1)展示(美保基地)

    ※(注1)小銃を使った軍事教練(ドリル)を、美しいフォーメーションを組んで見せる演技

    ●海自航空学生との交歓会
    海自の航空学生を招き、空自の航空学生と意見交換およびファンシードリルの相互展示を行う。

    ●小型機搭乗訓練
    空自の初等練習機T-7を使用して、1人につき1回の体験飛行を実施。

    6月

    ●ファンシードリル展示(防府南基地開庁記念行事)

    ●ファンシードリル展示(防府北基地航空祭)

    7月

    ●現地訓練(春日基地・陸自目達原駐屯地)
    春日では西部航空警戒管制団を、目達原では陸自のヘリコプターを見て学ぶ。

    ●水泳競技会

    8月

    ●空自英語技能検定(3回目)

    9月

    ●ファンシードリル展示(芦屋基地航空祭)

    ●体力測定(5回目)

    ●現地訓練(硫黄島航空基地)
    海自硫黄島航空基地に3日間滞在し、戦跡などを見て学ぶ。

    10月

    ●野外総合訓練
    陸自のむつみ演習場(山口県)にて4日間の戦闘訓練。その後60キロメートルの徒歩行進訓練。

    ●ファンシードリル展示(ほうふスポーツフェスタ)

    ●現地訓練(小牧基地および岐阜基地)
    小牧と岐阜の各基地、また、川崎重工および名古屋航空宇宙システム製作所を見て学ぶ。

    11月

    ●銃剣道競技会
    2学年全員参加で、区隊対抗の団体戦を行う。基地内で実施。

    ●駅伝競技会

    ●ファンシードリル展示(築城基地航空祭および春日基地開庁記念行事)

    ●ファンシードリル展示(那覇基地航空祭)

    ●現地訓練(沖縄)
    那覇基地および那覇の史跡を見て学ぶ。

    1月

    ●空自英語技能検定(4回目)

    ●航空身体検査
    パイロットを目指すにあたり、体の健康状態が適しているか、を検査する。

    2月

    ●陸上競技会(断郊)
    防府北基地に隣接する田島山の山道約10キロメートルを走り、チーム対抗で競う。

    ●現地訓練(海自鹿屋航空基地および知覧)
    鹿屋航空基地および知覧特攻平和会館を見て学ぶ。

    ●体力測定(6回目)

    3月

    ●卒業式
    卒業すると、3等空曹に昇任すると同時に飛行幹部候補生となり、飛行準備課程に進む。

    航空学生課程2年を終え、ウイングマークを取得し、パイロットになるまで

    航空自衛隊の場合

    画像: 航空自衛隊の場合

    約12〜31週間の飛行準備課程

     英語、航空法規、航空気象、空中航法など、飛行に必要な知識を習得するほか、耐G訓練(注2)なども行う。

    ※(注2)航空機の旋回により、搭乗員は旋回と逆方向に体が押し付けられる。これをG(重力加速度)といい、Gに耐えうるよう遠心力発生装置を使った訓練を行う

    約22週間の初級操縦課程

     基本的な操縦法を習得した後、単独飛行、降下、旋回などのアクロバット飛行、計器飛行、編隊飛行など順次、難易度の高い飛行技術を習得。

    約47〜54週の基本操縦課程

     初級操縦課程の検定試験に合格すると、適性や希望を踏まえ、戦闘機、輸送機、または救難機などの要員に分けられ、それぞれ基本的な操縦法を習得する。

    国家資格の取得⇒ ウイングマークの授与

    「事業用操縦士」の国家資格を得ると同時に、1人前のパイロットの証となるき章「ウイングマーク」を授与される。

     その後は、戦闘機、救難機、輸送機の機種に分かれ、それぞれ操縦課程(約16~45週)と、幹部候補生学校を経て、航空学生となってから最短約6年で部隊勤務となる。

    海上自衛隊の場合

    約16週の操縦士基礎(共通)課程

     担当教官による操縦訓練を行う。課程終盤に適性や希望を踏まえ、固定翼(航空機)、回転翼(ヘリコプター)、また戦術的な判断を下す戦術航空士の要員に分けられ、それぞれの課程へと進む。

    <1:固定翼の戦術航空士要員の場合>

    ・約52週の航空士戦術課程

    <2:回転翼の操縦士要員の場合>

    ・約11週の操縦士基礎(回転翼)課程⇒約19週の操縦士回転翼基礎課程⇒ 国家資格の取得
    ⇒ 約8週の操縦士回転翼計器飛行課程⇒ 約25週の操縦士回転翼実用機課程

    <3:固定翼の操縦士要員の場合>

    ・約17週の操縦士基礎(固定翼)課程⇒ 約24週の計器飛行(固定翼)課程⇒ 国家資格の取得
    ⇒ 約23週の実用機(固定翼)課程

    ウイングマークの授与

     その後は、各航空隊で約1年の部隊実習を行い、約半年の幹部候補生学校を経て、航空学生となってから最短約6年で部隊勤務となる。

    (MAMOR2023年5月号)

    <文/臼井総理 撮影/伊藤悠平 写真提供/防衛省>

    国防に舞い上がれ!自衛隊航空学生

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