敵の侵略や自然災害から、日本の国民を守るため日ごろからさまざまな状況を想定して訓練や任務に当たる自衛隊。その活動範囲は、火の中、水の中、空の上といった極限の環境から、爆発物の処理、化学兵器、ウイルスなどへの対応など実に多種多用だ。そのため、このような特殊な環境での任務を行うために、自衛隊には特殊服が装備されている。
陸・海・空各自衛隊が使用している特殊な環境下で活動するための装備品を紹介しよう。どのような環境でどのように使うのか、その特徴をまとめてみた。併せて実際に使用している隊員の声もお届けする。
特殊防火衣
航空機火災などの人命救助で活用
<SPEC>全備重量:約10㎏ 素材の厚さ:約0.4mm、生地:アルミ加工、テトラテックス(防水性と透湿性に優れた化学繊維) 耐熱基準:約600℃(瞬間温度)
【使用例】
火災時に輻射熱(遠赤外線などの熱線によって伝わる熱)が激しい状況の消火活動で使用
【この特殊服を保有する部隊】
陸・海・空各自衛隊の航空機が配備されている基地・駐屯地などで消火にあたる部隊
耐熱基準約600度という性能を生かし、主に航空機火災や燃料流出火災における消火および人命救助活動に使用される。
例えば炎上した航空機から搭乗員を救出する際、航空機は大量の燃料を搭載しているため、万が一燃料に引火してしまうと広範囲が炎に包まれる。消防隊員は特殊防火衣をまとい、炎を鎮めながら航空機に近づき消火をする。
隊員の声
「重量があるため動きにくく、フードの視界も悪いのですが、危険な火災現場で迅速な消火活動を行う際には、この防火衣が自分の体を守ってくれるという絶大な安心感があります」(航空自衛隊第2航空団(注1)藤田麻比呂3等空曹)
(注1)千歳基地(北海道)にある主に北海道地域の領空に接近・侵入してくる国籍不明機に対しての対領空侵犯措置を担当する部隊
防火服
建物などの火災で使用される防火服
<SPEC>全備重量:約8.5㎏ 素材:アラミド繊維(長期耐熱性と難燃性に優れた繊維)加工:撥水加工
【この特殊服を保有する部隊】
陸・海・空各自衛隊の基地・駐屯地などで消火にあたる部隊
家屋の火災など、一般の火災時に着用する防火服。3層構造になっていて、1番外側が耐炎、耐熱性の繊維。次が透湿防水層、1番内側が難燃性の繊維でできている。そのため、急に炎が体に当たってもそこから逃げる10秒程度はやけどをしないような構造になっている。
また消火活動時にガラスや金属片などで破れないよう、切れにくく丈夫な繊維が使用され、隊員の体を保護している。
隊員の声
「耐熱性、耐炎性に優れているため、消防活動をする上で非常に心強いです。ですがその反面、重量があるため着こなすには体力も必要です。日ごろの体力錬成が大切だとも感じます」(航空自衛隊第2航空団 藤田麻比呂3等空曹)
多目的防護衣
隊員を爆発による衝撃や熱から守る
<SPEC>全備重量:約31.5kg 素材:アラミド繊維(長期耐熱性と難燃性に優れた繊維)
耐久性:破片弾防護試験において秒速600m以上の防護性(スーツ前面部。爆発物の爆風、破片、衝撃波から装備者を保護する)
【使用例】
主に海外派遣における爆発物処理で使用。ヘルメットは無線機と接続することができる
【この特殊服を保有する部隊】
陸上自衛隊武器学校、海外派遣任務にあたる部隊など
装着者を爆発による衝撃から守ることを主眼において設計。胸部は爆発の衝撃に耐える厚いプロテクターで体を覆う構造で、頭部は完全な気密構造。これは呼吸用の穴から爆発時に衝撃波が侵入しないようにするためだ。
呼吸するための空気はフィルターを通した換気装置で供給され、換気用の装置のためのバッテリーも内蔵されている。
隊員の声
「関節の可動域に多少の制限があり、気密性が高いため少し動くだけで真冬でも大汗をかくことはあります。着用すると重さはあまり気になりません。爆発物対処の必須アイテムです」(陸上自衛隊武器学校(注2)竹澤公憲1等陸曹)
(注2)土浦駐屯地(茨城県)にある陸上自衛隊の教育機関の1つ。火器、車両、誘導武器、弾薬の補給・整備、不発弾処理などの教育や研究などを行う
潜水服
温水服で深海での低体温症を防ぐ
<SPEC>総重量:約60㎏ 素材:ラバーとジャージ素材を貼り合わせた生地 ブーツ:潮流に流されないよう靴底に鉛の板が組み込まれている
【使用例】
沈没した潜水艦乗務員の救出など、最大約450メートルの深海でも任務を行う潜水士
【この特殊服を保有する部隊】
海上自衛隊の潜水医学実験隊、潜水艦救難艦など
海上自衛隊の潜水士が深海作業時に着用。低体温症を防ぐため、潜水服はチューブ付きで、海上の潜水艦救難艦から温水が供給される。
またヘルメットとバックパックに非常用呼吸器を装着。潜水員は潜水艦救難艦から送られる呼吸用混合ガス(窒素による中毒を防ぐため、ヘリウムと酸素を混合させたガス)を吸って作業するが、不具合で送気されなくなった場合、バックパック内の混合ガスを使用する。
隊員の声
「過酷な環境下で潜水を実施するため水中作業中は不安ですが、この潜水服と多くの同僚のサポートにより、安心して水中作業ができています。日ごろの訓練と体作りも重要です」(海上自衛隊潜水医学実験隊(注3)田中光一3等海曹)
背面に装着する非常用呼吸器。緊急時に空気を吸いやすいようにアシストする人工肺の機能も備わっている
(注3)横須賀地区(神奈川県)にある海上自衛隊の部隊。潜水病や気圧障害(潜水障害)などを扱う潜水医学に関して、調査研究や教育訓練などを行う
(MAMOR2023年4月号)
<文/真嶋夏歩 イラスト/ナカニシリョウ>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです