• 画像1: 国際観艦式の“先導役”護衛艦『しらぬい』、乗員が語る裏側「ミスは許されない」

     2022年11月6日、海上自衛隊創設70周年を記念した「国際観艦式」が、相模湾にて行われた。観艦式とは、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣に、海自の精強さを観閲してもらうこと、また、多くの国民に海自の存在を知ってもらうことを目的としているが、今回は国際観艦式ということで、12カ国18隻の外国艦艇も集結し、華やかな祝賀航行も見られた。

     観艦式というものに初めて参加した若い隊員から、経験豊富なベテランまで、国際観艦式を実施するには多くの海上自衛隊員の力があった。隊員たちはどのような思いをもって、自分の任務を果たしていったのだろうか。観艦式前の意気込みや、終わってからの感想を、観閲部隊の先導艦を務める護衛艦『しらぬい』の乗員にうかがった。

    指揮をとる艦長

    「観艦式は日ごろの訓練で培った技術や能力を発揮する日です」

    「『しらぬい』は、観艦式直前まで水上射撃訓練に参加していたため、『いずも』との事前練習は行えていませんが、普段どおりのチームワークを発揮すれば大丈夫」と堀部2佐

     今回の国際観艦式では、観閲官である岸田総理が乗艦した護衛艦『いずも』を中心とする4隻が観閲部隊を構成した。その一番先頭で、先導艦の役目を担うのが、海上自衛隊が誇る新鋭護衛艦『しらぬい』である。

    画像: 護衛艦「しらぬい」 出典:海上自衛隊HP(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/dd/asahi/)

    護衛艦「しらぬい」 出典:海上自衛隊HP(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/dd/asahi/

    「『しらぬい』の役目は、細かく定められたスケジュールに合わせて、『いずも』を決められたコース、地点に先導していくことです。国際観艦式のシナリオは『しらぬい』と『いずも』を中心として組み立てられており、艦艇だけでなく航空機や潜水艦も『しらぬい』の動きを基準にして運航や展示を行います。各艦艇の型や能力が違う上に、当日の天候によって臨機応変の対応が求められるので、滞りなく進行していくにはかなりの操艦技術が必要です」と艦長の堀部成由2等海佐は出航前に先導艦の難しさを解説した。

     今回、事前の予行は1回のみ。外国の海軍の中にはぶっつけ本番で当日に臨む艦艇もある。「だからといって特別なことをするわけではありません。隊員たちは日ごろの訓練で必要な技術を培っています。観艦式はわれわれが訓練で得た成果、能力を発揮させる場でもあるのです」。

    乗員をまとめる先任伍長

    「海自の顔でもある先導艦なので、乗員で美しく磨きあげました」

    『しらぬい』を多くの人に見てもらいたいと願う工藤曹長。「艦橋の上部にはレーダーが取り付けられていて、潜水艦の潜望鏡を自動探知できるのが特徴です」

     各艦艇に1人いる先任伍長とは、海曹士の取りまとめ役であり、幹部とのパイプ役でもある。多くは現場からのたたき上げの隊員であり、その艦に関しては誰よりも知っている存在だ。

    『しらぬい』の先任伍長である工藤和也海曹長もその1人。多くの隊員が今回初めて観艦式を経験するのに対し、工藤曹長は過去2回の観艦式に参加。海士時代には受閲部隊の護衛艦『あおくも』で、2回目は輸送艦『ねむろ』で後方支援についた。そして今回、本番を前にして若い隊員を集め、観艦式の意義、目的を指導したという。

    「20年前の国際観艦式から海自の精鋭部隊がどのように進化したかを見てもらうとともに、われわれの『しらぬい』を各国の艦艇にアピールする絶好のチャンスだということを話しました」。さらに工藤曹長は曹士全員と一緒に、観艦式のために汚れた『しらぬい』の船体のさび落としやペンキ塗りを実施。何事もみんなの先頭に立って行うことも先任伍長の役目だという。

    「先導艦は観艦式のトップバッターであり、海上自衛隊の顔でもあります。ほかの艦を美しく見せるのも務めであり、責任は重大ですが気合いも入ります」

    航行の責任者を務める航海長

    「先導艦は観艦式の進行役。ミスのないよう冷静に平常心で」


    「これまで観艦式は天気が悪いことが多かったんですよ」と苦笑する猪島1尉。海曹時代は予行だけ経験し、前回は台風で中止。今回は天候に恵まれてほしいと語っていた

     航海長の猪島規史1等海尉の役目は、『しらぬい』の艦橋にいて、気象や海象などを見て操艦の指示を出すこと。「先導艦は観艦式というセレモニー全体の進行役です。『しらぬい』が間違った行動をするとほかの部隊にも迷惑がかかるので、ミスが許されない」と、その任務の重さを語る。

    「一番苦労するのは、海という自然相手なので、当日にならないと分からない部分があることですね。あらかじめいろいろな気象条件を想定して、当日はどんな状況でも対処できるよう準備をしています」

     また艦艇は、自動車のようにハンドルを切ったりブレーキを踏んだりしたらすぐに反応してくれるわけではない。そのため艦の能力を把握して、先を見越した判断をする必要がある。このときにものをいうのが、これまでの訓練で得た経験だという。

     もちろんプレッシャーはあるが、それを意識しないようにしたいという猪島1尉。「プレッシャーから焦ったりすると、早口で指示を出して部下にちゃんと伝わらないこともある。緊急のときこそ冷静さが必要だと自分に言い聞かせるようにしています」。特別な日だからこそ、平常心で臨みたいという。

    艦位を細かく確認する通信士

    「綿密な進行を守っていくために素早く正確に艦位を計算したい」

    「実は船の揺れに弱いタイプなんですよ」と告白する志村3尉。「この『しらぬい』は新しい艦なので揺れも少なくて助かっています。機器もほかの護衛艦より扱いやすいですね」

     観艦式では、全38隻の艦艇のいるべき位置が細かく定められている。『しらぬい』の通信士で情報収集が役目の志村益孝3等海尉は、艦橋にいて艦の現在地を計算して遅れや進みを把握し、航海長の操艦を支援する任務に就く。

    「通常の航海では基本的には分単位でスケジュールが決められていますが、今回はさらに細かく厳密に動くので、いつもは15分から30分に1回程度、海図で艦位を確認しているところを、1分ごとに確認することになります。通常よりも任務の内容が濃いと感じていますね」

     多くの護衛艦では通信士は1人。しかし今回は2人態勢で任務にあたるので、役割分担などのチームプレーも意識しているという。また正確に素早く艦位を把握、計算するには、やはり普段の訓練が大事だということも実感しているそうだ。

    「以前、観艦式の映像を見て、実際にこれをやるのは大変だなと感じたので、今回の経験は自分の中で大きなものになるだろうと思っています」。いちばん見てもらいたいのは、多くの艦艇が一糸乱れず一列になって航行していくところだそうだ。

    <文/古里学 撮影/村上淳>

    (MAMOR2023年3月号)

    世界よ、これが日本の観艦式だ!

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