•  有事の際、日本を守るための防衛出動以外にも、有事か平時かあいまいな「グレーゾーン事態」や武力攻撃にまでは至らないが侵害行為であり対処が必要な事案など、自衛隊でなければ対処できない事態は数多くあり、その1つ1つも自衛隊の行動が細かく決められている。

     各対応の内容を国際法・防衛法制の研究者である稲葉義泰先生にレクチャーしていただいたので紹介しよう。

    【稲葉義泰氏】
    国際法や自衛隊法などを中心に研究を進める一方、軍事ライターとして専門誌において法的側面から多くの記事を寄稿。主な著書に『ここまでできる自衛隊』(秀和システム)、『「戦争」は許されるのか?』(イカロス出版)などがある

    重要影響事態への対応

    他国軍の後方支援など、連携してサポートを行う

     重要影響事態において自衛隊は武力行使できないが、脅威にさらされている他国軍に対し、①後方支援活動、②捜索救助活動、③船舶検査活動、④そのほかの必要な措置を行える、重要影響事態安全確保法という法律がある。

     具体的には、給油や給水などの補給や輸送、兵器などの修理や整備、戦闘によって遭難した他国軍兵士などの捜索や救助などだ。

    治安出動

    警察では対処できない場合に治安を守ること

    2020年6月、海賊対処行動に従事する護衛艦『おおなみ』。アデン湾にて民間船舶の護衛を行った

     グレーゾーン事態においても下令される可能性がある治安出動とは、大規模なテロ行為など警察や海上保安庁では対処できないような事態が発生した場合に、内閣総理大臣の命令や都道府県知事の要請により治安維持のため自衛隊が出動すること。

     出動した自衛官は警察官職務執行法(注)が準用されるとともに、職務上警護する人などが暴行・侵害を受ける場合などやほかに適当な手段がない場合などにおける武器使用についても規定されている(自衛隊法第89・90条)。

    (注)警察官が職務執行のためにとるべき手段について規定されている法律

    海上警備行動

    不審船の対処など、特別の場合に海の治安を守る

     領海内で沿岸国の平和や安全を害するような船舶の通航行為および潜水艦が海上に浮上しないで領海の海中を潜航するのは国際法違反となる。そうした場合、防衛大臣は内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上警備行動を発令することができる。

     これまで発令された海上警備行動には、1999年の能登半島沖不審船への武器使用、2004年に領海内を潜航した中国海軍の原子力潜水艦の追跡といった事例がある。

     なお海上警備行動は、海上における治安の維持を担う海上保安庁が対処できない場合に行うものであり、武器の使用に関しては自衛隊法第93条による。

    海賊対処行動

    海賊から日本や外国の民間船舶などを保護する

     自衛隊法第82条の2により、自衛隊は海賊対処行動ができる。ソマリア沖の武装した海賊から日本や外国の民間船舶とその乗組員を保護するため海賊対処行動が行われている。

    弾道ミサイルなどに対する破壊措置

    一刻を争うため事前に承認を受けることができる

     武力攻撃ではないものの、弾道ミサイルなどが飛来して被害が出る恐れがある場合でも、自衛隊法第82条の3により防衛大臣は弾道ミサイルの破壊措置命令を発することができる。

     破壊措置命令の発令には内閣総理大臣の承認が必要だが、実際には一刻の猶予もないことがあるため、防衛大臣はあらかじめ対処要領について承認を受けておくことができる。

    領空侵犯に対する措置

    領空侵犯機に警告し、抵抗した場合、武器使用も

     日本の領空を侵犯した航空機に対しては、領空侵犯機を領空から退去させるために必要な措置をとることができる(自衛隊法第84条)。戦闘機を緊急発進させ、警告や着陸の誘導などを行い、相手が抵抗してきた場合は武器を使用することも可能である。

    在外日本人などの輸送・保護措置

    緊急事態に巻き込まれた日本人を保護・輸送する

     海外にいる日本人の保護を外務大臣から依頼された場合、防衛大臣の命令により自衛隊は警護、救出、保護を行うことができる(自衛隊法第84条の3)。また、海外にいる日本人などの輸送を外務大臣から依頼された場合にも、自衛隊は輸送を行うことができる(自衛隊法第84条の4)。

    アメリカ軍などの部隊の武器などの防護

    状況によっては外国軍の防護を行うことが可能

     自衛隊は武器や、装備品を防護するための武器使用が認められている(自衛隊法第95条)。次の条(95条の2)には、連携している外国軍も対象となる場合も定められている。

     ただし防護を行えるのは外国軍から要請があり、防衛大臣が必要と認めた場合のみで、現に戦闘行為が行われている現場では防護などの対処は行えない。

    (MAMOR2023年1月号)

    <文/古里学 写真/山川修一(稲葉義泰)>

    戦争にはルールがあるのですか?

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