3つに分かれている自衛隊。近年ではその枠を超えて協同する「統合運用」が重視されている。いっそのこと陸・海・空の区別をなくし、1つの自衛隊にするほうが効率的だという考え方もある中、今後の3自衛隊はどうなっていくのだろうか。
新たな領域にも対応した進化した統合運用が不可欠
陸・海・空の各自衛隊は、独自の歴史と文化を持ち、独立した存在だ。一方で、自衛隊の任務を迅速かつ効率的に遂行するためには、有事はもちろん、災害派遣や国際平和協力活動においても、陸・海・空各自衛隊が協同して任務にあたる必要があり、全自衛隊を一体的に運用する「統合運用」が重視されてきた。
そこで自衛隊では、有事の際に防衛力を効果的に発揮するため、陸・海・空が協力して行う「統合訓練」を積み重ねてきた。1979年以来、部隊を実際に動かす「実動演習」のほか、シミュレーション中心の「指揮所訓練」をおおむね毎年交互に実施している。そして2011年の東日本大震災における災害派遣では、初の陸・海・空統合任務部隊が編成され、任務を全うした。
また、陸・海・空各自衛隊の総司令部ともいえる統合幕僚監部の機能強化も推し進め、より一層、統合運用がスムーズにできるように態勢を整えているほか、装備品の仕様共通化やファミリー化(注)、さらには陸・海・空共通の装備品を共同調達して費用を削減するなど、限られた予算内で効率的に部隊・装備を運用できるよう改革を進めている。
加えて最近では、宇宙、サイバー、電磁波領域など、技術の進展を背景とし、従来の陸・海・空の区分にはあてはめにくい新たな領域も含めた「領域横断作戦」を行う必要がでてきた。これにはさらに進化した統合運用能力が求められている。
(注)基本的な設計や部品構成を共通化しつつ、機能や性能にバリエーションを持たせることでさまざまな要求に対応すること
防大同期のつながりなど自衛隊はまとまる土壌がある
これに関連して、長年自衛隊を取材しているジャーナリストの井上和彦氏に、陸・海・空各自衛隊の統合運用、そして将来像について尋ねてみた。
「防衛省は自衛隊の統合運用を進めていますが、あえて組織を変えずとも、陸・海・空各自衛隊には、十分に1つにまとまって動ける土壌があります」と井上氏は言う。
「防衛大学校の存在がその証拠です。他国の士官養成学校は、多くが陸・海・空の軍種別に設立されていて、交流がありません。しかし自衛隊では、後に陸・海・空に分かれて隊員となる全ての学生が、一緒に集まって学び、在学中に陸・海・空へと進路を決めます。彼らが『同じ釜の飯を食う仲』であることが、良い結果を生んでいます」
井上氏は成功例として、国際平和協力活動において初めて陸・海・空統合運用を行った、スマトラ沖大規模地震およびインド洋津波における国際緊急援助活動を挙げる。
「自衛隊は、陸・海・空から要員と装備を現地に送りました。このとき活動のキーパーソンとなる各自衛隊部隊の指揮官に、防大同期生がいたのです。互いをよく知っていたので、調整もツーカーで済み、見事な連携プレーができました」
ほかのケースでも、防大や各種学校の同期生、かつての先輩後輩といった、すでに人間関係を構築できている者たちが同じ目的のオペレーションに携わることも多いため、自衛隊には他国ほど陸・海・空の「壁」はない、と井上氏は言う。だから3自衛隊を1つの組織に統合する必要はないという考えだ。厳しさを増す安全保障環境や少子高齢化を考えると、自衛隊のさらなる効率化も必要不可欠。井上氏はこう提言する。
「人材確保が難しい状況においては、充足率を高めることが重要です。少子化の影響を受けるのは自衛隊だけでなく、警察や海上保安庁も同じ。国はこうした「公」のために身を投じてくれる志の高い若者を確保するため、もっと積極的に動くべきだと思います。
自衛隊は有事や災害派遣時を考慮し、警察や海保との連携をさらに強化すべき。部品や燃料、弾薬の融通などを考えると、警察や海保も自衛隊と同じ航空機や艦艇、火器などを装備することを検討すべきではないでしょうか」
【井上和彦】
ジャーナリスト。軍事・安全保障、外交問題、近現代史を専門とし、執筆活動のほかバラエティーやニュース番組のコメンテーターとして出演するなど幅広く活躍中。著書に『国民のための防衛白書』(扶桑社)など
(MAMOR2022年1月号)
<文/臼井総理 撮影/山田耕司(扶桑社)>