• 画像: 2019年のインド太平洋方面派遣では、海自の護衛艦3隻が5カ国を歴訪しながら、各国海軍と数多くの共同訓練を実施。写真は『いずも』が10カ国の艦艇と隊列を組み、訓練に臨んでいる様子

    2019年のインド太平洋方面派遣では、海自の護衛艦3隻が5カ国を歴訪しながら、各国海軍と数多くの共同訓練を実施。写真は『いずも』が10カ国の艦艇と隊列を組み、訓練に臨んでいる様子

     日本周辺を取り巻く世界の安全保障環境は、海上自衛隊が生まれた70年前と比較すると大きく変貌を遂げている。冷戦が終結し、日本の平和を揺るがす脅威は、北方から南西方面にシフトしている。これからの海自のあるべき姿とは?

     防衛大学校准教授の相澤輝昭氏に、専門家の視点から「海自の未来」を語っていただいた。

    ハイエンドとローエンドのミックスを追求する新装備

    画像: 『もがみ』型護衛艦(写真はFFM『みくま』)

    『もがみ』型護衛艦(写真はFFM『みくま』)

     まず相澤氏は、創設70周年を迎える海上自衛隊の装備について、平素から常に装備の能力向上が講じられていることを強調した上で、次のように述べた。

    「最近の動向を見ると、個々の装備の能力向上もさることながら、海自全体として装備の『質と量』のバランスをとりつつ全体最適を目指す、ハイ・ローミックスの取り組みを進めていると考えます」

     ハイ・ローミックスとは、高価・高性能なハイエンドの装備だけをそろえるのが予算的に難しいため、比較的安価でも一定の作戦能力を持つミドルおよびローエンドの装備と組み合わせる考え方。ア
    メリカ軍も基本はハイ・ローミックスだ。

    「特に、『もがみ』型護衛艦は、比較的ローコスト艦ですが、対潜・対空作戦能力は既存の護衛艦には及ばないまでも十分なものを有し、対機雷戦装備を搭載することから、従来の掃海艇が持つ機能も
    一部担えます。その上、省人化で乗組員も少なくて済み、それにより艦艇の数を増やすことができます。

     また、哨戒艦を導入し、警戒・監視任務を任せ、護衛艦の訓練機会を十分に確保することも、海自の力を底上げするためには重要です」

    国内外から期待される海自によるプレゼンス発揮

    画像: 1991年、ペルシャ湾にてイラク軍が敷設した機雷の処理を、9カ国から派遣された約40隻の掃海艦艇が行った。日本からは6隻、500人以上の隊員が参加し海自の掃海能力の高さを世界に示した

    1991年、ペルシャ湾にてイラク軍が敷設した機雷の処理を、9カ国から派遣された約40隻の掃海艦艇が行った。日本からは6隻、500人以上の隊員が参加し海自の掃海能力の高さを世界に示した

     1991年のペルシャ湾派遣以降、国際平和協力活動への参加機会を増やしてきた海自。そんな中で注目されているのが、2016年に当時の安倍総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想」だ。

     世界の半数の人口を抱えるインド太平洋地域において、自由主義的な国際協調の輪を広げ、経済的な繁栄や、平和と安定の確保を目指したもので、防衛省・自衛隊もこの構想に基づいて活動している。

    「海自では、共同訓練やインド太平洋方面派遣(IPD)日ASEAN乗艦協力プログラム能力構築支援などの交流を通じて外国軍との協力関係を維持発展させています。こうした施策で周辺諸国との信頼と相互理解を深めつつ平素の安定を保つことも、主要シーレーン防衛の1つの方法です」

     相澤氏はまた、国際協力の中で海自の役割がさらに重要となってきていることについて、次のように述べた。

    「海に出ることは海外の国と渡り合うこととイコールです。日本は四方を海に囲まれ、資源の大半を海外からの輸入に頼っています。海自は周辺海域の防衛だけではなく、海上交通を保護し、シーレーンを維持しなくてはなりません。特に、米ソ冷戦後は国際協力の重要性が増しました。近年の海自による国際平和協力活動は国内外から高く評価、そして期待されています」
     
     30年後には創設100周年を迎える海自。その未来への提言を、相澤氏ならではの視点から語っていただこう。

    「海軍力の役割は『外交、警察、軍事』の3つ。海自も同様で、まず大事なのは、いざ戦いになった場合に『勝てる』強さを持つことです。有限である予算を活用し、ハイ・ローミックスでバランスを考えながら最善の装備をそろえていくことが必要になります。

     未来の海自は今以上に外洋、世界で活躍するでしょう。手を携える各国と共に、世界の海を守る『ブルーウオーター・ネイビー(外洋海軍)』を目指して、高度な装備、高い練度、そして強いマインドを持つ海上自衛隊として発展していくことを期待しています」

    【相澤輝昭】
    海上自衛官として掃海艦『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア大洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授

    (MAMOR2022年4月号)

    <文/臼井総理>

    これからの新・海上自衛隊

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