海に囲まれた日本が他国からの侵略を阻止するために必要不可欠となるのが海上自衛隊の掃海部隊だ。海の爆弾である機雷を、海中や洋上から除去する掃海。また、逆に敵の侵入を防ぐ機雷を敷設するのも掃海部隊の任務である。
機雷を除去する掃海は、空からも行われている。その任務を担う掃海輸送ヘリコプター、MCH-101は海上自衛隊唯一の航空掃海部隊であり、岩国基地にある第111航空隊に配備されている。飛行甲板のある艦艇に着艦が可能で、対機雷戦や護衛艦への航空輸送、災害派遣などの救援にも活躍するMCH-101を紹介しよう。
多彩な装置で機雷を捜索し除去する掃海輸送ヘリコプター
MCH−101は日本では岩国基地にのみ配備されている。海自が運用する作戦機としては初めてのヨーロッパ製(イギリスとイタリアの共同開発。レオナルド・ヘリコプター社)で、川崎重工がライセンス生産している。MCHのMは機雷、Cは輸送の意味。その名の通り任務は航空掃海と輸送だ。
大きな機体だが、中を見ると操縦席は狭い印象。乗員は操縦士、副操縦士、航空士2人の計4人、航空掃海のときは掃海具からの情報をモニターするクルーが2人増えるとのこと。後部のスペースは広く、人員や物量輸送に優れていることが分かる。
だが、クルーに聞くと「ここに掃海具を積載すると、身動きがとれないほど狭くなる」そうだ。そして掃海具をえい航するときは、後部の大きなランプドアを開けっぱなしにして飛行すると聞いて肝が冷えた。
操縦士の吉田2尉に捜索方法を伺うと、「機雷捜索の指示を受けた際、広範囲の場合は複数機で何度も往復し、レーザやソナー(音波により物体を探知する)を使って捜索します。もし捜索エリアから飛行ルートが少しでもズレてしまうと、ヘリは速度が速い分、ズレ(誤差)が大きくなり、見落とす可能性があるので細心の注意が必要です」。
吉田2尉は、アメリカ軍の掃海ヘリにも搭乗体験があり、アメリカ軍のEOD員(水中処分員)チームをMCH−101に乗せて訓練した経験があるとのことだ。
航空掃海と輸送能力に優れたヘリコプター、MCH-101
折り畳みローター&テール
メイン・ローターやテールを自動で折り畳むことができるため、艦上運用に適している。飛行甲板を有する全ての艦艇に着艦可能で、対機雷戦のほか護衛艦などへの航空輸送に活用できる。
ホイスト(巻き上げ装置)
重量270キログラムまで引き上げられるホイスト。後部クルーによるリモコン操作で、ロープの上下する速さ、長さなどを調整する。
ミサイル警報装置
ミサイルの接近を探知し、パイロットに警告するセンサー。
サイドミラー
サイドミラーで死角の確認。ランプドアから掃海具を出し入れする際など、後ろの様子を確認する。
バブルウインドー
丸みを帯びた外側へ出っ張った窓。安全確認のため乗員が顔を出して、見えにくい真下の海面を監視することができる。
ホバートリムコントロール
カーゴドアの右側にあり、スティック操作でヘリの位置の調整ができる。前部の操縦席からは後部が全く見えないため、実際に人を上げ下げする後部で、前後左右に機体位置の調整ができるようになっている。
カーゴドア
大きく開口するスライドドア。開口部は広く、後部クルーがここからEOD員(水中処分員)をロープなどで降下揚収する。
ランプドア
後部が大きく開くドア。掃海具をえい航するときはこのドアからつり下げて飛行する。
機雷を探しEOD員の安全を守る MCH-101乗員たち
【吉田 遼2等海尉 第111航空隊 MCH‐101操縦士】
操縦士はEOD員に危険がないよう、機雷から離れた場所に降ろす。だが同時に泳ぐ距離が遠くならないよう、機雷との相対位置に配慮する技術が必要になる。
「第111航空隊にはEOD員がいないため、訓練時にのみEOD員を乗せますが、強風時でもホバリングを安定させ、降下・揚収しやすい操縦を心掛けます」
また、機内は轟音で会話ができない。そのため「ヘッドマイクで後部にいる航空士、EOD員指揮官と密に意思疎通します」とのこと。
【永井弘昭2等海曹 第111航空隊 MCH‐101航空士】
航空士はホイスト操作の際、後部のホバートリムコントロールで機体位置を調整する。EOD員の安全な降下と揚収のためだ。「スティック操作をしながらEOD員の降下位置を微調整します。実際に人を降ろすのは後部。操縦士は後部が見えないため、後部クルーが担当します」。操縦かんが前と後ろにあるのだ。
「実機雷を使った訓練では爆破予定時刻までに避難しないとEOD員に危険がおよぶため、迅速性を求められるシビアな訓練です」
(MAMOR2022年11月号)
<文/鈴木千春(株式会社ぷれす) 撮影/村上淳>