当たり前のように平和だった日常が1日にして暗転したロシアによるウクライナ侵攻は、決して遠いよその国の出来事ではない。
自然災害と同じく、ある日突然襲ってくる可能性のある、理不尽な災厄から自分や家族を守るために、普通の市民ができることは何か。民間防衛に詳しい拓殖大学特任教授で、同大学防災教育研究センター長の濱口和久氏に、さまざまな有事における対処法を聞いてみた。
近くでテロが発生したら
日本人はテロをさほど身近に感じていないのが現状だ。しかし、過去には地下鉄サリン事件など凄惨なテロ事件も発生している。
爆弾が爆発した場合
<物陰に隠れ、状況を見て冷静に避難>
テロは、ホテルやショッピングセンターなど多くの民間人が集まる公共施設でも発生する。そうした場所に行く際には、万一のときの脱出経路をあらかじめ確認しておく。近くで爆弾が爆発した場合はその場からの避難が大切だが、爆弾テロは1度だけでなく連続して行い、被害を増大させるということもよくある。まずは物陰に隠れ、持っているバッグなどで頭部を守り、口と鼻をタオルなどで覆って粉じんを吸い込まないようにする。
避難する際は、パニックになった人が1カ所に集中して逃げ出そうとして2次被害を引き起こすことがあるので、巻き込まれないよう冷静に行動する。
人混みで自動車が暴走してきた場合
<不審な動きをする自動車に注意する>
大勢の人がいる場所に暴走車が突っ込むというテロが世界各地で発生している。人が集まる場所にいるときは、低速で同じ所を何度も走るなど不審な動きをする自動車や、その場にそぐわない自動車があれば注意したい。
もし自動車がこちらに向かって突っ込んできたら、背を向けて逃げるのではなく、正対し、進行方向の左右を見極めて反対側に逃げる。また自動車がガードレールにぶつかるなどして停止した後も、運転していたテロリストが車外に出て刃物や銃で周囲の人を攻撃することがあるので近づいてはいけない。
犯罪事件に遭遇したら
面識のない犯人から危害を加えられる予測不能な事件は、国内外を問わずさまざまな場所で起きている。
海外で誘拐されて監禁された場合
<逃亡は試みず、救出されると信じて行動する>
外務省領事局邦人テロ対策室による「海外における脅迫・誘拐対策Q&A」では、100%成功の確信がない場合は逃亡を試みるべきではないとしている。誘拐犯はほとんどが武装しており、被害者を交渉のための道具としか考えていないので、逃亡に失敗すると殺害される恐れがあるからとの理由。
監禁された場合は感情を抑え、自尊心を失わず、必ず救出されると信じて行動すること、そして犯人との人間関係をつくり、自分に対する待遇が改善されるよう努力すること。また救出の際には、犯人と間違われて銃撃されないよう、身を隠したり伏せたりしてじっとしていることが肝要とのこと。
電車に刃物を持った人が現れた場合
<逃げ場がない場合はバッグなどで身を守る>
近くで刃物を振り回している人間がいたらその場からすぐ逃げるのが基本だが、走行中の電車内では、一方向にみんなが殺到して逃げるので、すぐ犯人に追いつかれてしまう可能性が高い。そのときは持っているバッグや、取り外せる場合は座席などを盾にして刃物から身を守るようにする。
その際に気を付けたいのは、相手から盾となる物をつかんでいる指が見えるとそこを切りつけられるので、見えないように持つこと。また物を持つ手を伸ばし切っていると腕を切られるかもしれないので、自分の体から少し離れた位置に保持すること。
車内の非常通報ボタンを押して運転士か車掌に異変を知らせることも有効。近ごろでは、ブザーだけでなく通話タイプの「非常通報ボタン」も増えており、状況を即時に知らせることも可能だ。
(MAMOR2022年9月号)
<文/古里学>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです