首都直下地震の被害想定が、2022年に10年ぶりに東京都により更新された。そこには、都内でマグニチュード7・3の直下地震が発生した場合、9万3435人の負傷者が出ると想定されている。この数字を見るかぎり、災害時には誰もが負傷する可能性があるということだ。
もしも身近にいる人がけがを負ったら? そんなとき、慌ててしまわないよう、災害レスキューナース歴27年の辻直美さんから応急処置のイロハを学ぼう。
災害時に多いけがは?
切り傷・擦り傷
手指などを切って、じわっと血がにじみ出てくるようであれば静脈が損傷している可能性がある。この場合、流水で傷口を洗ってから消毒し、ばんそうこうや滅菌ガーゼを当てて止血する。
一方、拍動と連動して血が吹き出すようであれば動脈が傷ついている可能性が高いので、手や足が傷ついた場合は、心臓より高い位置に上げ(高挙)、傷口に血が行きにくくする。それから、出血している所にガーゼやハンカチなどを当て、血に直接触れないようにポリ袋などで覆った手で強く押さえる直接圧迫止血法を行う。これらは応急処置にすぎないので、負傷したらただちに医療機関に連絡し、適切な処置を受けられるようにしよう。
挫滅創
挫滅創は、落下物などによって皮膚や筋肉が強い衝撃を受けて組織が圧迫され、つぶれてしまう損傷のこと。出血が見られる場合は切り傷への対処と同じように、流水で洗って消毒したり、患部にタオルなどを当てて強くおさえる、直接圧迫止血法を行う。腫れがひどい場合は、氷を入れたポリ袋をタオルでくるんで冷やす。いずれにせよ、早急に医療機関を受診しよう。
打撲・ねんざ・骨折
打撲やねんざなどの負傷には、応急処置の4原則である「RICE」(下記参照)を実施する。骨折が疑われる際にも、基本的にRICE処置を施す。その際、曲がっている部位を元に戻そうとするようなことは絶対にしないようにしよう。
早期にRICE療法を行えばけがの回復を早めることができる
災害時はがれきの上を歩いたり、慌てて避難している際に転んだりして打撲やねんざなどの外傷を受けることがある。その場合、スポーツの現場やレスキューの現場で行われている「RICE」という4つの応急処置を適切に施せば、負傷者のけがの悪化を防げるといわれている。
「RICE」はそれぞれの処置の頭に付く言葉を表した言葉だ。1つ目は「REST=安静」だ。これは患部を動かさずに安静にすることをいう。2つ目は「ICE=冷却」だ。氷のうなどで患部を冷やす。3つ目は「COMPRESSION=圧迫」だ。包帯やテーピングなどで固定することをいう。4つ目は「ELEVATION=高挙」だ。負傷者を寝かせ、心臓より高い位置に患部がくるようにする。
早期にこの応急処置が行われると、けがの回復を早めることができるのだ。あくまでも応急処置なので、医療機関への連絡と、専門家による処置が受けられるようにすることが肝心だ。
災害に備えて心肺蘇生法やAEDの使用法を習得する
負傷者が出た場合、訓練していないと人工呼吸や心臓マッサージを行うのは難しい。災害時に備え、心肺蘇生法(CPR)を医師会や日本赤十字社、消防署などで開催される講習会などで学び、訓練しておいたほうがいいだろう。
また、AED(自動体外式除細動器)の使い方もマスターしておきたい。AEDは医療施設をはじめ、学校や官公庁舎、駅、公民館など多くの人が出入りする施設に設置されている、心停止の状態の負傷者に、電気ショックを与えて心臓を正常な状態に戻すための医療機器。
AEDの操作方法は音声でガイドしてくれるが、消防庁のウェブサイトなどで事前にチェックしたり、日本AED財団などが行っている講習会に参加するといざというときに役立つ。
(MAMOR2022年9月号)
<文/魚本拓 イラスト/尾代ゆうこ>