自衛隊の災害派遣は、原則的に、都道府県知事などから要請を受けた防衛大臣などが、緊急性、非代替性(自衛隊以外では担えない)、公共性の3要件からやむを得ない事態と認める場合に命じる。
自衛隊の災害派遣活動は、日ごろの訓練のほか、移動から宿営、食糧の調達などを自らで行うことができる自己完結能力、そして陸・海・空に対応する装備があるから行えるのだ。
地震のほか、台風や豪雨、原子力災害の対処訓練も
自衛隊の大規模な災害派遣といえば、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、16年の熊本地震などが思い浮かぶだろう。
不意に見舞われる自然災害の現場で、人命救助や行方不明者捜索、給水支援や物資輸送など、多くの重要な活動に組織的に速やかに取り掛かれるのは、自衛隊が日ごろから国、県、市町村などと、さまざまな規模で、地震から原子力災害まで多様な災害に備えて行われる各種訓練に参加しているからだ。
例えば、南海トラフ地震の発生を予想して、陸上自衛隊中部方面隊が13年から毎年行っている対処訓練が「南海レスキュー」だ。自治体や警察、消防、アメリカ陸軍などとも連携し、被災が予測される東海・北陸・近畿・中国・四国地区の2府19県で、初動対処や迅速な部隊展開などを演練している。
自衛隊からは隊員1万人以上が参加し、警察や消防、高速道路会社などと連携した救助、医療活動訓練や、電力会社などと共同した燃料給油訓練、通信事業者との共同による通信器材の空輸訓練などを行っている。
同じく南海トラフ地震、および首都直下地震を想定し、13年から東部方面隊が行っている実動訓練が「ビッグレスキューあづま」だ。方面隊隷下の駐屯地で燃料や食料、救援物資を輸送する訓練や、救助、救援活動の訓練を実施するほか、アメリカ陸軍と共同し、人員や車両、物資を船から陸に揚げる揚陸訓練も行っている。
また近年、温暖化の影響で台風や豪雨による洪水が発生しやすく、災害派遣出動をすることが増えている自衛隊では、年に数回実施されている国や自治体による水防訓練などにも参加することがある。土のうによる越水防止訓練や物資輸送訓練などのほか、国土交通省と連携して07式機動支援橋を用い、通行不能箇所に仮設橋を設置する訓練を行ったこともある。
さらに自衛隊は、原子力災害派遣において、放射線および放射性物質の測定も行うため、国や各都道府県が行う「原子力防災訓練」に参加する機会も増えている。訓練の中で自衛隊は、航空機や艦艇、車両などによる住民避難支援、空中と海上での放射線観測支援、除染作業支援などを行っている。
あらゆる事態を想定し行われる自衛隊の災害派遣訓練、中にはこんな訓練もあるので下欄で紹介しよう。
警察と自衛隊の警備犬が合同捜索「災害対処合同訓練」
2022年5月23日、航空自衛隊入間基地にて、埼玉県警から18人と警備犬1匹、自衛隊からは中部航空警戒管制団の警備犬管理班から3人と警備犬2匹、航空救難団入間ヘリコプター空輸隊から6人が参加。想定は、県内にて最大震度7の強い地震が起き、多数の道路が寸断され孤立地域が発生したというもの。
陸路での部隊派遣が困難なため、先行班をヘリから降ろして現場の被災状況を確認した後、警備犬を活用した要救助者の合同捜索をし、負傷者を救急搬送、孤立した人たちをヘリで移送するという訓練を行った。
ドローンの映像を指揮所に伝送「ドローン映像通信訓練」
2022年5月25日、航空自衛隊入間基地にて実施。中部航空警戒管制団通信隊の隊員6人が参加した。持ち運びができる衛星通信装置を組み立てるところから始まり、通信衛星に電波を発射し衛星回線を構成したら、ドローン(小型無人機)を連接。ドローンが撮影した映像を衛星通信装置を介して伝送し、その映像がきちんと送られているかを確認する。
この訓練を繰り返し行うことで、いつ災害派遣が発生しても、人が踏み込めないような被災現場などの映像も、迅速かつ確実に指揮所に伝送できるようにしているのだ。
(MAMOR2022年9月号)
<文/MAMOR編集部 写真提供/防衛省>