2022年3月17日。自衛隊入間病院が、航空自衛隊入間基地の南端に開院した。構想からおよそ12年。待ちに待った“テイクオフ”である。
入間基地には滑走路と輸送機部隊がある。入間病院の開設は、これら空自ならではの「力」とも密接に関係している。患者搬送の拠点となるべく作られた入間病院の機能とはどのようなものだろうか。
最終後送病院へ向けて継続した支援が可能に
入間基地に病院を作った最大の理由は、そこに「滑走路」があり、「輸送機」を持つ輸送航空部隊があるからだ。
これまでの輸送態勢は、災害や有事の際に発生した傷病者は、まず現場近くで応急処置をとる。その後、安全な場所に搬送して、初期ケアを施した後、車両や航空機で地域の病院などに運ばれる。重症患者など高度な医療処置が必要な患者については、その病院で「安定化」を行う。
安定化とは、すぐに必要な手術などができない場合に、まず当座の生命機能を安定させるための医療処置のこと。
安定化後、近くの空港・基地を経由して航空機を使って搬送するが、到着先の空港・基地からは車両で最終後送(注)先である自衛隊中央病院に運ぶことになる。
それが、入間病院ができたことにより、中央病院に輸送する前段階で、ただちに医療支援を行うことができるようになる。安定化を受けた患者は、ICU(集中治療室)に準じるレベルの「HCU(高度治療室)」を備えた入間病院で更なる医療処置を行い、より重症な患者は中央病院へ移送することで、救命率が向上するのだ。
首都圏で大規模震災が発生した場合には、広域搬送するための拠点として入間基地を利用することが想定されている。入間病院から他地域へ航空機で重症者を搬送する前にレベルの高い医療処置を施すことで、広域搬送が必要な患者の救命率が上がるのである。
注:戦場の前線や災害現場などで発生した傷病者を病院に搬送すること。
平時は地域住民も利用&大規模災害時には防災拠点に
入間病院は、首都圏エリアで想定されている大地震などの災害に際して、災害対処活動の拠点となることも想定して整備された。病院建設に併せて整備された各種施設についても紹介しよう。
入間病院は、有事・災害発生時にほかの地域で発生した傷病者を受け入れるだけではなく、関東近辺で大災害が発生した際に、ここが周辺地域のための災害対処活動の拠点となるよう整備されている。
災害時にも病院での医療活動が停止しないよう、建物は免震構造であり、1週間程度は医療活動が続けられる自家発電装置なども備えられているが、これらに加えて隣接する敷地には「災害対処拠点」というスペースが作られている。
これは、地元自治体との話し合いの中で生まれたもので、病院の建設とともに整備された。完成したのは、屋外照明のある陸上競技場、およびサッカー場兼ソフトボール場2面のほか、広い平地の訓練場。
これらの施設は、平時には入間基地で勤務する隊員の体力づくりのために使われるほか、陸上競技場、サッカー場兼ソフトボール場については、基地の活動に支障ない範囲で民間の団体も使えることになった。
そして、いざ災害が発生したときには、部隊の展開用地、災害対策のための活動拠点、および物資集積のための用地として使われる。なお、これ以外にも、入間病院の正面玄関前の芝生エリアは通常リハビリスペースとして使われるが、災害時には「トリアージスペース」として、重症者の治療優先順位を決める「トリアージ」を行うための場所として確保されている。
(MAMOR2022年7月号)
<文/臼井総理 写真/増元幸司>
ー空飛ぶ自衛隊病院ー