世界でもトップクラスの実力を誇るのが海上自衛隊の飽和潜水員だ。潜水艦の事故という非常事態にいつでも対応できるよう備えるとともに、その特殊な技術と経験は次世代へとバトンタッチされていく。
なぜ飽和潜水員を養成しているのか
潜水医学実験隊では、100メートルを超える深深度飽和潜水訓練を毎年実施している。特殊な環境下で大きな危険が伴うため、その安全性と有効性の確保のためには訓練に臨む6人の潜水員だけでなく、指揮官、作業官、管理官など大人数がかかわる部隊の総員挙げての大掛かりな訓練となっている。
なぜそうまでして、飽和潜水員を養成しているのか。
「深海での人の生理機能や精神機能に関してはまだまだ未知の領域であり、潜水艦救難の際に的確な潜水業務をこなすためには、これらの訓練、研究を欠かすことはできません」隊司令の小川均海将補は訓練の重要性を強調する。
自力浮上ができなくなって深海に横たわる潜水艦に、障害物などにより救難艇では酸素ホースや乗員が脱出するハッチを接続できないケースは容易に想像できる。その際に生身の人間が深海で安全かつ確実に任務を遂行するには、どうしても過酷な訓練と膨大なデータの収集が必要不可欠なのだ。
万一に備え研鑽の日々が続く
高度な専門知識と技術力、強じんな体力と精神力、チームワークを維持できる協調性、冷静な判断力。飽和潜水員に求められる資質は多い。
「海上自衛隊の飽和潜水のレベルは、安全性でも深度においても世界でトップクラスです。幸いなことにわが国において、潜水艦救難のために出動したことはまだありません。しかしわれわれがこれまで培ってきた技術と経験を次代へ確実に継承することが、潜水医学実験隊に求められていることなのです」そう小川海将補は未来に向けて隊の抱負を語った。
潜水医学実験隊の発展こそが、日本の海の安全をより確かなものに変えていくことだろう。
(MAMOR2019年11月号)
<文/古里学 写真/長尾浩之、防衛省>