トム・クルーズを世界的なスターに押し上げ、圧倒的なかっこよさに戦闘機パイロットへの志願者を激増させた映画『トップガン』(1986年)。多くの自衛官にも影響を与えたトップガンの続編『トップガン マーヴェリック』が、コロナ禍での公開延期を乗り越え、2022年5月27日より公開が始まった。この作品で主人公・マーヴェリックの日本語吹き替えを担当した声優・森川智之さんに話を聞いた。
【森川智之(もりかわ・としゆき)】
1967年、東京都生まれ。1980年代後半から声優としてのキャリアをスタートさせ、TVアニメ『スラムダンク SLAM DUNK』(93~96年)の水戸洋平役、『遊☆戯☆王』(98)の城之内克也役、『鬼滅の刃』(2019年〜)の産屋敷耀哉役などの声を担当。洋画の吹き替えも多く、『スターウォーズ』シリーズ(オビ=ワン・ケノービ)、『マトリックス』シリーズ(ネオ)など、話題作品の声優を務める。トム・クルーズの吹き替えは『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996年〜)、『ラスト・サムライ』(2003年)をはじめ、トム・クルーズ専属声優として声を担当。『トップガン マーヴェリック』でもトム・クルーズ演じる主人公マーヴェリックの吹き替えを担当する。
トップガンと共に声優のキャリアを重ねた
――1986年公開の『トップガン』は森川さんの青春ど真ん中ですよね。
森川:前作は声優の仕事を初めたころでした。当時はビデオだったり今のように配信で楽しむこともできなかったので、映画館で何度も鑑賞しましたね。『俺はマーヴェリックだ!』と思って映画館を出た記憶があります。MA-1もどきのジャンパーを着て、レイバンもどきのサングラスをして、kawasakiのバイクは持っていなかったので自転車で国道1号線を走った記憶があります(笑)。それくらい影響を受けてましたね。
――近年はトム・クルーズの吹き替えといえば森川さんですが、『トップガン マーヴェリック』のオファーを受けたときはどんな気持ちでしたか。
森川:「とうとう来たか」と思いました。身が引き締まる思いがしました。僕も『トップガン』のファンですし、前作の公開から36年経って、自分も声優としてのキャリアを重ねた上でのオファーが届いて。「願いはかなうんだ」と思いました。
――前作からキャリアを重ねたマーヴェリックがどのような人生を歩んでいたのか、36年の重みもありますね。
森川:映画を楽しみにしている皆さんも、前作のあとでマーヴェリックがどう年を重ねていったのかなっていうところもすごい楽しみなポイントだと思うし、自分自身も年を重ねてきたので、うまく自分の年と重ねながら、マーヴェリックのお芝居に生かせたらなと思いました。「みんなが本作を受け入れてくれて楽しんでもらえるようにしないといけない」という思いは強かったです。
Gを意識して臨んだ吹き替えの現場
――『トップガン マーヴェリック』では、CGでは表現できない顔のゆがみなどを出すために、俳優陣が本物の戦闘機に乗り込んで体重の約8倍のG(重力加速度)に耐えながら演技をしています。こういった厳しい環境に耐える場面を吹き替えで演じるのは大変ではなかったでしょうか。
森川:吹き替えを担当する声優は実際に戦闘機に乗ってはいないので、想像しながら演じなければいけない苦労はありました。本編の映像を見ながら振り絞るような声を出したり。任務を遂行しなくてはいけない使命感とか、いろいろなものを背負っている強い気持ちも込めました。
――取材の前に行われたイベントで、ルースター役を務めた宮野真守(みやの・まもる)さんは力を込めすぎて台本を握りつぶしてしまったと話されてましたね。
森川:マーヴェリックは伝説のパイロットですし今作では教官です。他のパイロットをはるかに超える実力なので、苦しいんだけど他の人よりも強い姿を見せたいと思いました。トム・クルーズが限界を超えて挑戦する姿は“胸熱”です。彼の熱さに負けないよう全力で演じました。
刺激的だった自衛隊での撮影
――日本語吹き替え版の声優陣を発表した特別映像では、航空自衛隊の百里基地に行って撮影をされましたね(特別映像のリポート記事はコチラ)。自衛隊の基地に入るのは初めてでしたか?
森川:自衛隊の施設ですと、防衛大学校に撮影で行ったことはあります。でも実際に運用されている基地に入ったのは初めてでした。目に映るすべてが新鮮で刺激的でしたね。
――F-2戦闘機のコックピットにも座っていましたね。
森川:コックピットに座ってキャノピーが閉まった瞬間、ここに座ってたった1人で音速を超える戦闘機で国民を守ってくれるんだ、と隊員の方の任務の重さに頭が下がる思いがしました。
――パイロットの方が着る耐Gスーツ(下腹部や太ももに巻いたベルトに空気を送って締めつけることで、血液が下半身に降下、滞留するのを防ぎ、脳への血流を確保する)も着用していました。
森川:撮影なのでギュッと締めてはいないのですが、身の引き締まる思いでした。パイロットの方は耐Gスーツを着なくてはいけない、限界を超えた任務に就いているのだなと感じました。ほかにも撮影では航空中央音楽隊の「Top Gun Anthem」の生演奏もあったので気分が高まりましたね。隊員の皆さんもこの曲を聞いて気分が高まるようで、気持ちは同じなんだなと思います。
世代を超えて描かれる人間ドラマも“胸熱”
――若い隊員には前作『トップガン』を見たことがない人もいます。『トップガン マーヴェリック』でも前作からの登場人物と若い世代が交流する人間ドラマも注目ですね。
森川:マーヴェリックと若きエースパイロット候補生たちとの掛け合いや、前作から登場する仲間との友情など、ヒューマンドラマも素晴らしいです。どのシーンを切り取っても絵になります!
――日本語吹き替え版だと、より作品の世界観に没入できそうですね。
森川:そうですね。吹き替えも最新の技術で収録しているので、戦闘機に乗っている場面の息づかいなど細部にも注目していただければと思います。前作を知っている人も、今作で初めて『トップガン』に触れる人も、世代を超えて楽しんでもらえる作品です。
『トップガン マーヴェリック』
監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラーほか
5月27日より全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
日本語版 吹き替えキャスト情報
マーヴェリック:トム・クルーズ(森川智之)
ルースター:マイルズ・テラー(宮野真守)
ハングマン:グレン・パウエル(中村悠一)
フェニックス:モニカ・バルバロ(内田真礼)
ボブ:ルイス・プルマン(武内駿輔)
ペイバック:ジェイ・エリス(木村昴)
ファンボーイ:ダニー・ラミレス(内田雄馬)
コヨーテ:グレッグ・ターザン・ラミレス(杉村憲司)
ホンドー:バシール・サラフディン(三宅健太)
サイクロン:ジョン・ハム(加瀬康之)
ウォーロック:チャールズ・パーネル(楠大典)
ペニー:ジェニファー・コネリー(本田貴子)
アメリア:リリアナ・ウレイ(水瀬いのり)
グース:アンソニー・エドワーズ(平田広明)
キャロル:メグ・ライアン(斎藤恵理)
アイスマン:ヴァル・キルマー(東地宏樹)
<取材・文/マモル編集部 撮影/増元幸司>