自衛隊の戦闘機パイロットのほぼ全員が1度は見ている、映画『トップガン』。中には「100回以上見た」という現役パイロットも。
続編『トップガン マーヴェリック』の公開を2022年5月27日に控えたいま、自分もパイロットになろうと決心したシーンから、戦闘機パイロットになったからこそ共感できるシーンまで、印象に残っている場面を教えてもらった。
映画『トップガン』とは
舞台はアメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ近郊のミラマー海軍航空基地。そこにある海軍のエリート・パイロット養成学校、通称「トップガン」では、海軍の各部隊から集められた精鋭パイロットのナンバーワンを決めるため、過酷な訓練が繰り返されていた。その中でF-14トムキャット戦闘機を駆り海軍のトップ・パイロットを目指す、自信家で型破りの若手パイロット、マーヴェリック(トム・クルーズ)が仲間の死を乗り越え、ライバルとの争いや恋愛を通じて成長し、仲間との信頼関係を築いていく姿を描いた青春スカイアクションムービー。
現役パイロットが惚れた!『トップガン』の印象的なシーン
「マーヴェリックが任務を終えて空母に帰投する際、恐怖で放心状態になってしまった仲間のため命令を無視してまで助けに行くシーン。自らの危険も顧みず仲間を助けに行く姿に感動しました。今でも、編隊長を目指す身として影響を受ける点は多いです」(F-15パイロット・2等空尉)
「マーヴェリックが敵戦闘機に対して背面飛行をする場面。自分もやってみたいと憧れたが、戦闘機パイロットになった今となってはあんな無茶な飛び方をしたいとは思わなくなった」(F-15パイロット・1等空尉)
「トップガンに入って最初のフライトで、マーヴェリックとジェスターが1対1の空中戦で戦っているシーン。戦闘機はこんなふうに戦うのかと衝撃を受けました。自分が飛んでいるときは、このシーンでかかっている『Mighty Wings』が頭の中で流れています」(F-2パイロット・3等空尉)
「派手なシーンが多い中、緻密に敵機を研究する場面に、カッコよさとプロフェッショナリズムを感じた」(F-2パイロット・1等空尉)
「優秀なパイロットはだいたいクセが強い!」
「アイスマンとマーヴェリックが敵機を撃墜して戻ってきたときに、お互いに認め合って友情が生まれたシーン。お互いに上空で信頼し、命を預け合ったからこそ生まれる友情なのだなと思い、戦闘機に乗って戦うということの特別さを感じ、改めてすごい世界だと思いました」(F-15パイロット・2等空尉)
「冒頭で、クーガーの着艦が乱れるシーン。上空でうまくいかなかったとき、着陸乱れがちだよな~と今しみじみ思う。ちなみに映画の世界でも航空自衛隊でも、優秀なパイロットはだいたいクセが強い!(笑)」(F-2パイロット・1等空尉)
「仲間でビーチバレーに興じているシーン。グアムでの海外訓練時の余暇活動で、このシーンを再現すべくビーチバレーに没頭した楽しい思い出があります」(F-2パイロット・3等空佐)
「グースが脱出に失敗して死亡する場面と葬儀の場面。以前は『危険なことをしている』くらいの認識しかなかったが、今の自分にとってはパイロットとしての死生観について考えさせられるシーンになった」(F-15パイロット・1等空尉)
『トップガン』はなぜ大ヒットした?映画評論家に聞いた
映画『トップガン』の公開で主演のトム・クルーズは一気にスターの座へ。主題歌や挿入歌は大ヒット。街にはフライトジャケットを着た若者が増え、トムが劇中で乗ったバイクが人気となるなど、当時のカルチャーにまで影響を与えたという。その魅力と新作『トップガン マーヴェリック』の見どころを、映画評論家の斉藤博昭氏に聞いた。
前作『トップガン』の日本での人気はすごかった、と斉藤氏は言う。
「日本では1986年12月に公開された87年のお正月映画です。その年の興行収入が推定約80億円で1位となりますが、前年の洋画1位の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を上回る大ヒットでした。俳優トム・クルーズの出世作であり、日本での人気を決定づけた映画です」
なぜそこまでの大ヒットになったのだろう。その魅力を尋ねてみた。
「80年代前半は『フラッシュダンス』、『ビバリーヒルズ・コップ』など、音楽と映画を一体化させてプロモーションする手法が出始め、『トップガン』もケニー・ロギンスの『デンジャー・ゾーン』やベルリンの『愛は吐息のように』などとともにヒットしました。ダンスや音楽の映画でなく、アクション映画でこの手法が取られたのが斬新でしたね。
主人公のマーヴェリック役であるトム・クルーズがとにかく格好よく描かれ、音楽カルチャーだけでなくフライトジャケットが流行するなど若者のファッションにも影響を与えたといわれています。また、当時はちょうど家庭用のビデオデッキが普及し始めた時期で、テレビ放映を待たずにレンタルビデオで見られたことも人気の持続につながったと思います」
脚本と映像のバランスも良かった、と斉藤氏は続ける。
「身勝手で自信家のエースパイロットが仲間を失って挫折、父親の死を引きずって葛藤したり恋愛に悩んだ末、最後に復活して栄光をつかむという若者の成長物語は、ハリウッド映画の教科書のような脚本。そこにアメリカ海軍が全面協力したからこそ実現できた、実際の空母や戦闘機を使ったスピーディーでスリリングな映像が加わることで、とてもバランスの取れたいい映画になっている。
単純な戦争映画ではなく、真正面から戦闘機パイロットの世界を描いたという意味でも、唯一無二の作品ではないでしょうか」
亡き相棒の息子との関係。そして斬新な映像にも注目
斉藤氏は新作『トップガン マーヴェリック』のどこに注目しているのだろうか。
「前作のラストでマーヴェリックはトップガンの教官の道を選び、今作で再び教官として戻ってきます。その空白の期間がどう描かれるのかが気になりますね。そして、前作で死んでしまった相棒グースの息子が訓練生として登場するので、2人の関係性やどんなドラマが展開されるのか、興味深いところです。単なる訓練物語だけでなく、ミッションを与えられて飛ぶ展開もありそうなので、そちらのストーリーにも注目したいですね」
映像の35年分の進化にも注目したい、と斉藤氏は言葉を継いだ。
「今回はIMAXカメラという高精細で臨場感あふれる映像が撮れるカメラを6台も戦闘機のコックピットに据え、実際に飛ばす中でトムをはじめとする俳優が演技したとのこと。トム自身が“飛行シーンは全て本物”と語り、飛行機のGによって生じる顔のゆがみまでリアルだといいます。
CGを使わず、ここまでこだわって空中戦を撮った作品はないと思いますから、今までに体験したことのない驚きの映像を楽しめるはずです」
【斉藤博昭】
1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフ、映画サイトなどに映画レビューやインタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクションとミュージカル。日本映画ペンクラブ会員
(MAMOR2021年6月号)
<文/野岸泰之 写真/『トップガン マーヴェリック』(C)2020 Paramount Pictures Corporation.All rights reserved.『トップガン』(C)1986,2020 Paramount Pictures.>