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     捜索機U-125AとUH-60J救難ヘリコプター、2機の救難機を連携させ、命がけの任務に臨む百里救難隊。クルーはおのおのの任務に集中し、救難活動をパーフェクトに遂行すべく日々訓練に励んでいる。“ワンチーム”のメンバーたちに、胸に秘めている任務への思いに迫ってみた。

    助けるために自身を鍛え続け、強い救難員に

    「要救助者に安心して身を任せてもらえるよう、先輩救難員から知識や技術を学び、実力を付けていきたい」と話す瀧嶋3曹

    【百里救難隊 救難員 瀧嶋明信3等空曹】

    過酷な現場に向かう勇気と強さを兼ね備える救難員

    画像: 過酷な現場に向かう勇気と強さを兼ね備える救難員

     天候や場所を問わず救助活動を行う救難員。高い基準の体力テストなどをクリアし、約9カ月間の過酷な訓練を行う救難員教育を修了しなければなれない険しい道だ。修了後も強靭な体力と精神力を維持するため、厳しい訓練を重ねる過酷な仕事だ。救難員として2年目の瀧嶋3曹は、「これからが本番」だと思っている。

    画像: 航空自衛隊の救難員になるには潜水25メートル以上、重量物(65キログラム)搬送200メートル以上などの選抜試験に合格し、空自小牧基地の救難教育隊に約9カ月間入校。体力錬成、救難技術、衛生などの基本をたたき込まれる。救難員となった後も、低温下での潜水訓練(写真)や雪山訓練など、さまざまな環境で救難活動の訓練を定期的に行う。救難員の中には准看護師と救急救命士の資格を取得し、より高度な救命技術を修得している者もいる

    航空自衛隊の救難員になるには潜水25メートル以上、重量物(65キログラム)搬送200メートル以上などの選抜試験に合格し、空自小牧基地の救難教育隊に約9カ月間入校。体力錬成、救難技術、衛生などの基本をたたき込まれる。救難員となった後も、低温下での潜水訓練(写真)や雪山訓練など、さまざまな環境で救難活動の訓練を定期的に行う。救難員の中には准看護師と救急救命士の資格を取得し、より高度な救命技術を修得している者もいる

    「一番険しい場面で人を助ける救難隊の魅力に引かれて入隊しました。まだ任務経験はありませんが、要救助者を安全に救出するためには、まず自分の身を守らなければなりません。先輩の経験談などを聞いて、勉強しています」

    画像: 雪山訓練

    雪山訓練

    「救難員のリーダーとなって任務に貢献したい」と今後の目標を掲げる瀧嶋3曹。そのためには実力だけではいけないと考えている。

    「周りに認められることが重要です。救難隊の皆から『あいつなら任せられる』と信頼されなければいけない。救難に必要な技術の向上も大事ですが、人を敬い、誰に対しても謙虚である姿勢が大事だと思っています」

    身尽きるまで、職務を全うする

    「要救助者を発見したらすぐ救助したいと思いがちですが、降りて大丈夫か周辺の状況などを冷静に見極める力が必要」と佐藤1曹

    【百里救難隊 救難員 佐藤泰明1等空曹】

    経験を積み重ねることで判断力を養っていく

    画像: UH-60Jによる激しいダウンウオッシュの中、洋上の要救助者に向かう救難員。波にのまれる可能性があるため、海面の状態を見極める力と、飛び込む勇気も求められる

    UH-60Jによる激しいダウンウオッシュの中、洋上の要救助者に向かう救難員。波にのまれる可能性があるため、海面の状態を見極める力と、飛び込む勇気も求められる

     救難員としてキャリア25年を誇る佐藤1曹が現場で注視するのは2次災害の防止、遭難者の容態見極め、安全な機体への収容だという。

    「ヘリコプターでホバリングしながら現場を見ていても、下に降りると環境が全然違ったりする。木が揺れるなと思って見ていたら腐っていて降り始めたときに倒れてきたり、上からは分からないことも多いです。回避するためには訓練を重ねるしかありません。自身の経験だけでなく先輩から聞いた話なども参考に、2次災害が起きないよう心掛けています。慎重すぎるかもしれないぐらい、注意して行動します」

     救難員を長く続けるのは、自分の使命だと話す佐藤1曹。

    「1人じゃないんですよね、勝手にやめたら殉職された先輩に怒られそうな気がする。五体満足で体が動いて、部隊に貢献できる限りやり遂げたい。身尽きるまで、職務を全うしたいと思っています」

    必要なのは細かな意思疎通

    画像: 地上の救難員を目視、右手のコントローラーでホイストを操作。

    地上の救難員を目視、右手のコントローラーでホイストを操作。

    【百里救難隊 UH-60J 機上整備員 中武翔太郎3等空曹】

    機体の全てを知り尽くした救難ヘリの“つなぎ”役

    左手はトリムスティック(写真の下側)を握り、パイロットがホバリングを維持する機体の位置を微調整

     機上整備員はヘリコプターのパイロットに対し、エンジンの状態や燃料の残量などを計器から読み取り報告。パイロットが操縦に集中できるよう、機体全般のシステムの管理と操作を行う。また人命救助の場面では救難員を海や山に降ろすサポートをする。

    「ホバリング中の航空機を要救助者のもとへどう誘導するか、細かく調整するのは機上整備員です。ヘリがどう動けばよいかキャビンから見極め、ダウンウオッシュが当たらないギリギリの場所まで誘導します」と中武3曹。

    画像: キャビンから機外をうかがい、1メートル単位でヘリを目的地に誘導。機上整備員が使うトリムスティックは機体位置の微調整のみ可能なため、パイロットとの連携が重要だ。伝え方、状況把握など複数のタスクを、高いレベルで一度にこなす

    キャビンから機外をうかがい、1メートル単位でヘリを目的地に誘導。機上整備員が使うトリムスティックは機体位置の微調整のみ可能なため、パイロットとの連携が重要だ。伝え方、状況把握など複数のタスクを、高いレベルで一度にこなす

     救助に使用するホイスト操作も機上整備員の仕事だ。「つり上げ時の風の影響などでホイストケーブルが大きく揺れてしまうと、要救助者や救難員が負傷してしまう恐れがあるので、取り扱いには注意しています。パイロットと救難員をつなぐ細やかなコミュニケーションが求められるため、短い言葉でも伝わる表現力を身に付け、任務を確実に遂行できるようになりたいです」

    不具合を見逃さない目になる

    画像: 救難隊の整備員は、計器類や電子機器、機体整備などそれぞれが専門分野を持ち、全員で一丸となって整備を行っている(写真右端が有元1尉)

    救難隊の整備員は、計器類や電子機器、機体整備などそれぞれが専門分野を持ち、全員で一丸となって整備を行っている(写真右端が有元1尉)

    【百里救難隊 整備小隊長 有元千明1等空尉】

    安全な任務を遂行するため万全の準備で整備を行う

     救難隊が使用するU−125AとUH−60Jの整備を担当する整備員。飛行前後の点検や各種検査などを担当する。有元1尉は、整備小隊長として両機体の搭載品の整備・管理や整備員の指揮などを行う。

    「機体に異常がないかを点検して整備する仕事は、細かなことを見逃さない集中力が求められます。現場の整備員と実際に飛ぶパイロットは考え方も違う。両者をつなぐため、例えば任務から戻った機体の整備作業を夜通しで行う必要があるのか、後でもよいのかなど整備員とパイロットそれぞれに話を聞き対応できるよう心掛けています」

     日ごろから点検を確実に行い、不測の事態に備え別のプランを用意するなど複数の計画を立てている百里救難隊の整備小隊。そして有元1尉は部下に寄り添うことも忘れない。

    「2人の整備班長とともに整備班の管理を担当していますが、隊員が整備作業を進める中で感じている、困っている点や変えてほしいと思っていることに対して、積極的に耳を傾けています。百里救難隊の整備員は『何か改善したいことはないですか?』などと聞けば積極的に発言してくれるし、改善点について素直に意見を言ってくれるので、整備小隊として同じ目標を目指し、より良い方向に進んでいると思います」

    あらゆる状況に合わせて対応する救難装備

    道具類

    画像: 道具類

     救難員が使用する救助用の資器材。要救助者を搬送する(1)ストレッチャーやスリング(要救助者をつり上げる際に使用するベスト状の救難道具)、太さや素材が異なるロープ類が一般的な道具だ。

     ほかにも(2)AED、(3)酸素の吸入器、(4)包帯やギプスなどの救急キット、緊急度や重症度で治療の優先を決める(5)トリアージのタグなどを用意。

    装具編

    標準装備

     救難員の標準的な装備。胸にはカプサイシン成分の入ったクマよけスプレー、無線機を携行。ロープ類は状況に応じて太さなどを使い分けて携行する。

    落下傘降下装備

     UH-60Jが安全に降下できない場所では、落下傘で現場に降りることもある。救難員は陸上自衛隊の第1空挺団で落下傘降下の訓練を積んでいる。

    洋上装備

     酸素ボンベを装備した、洋上用の救難装備。ウエットもしくはドライスーツを着用。無線機は防水仕様だ。足にはフィン、サメよけやサバイバルナイフなども持つ。

    冬季山岳装備

     保温効果の高い雪山対策の防寒着のほか、ストックやスキーも携行する山岳装備。要救助者と共に1週間ほど野営できるだけの食糧品やテントなども装備している。

    (MAMOR2022年5月号)

    <文/守本和宏 写真/赤塚 聡>

    命を救うためのワンチーム!

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