2021年9月から11月にかけ、陸上自衛隊の全部隊が参加して、過去最大規模の演習が行われた。「令和3年度陸上自衛隊演習(陸演)」だ。
過去最大級の規模で行われた今回の「陸演」を、国内外を問わずさまざまな軍事演習を取材してきた軍事フォトジャーナリストはどのように見たのだろうか。現場を取材した菊池雅之氏にご寄稿いただいた。
ネット上をも駆け抜けた各地での自衛隊の大移動
改めて「陸演」が「これまでの演習とは違う」と感じたのはネットのSNS上からだった。タイムライン上には、日本各地で目撃された陸自の各種装備の写真が連日アップされていったのだ。
これは間違いなく30年前の陸演にはなかった国民の反応であろう。まさか自衛隊の各部隊が、陸路・海路・空路に加え、ネット上をも駆け巡るとは……。
私は取材するにあたり「何を取材すべきなのか……」と、思い悩んだ。そこで、各部隊の最終目的地である九州へと向かうことにした。間違いなくそこには「陸演」が目指したものがあるはずだから。
かくして、私は2021年10月4日、日出生台演習場へとやってきた。ここでは、第2師団の各部隊が陣地を構築していた。さっそく、「陸演」らしい1コマを見ることができた。物資の管理を行う集成補給隊の指揮所前に物資が運び込まれていた。その運搬を担ったのが民間の運送会社であった。
隊員が誘導する中、駐車場へとやってくるトラック。コンテナの中身を確認し、フォークリフトを使い地面へと降ろされた。官民一体となって、搬入作業が繰り広げられていくのは興味深かった。
運び込まれた燃料や弾薬は、さらに演習場内の集積地へと運ばれていった。その場所へと向かう道中、今度は濃緑の陸自トラックと何度もすれ違った。今回、戦車や装甲車よりも活躍が目立っていたのが、こうした各種輸送車両であった。
「陸演」の目的は機動力と兵たんの強化
師団の補給拠点では、地形をうまく活用し、偽装網で覆われた下に燃料が集積されていた。隙間からのぞくとドラム缶が並んでいるのが見える。こうした場所が数カ所設けられていた。1カ所に集中していないのは、敵の攻撃を受けた際のリスクヘッジのため。こうした置き方1つをとっても、戦闘を意識していた。
森の中に造られた弾薬の集積所も同様に、数カ所に分けられ、民生品のバリケードで守られていた。従来の官品にとらわれず、「良いものはとことん取り入れる」という強い意志で、民間の資器材を活用し、迅速かつ堅固な守りを固めていた。
とにかく「陸演」は、着眼すべき点が多すぎる。実弾射撃を伴う訓練のような派手さはないものの、長距離機動の演練、官民一体となった共同作戦、実戦的な段列(補給・整備などの後方支援の活動区域)の構成など、地味ながらも見どころが満載であり、当然、網羅することなどできなかった。「陸演」の目的となっているのが、機動力と兵たんの強化だ。これらは今の自衛隊に少し欠けているものでもあり、今回の訓練を通じて、間違いなく研ぎ澄まされたことだろう。
取材を終えて数日後。再びSNS上が自衛隊の大移動でにぎわった。それを見て私は、「陸演」が終了したことを知ったのであった。
【菊池雅之】
軍事フォトジャーナリスト。1975年東京生まれ。雑誌編集部を経てフリーに。自衛隊だけでなく、アメリカ軍をはじめ各国の軍隊を取材するため世界を回る
<文/臼井総理 撮影/SHUTO 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年3月号)