普通科・野戦特科・機甲科という3職種の総合学校である富士山の麓に位置する富士学校。普通科隊員は野戦特科、機甲科の学生とともに、ここで高度で実戦的な地上戦闘のノウハウを日々学んでいる。
地上戦闘のエリートとして他職種と交差教育を受ける
自衛隊には、自分が所属する職種のより高い知識、技能を習得するために、それぞれの学校が設けられていて、幹部のための初級課程(BOC:Basic Officer's Course)や中隊長などの教育のための上級課程(AOC:Advance Officer's Course)、職種の上級指揮官などを教育する幹部特修課程(FOC:Functional Officer's Course)など、各種教育が行われている。
陸自最大人数を誇る普通科職種の教育は、静岡県富士駐屯地にある富士学校普通科部が担当している。
施設科職種のための施設学校、輸送科職種のための輸送学校など、陸自ではその職種単独の学校が設置されている。
しかし富士学校は普通科だけでなく、火砲やロケット、ミサイルなどを運用する野戦特科、戦車部隊や偵察部隊などの機甲科の3職種の教育が一緒に行われている。
普通科は地上戦闘の骨幹部隊であり、第一線でも野戦特科、機甲科と協同して作戦を実施することが多いので、互いに教官の派遣や交差教育をするほうが、より効果的で実際的な教育訓練を行えるというのがその理由だ。
グローバルな事態に対処できる優秀な人材を育成
富士学校普通科部は主として教育課と研究課で構成されている。
教育課では幹部教育であるBOC、AOC、FOCのほかに、レンジャー、通信、対戦車ミサイル、狙撃、迫撃砲、普通科施設、偵察などの課程教育の実施を担当している。
また研究課では普通科部隊の運用や普通科職種の将来的な在り方などの調査研究を行っている。このほかに富士学校には、学生の教育の支援を行う富士教導団がある。
普通科、機甲科、野戦特科の3職種の実戦教育を行うため富士教導団には90式戦車や89式装甲戦闘車、155㎜りゅう弾砲FH70、12式地対艦誘導弾などの各種装備品が配備されている。骨幹部隊であるために、国際安全保障環境の変化にともなって離島対処やグレーゾーン事態(注)への対処など、普通科に与えられる任務も年々変化、拡大している。
普通科部長兼諸職種協同センター副センター長の松永康則陸将補は、「時代のすう勢と科学技術の進歩により、普通科もこれまでの戦い方を反復すればよい時代ではなくなりました。他国軍との共同訓練に参加して最新の戦術を研究・習得したり、最新の武器、各種システムと連結された装備や情報機器を最大限に活用できるよう、訓練、教育を重ねていかなければなりません」と語る。
そうした時代の変化に対応できる知識と経験を備えた優秀な人材と練度の高い部隊は一朝一夕に育つものではないため、職種教育の重要性をより強く認識しているという。
(注)純然たる平時でも有事でもない幅広い状況。例えば、国家間において、領土、主権、海洋を含む経済権益などについて主張の対立があり、少なくとも一方の当事者が武力攻撃に当たらない範囲で実力組織などを用いて、問題に関わる地域において頻繁に存在を示すことにより、自国の主張・要求の受け入れを強要しようとする行為が行われる状況
<文/古里学 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年1月号)