わが国最大規模を誇る防衛組織・陸上自衛隊には、その役割に合わせて16の職種があり、その職種などに基づき部隊名が決められています。戦車部隊がある「機甲科」や航空機を要撃する「高射特科」、主に陣地の構築、渡河支援を行う「施設科」などは、職種名を聞いて任務内容を想像できますが、では「普通科」の任務は? と聞かれると分からない方が多いのではないでしょうか?
全部で16ある陸自の職種の中で最も隊員数が多く、骨幹部隊ともいわれる「普通科」。その実態を分かりやすく解説しましょう。
なぜ「普通科」と呼ぶ? 知らなすぎる普通科の概要を解説しよう
幅広く総合的な戦闘能力を有し、あらゆる局面で活躍が可能な陸上自衛隊普通科。その役割とは何なのか、さらにこれから求められるものなど、あまり知られていない普通科の素顔に迫る。
歩兵の部隊である普通科はあらゆることに対応可能
「普通科」とは、いわゆる歩兵の部隊である。世界中のあらゆる軍隊において歩兵部隊は基本戦力であり、旧大日本帝国陸軍には500以上もの歩兵連隊があった。その歩兵部隊の重要性は、装備品の改良や無人化が進む現代においても一貫して変わらない。なぜなら航空、海上からの攻撃はその地域で優位に展開したり、敵を撤退させることはできるが、その地点から敵勢力を一掃して完全に占領、奪還するためには歩兵がそこに進攻して常駐しなければならないからだ。
その歩兵部隊が戦後の自衛隊においてなぜ「普通科」という名称になったのか、理由ははっきり分かっていない。国防を任務とする組織なので「兵」という言葉を嫌ったものと推測され、最も一般的で戦闘に「普(あまね)く通ずる」職種ということで「普通科」と名づけられたものとも考えられている。
普通科の使命は各種戦術行動において主として近距離での戦闘で敵を撃破し、必要な地域を占領確保すること。そのため普通科は第一線において戦闘能力発揮に必要な火力、機動力、防護力、指揮・通信、兵たんなど多くの機能を有しており、独立して活動できる総合的な戦闘力を組織化した職種なのである。
普通科の歴史は70数年。特色ある連隊も多く存在
普通科の始まりは、1950年に警察予備隊が創設された際に12個普通科連隊が編成されたときにさかのぼる。その普通科連隊は54年の陸上自衛隊創設を機に18個連隊になった。現在、陸自は普通科部隊として、普通科連隊、機械化連隊、水陸機動連隊、即応機動連隊、中央即応連隊、普通科大隊/空挺団、対舟艇対戦車隊、普通科中隊/警備隊、普通科教導連隊を有している。
3個大隊からなる第1空挺団を例外として、普通科は連隊を最大単位として師団・旅団の基幹部隊となる。普通科連隊には3〜6個の普通科中隊があり、ほかにも施設部隊や偵察部隊、衛生科部隊などさまざまな職種が集まっている。また各普通科中隊は中隊本部を含む通常3・4個の小銃小隊と迫撃砲小隊、対戦車小隊などで編成されている。
部隊編成上の単位
師団・旅団/師団は普通科や後方支援部隊など、諸職種が集まった基本的な作戦部隊。旅団は師団より規模を縮小した部隊
連隊/師団・旅団の下の単位で、通常、中隊3~6個からなる
大隊/中隊と連隊の中間規模の組織
中隊/本部および4~7個の小隊などによって編成される組織
小隊/本部および3、4個の分隊によって編成される組織
分隊/小隊を構成する10人前後の組織
<文/古里学 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年1月号)