映画や小説などで“最強の戦士”レンジャーを見聞きしたことはないですか? わが自衛隊にもレンジャー隊員がいます。自ら希望して過酷な訓練と試験を受け、合格した自衛官だけが、特殊な戦闘技術と、いかなる状況でも戦えるようにサバイバル技術を身に付けたレンジャー隊員になるのです。
レンジャーへの最初の1歩。目指せ、体力検査クリア!
その過酷な課程を知るために、入り口となる「資格確認検査(通称、素養試験)」の体力検査を受けてみませんか? これをクリアしなければ、レンジャーになるための、以後の訓練すら受けられません。芸能界きっての体力自慢であるサバンナの八木さんも一緒に参加してくれます。さあ、レンジャー!
2000メートル持久走
銃を持って走るのがこんなに難しいとは!
合格基準 9分30秒以内
訓練用に作られたゴム製の89式小銃の銃身と銃床を両手で持ち、体からこぶし1つ分ほど離して脇を締め、半長靴をはいて2000メートルを走る。ランニング中に銃を揺らしたり、保持する位置を下げてはいけない。模擬銃の重さは本物の89式小銃と同じ3.5キログラム。八木さんは200メートルほどで疲労困憊に。
手りゅう弾投てき
簡単そうに見えるが思ったほど遠くへ飛ばない
合格基準 30メートル以上
訓練用手りゅう弾を30メートル以上投げられれば合格。手りゅう弾は手のひらにすっぽり入るサイズだが、野球の硬式ボールが約150グラムなのに対し、648グラム。そのためボールと同じ投げ方だと肩や肘を故障する恐れがあるので、肘を伸ばし腕全体を回すようにして投げるのが鉄則。八木さんの記録は15メートルほどだった。
300メートル疾走
意外に重い半長靴。後半どんどんきつくなる
合格基準 60秒以内
60メートルの直線を60秒以内で2往復半走る。直線の両端にはラインが引かれ、片足がラインを越えたらターンしてもよく、スピードを極力落とさずに方向転換するのがコツ。
八木さんは最初の1往復はまずまずのタイムだったが、走っているうちに半長靴の重さが足にきて、後半はバテバテに。それでも最終タイムは70秒と健闘した。
腕立て伏せ
あごが地面に着くまで曲げるのが自衛隊式
合格基準 25回以上
肩幅プラスこぶし1つ分くらいの幅で地面に手を着く。両手の指は全て閉じ、指先をやや内側に向け「ハ」の字をつくる。背筋は伸ばし、顔を上げて目線は前に。この状態からあごの先端が地面(ここではけが防止のクッション)に着くまでゆっくり腕を曲げ、体を反らさないようにして腕を伸ばす。八木さんは見事25回をクリア!
腹筋
正しいフォームが難しくノーカウントが続く
合格基準 25回以上
両脚をそろえて膝を直角に曲げ、つま先を補助者が押さえる。両手のひらを頭の後ろにあて両肘を張る。このまま体を起こし、起こし切ったところで上体をひねり、片方の肘を反対の膝にタッチ。これを左右交互に行う。
膝が開いたり反動をつけたりした場合はノーカウント。八木さんは25回ほど起き上がったが、半分カウントされず。
かがみ跳躍
15センチメートルのジャンプは高いハードル
合格基準 35回以上
上半身を真っすぐ伸ばし、頭の後ろで両手を組んで肘を開く。そのまま左右の足を1歩分前後に開いてしゃがむ。合図でジャンプして空中で足の前後を入れ替えて着地。これを繰り返す。ジャンプは15センチメートル以上跳ばなければならないが、これが難しく、八木さんは10回跳んだが1回も15センチメートルを超えられず。
懸垂
反動をつけない自衛隊式のやり方でやると超キツイ!
合格基準 7回以上
両手を肩幅に広げて鉄棒にぶら下がり、両足のつま先を着けた状態で体を一直線にして静止。その状態から腕を曲げて体を引き上げ、あごが鉄棒の上に来るまで持ち上げる。次に腕が完全に伸びきるまで体をおろし、元の状態に戻る。つま先同士が離れたり、腕が伸び切らない場合はカウントされない。八木さんは5回半まで頑張った。
土のう運搬
普通の人は担ぐだけで精いっぱいで動けない
合格基準 14秒以内
50キログラムの土のうを担いで、50メートルを14秒以内に運ぶ。50キログラムは18リットルの灯油が入ったポリタンク3個分を少し上回る重さだ。土のうの持ち方は自由で、スタートライン後方から助走をつけて走り始めてもよい。腰の状態に不安のある八木さんは隊員の手を借りて何とか土のうを担ぎはしたが、走るのは棄権した。
どのくらいできた?レンジャー素養試験チェックシート
うわさに聞く自衛隊レンジャーに、はたしてキミはなることができるか?その受験資格の有無を試す「レンジャー素養試験」に、チャレンジしてみよう!
※試験種目の順番は連隊ごとに異なるため誌面では順不同で紹介する。小銃と手りゅう弾、土のうは同程度の重量の安全な代用品を用いること
「自衛隊のすごさを再認識しました」
「8種目の中では土のうの運搬が一番きつかったですね。担いだ瞬間、これはムリッ!と思いました。腕立て伏せは普段からやっていたので何とかクリアしましたが、やっぱりフォームや体幹が大切だなと実感しました。
ポイントは靴。半長靴はとにかく重い!あれを履いて、迷彩の服を着てあの種目をこなす自衛隊の人たちはすごい。体格が違うし、基本体がすでに仕上がってますよね。『カッコええなぁ、自衛隊』とつくづく思いました」と八木さんは感想を述べた。
ほかにもまだある!検査項目
レンジャーに求められるのは筋力だけではない。血圧や視力などの基本的な身体条件を満たした上で、水泳能力まで査定される。活躍の場は陸上だけにとどまらないからだ。
水泳技能
項目は3種目。まず泳法自由で100メートル以上を泳ぎきること。次に無呼吸で潜水したまま水中を10メートル以上泳ぐ。最後は顔と両手を水面に出して1分以上の立ち泳ぎ(写真)だが、水深の浅いプールで行うので、足が底に着かないように動かし続けるのが一番きついらしい。
身体検査
36歳以下で、背筋力は150キログラム以上、握力は左右とも40キログラム以上、肺活量は3200cc以上、運動後の脈拍数が一定基準以下で、視力が裸眼で0.6以上か、0.2以上で矯正して1.0以上。さらに血圧、心電図、色覚、夜間視力、尿検査などの結果が正常だと合格。
【八木真澄】
1974年生まれ。京都府出身。吉本興業で94年に高橋茂雄とお笑いコンビ「サバンナ」を結成しツッコミを担当。柔道2段、極真空手初段という肉体派で、1000個以上のギャグを持ち、テレビなどで活躍中。現在「サバンナ八木・八木家ファミリーチャンネル」などのYouTubeも公開中
<文/古里学 撮影/江西伸之 撮影協力/板妻駐屯地第34普通科連隊>
(MAMOR2022年1月号)