掃海部隊には水中処分員と呼ばれる水中で爆破物処理を行うスペシャリストがいる。「潜水」と「爆発物処理」の掃討という危険を伴う2つの任務が課せられた水中処分員の活動を紹介しよう。
体ひとつで危険な任務に臨む水中処分員とは
水中処分員は、Explosive Ordnance Disposal diverを略してEODと呼ばれている。EODになるには、潜水の基礎を学ぶ「スクーバ課程」、より詳しく潜水を学ぶ「潜水課程」を修了し、爆発物処理について学ぶ「水中処分課程」を経て初めて配置される。
「潜水」と「爆発物処理」という危険を伴う2つの任務が課せられているので、その道のりもとても険しい。EODは数々の試練を乗り越えて特殊技能を身につけた、屈強なメンバーなのだ。
掃海艦艇が機雷らしいものを探知した後、それが機雷であるか確認するためにEODはゴムボートに乗って爆発物に向かう。場合によっては、機雷に爆薬を取り付けて処分を行うこともある。EODはどんなときにも冷静に対処できる適性が求められる職種なのだ。
あらゆる状況に対応するEODの装備品
携帯用機雷探知機を装備した状態
潜る場所や時間を選べないEODの任務。視界の悪い海や夜間の機雷捜索には、超音波を映像化できる機雷探知機を使用して機雷を探す。
通称「ハンドソナー」と呼ばれ、音の反響を聞き分けて捜索する携帯用機雷探知機。
1万回の訓練が確実な成功を生み出す。横須賀水中処分隊の不発弾処理訓練に密着
水中処分員(EOD)の重要な任務である爆発物処理。全員がEODの資格を持つ横須賀警備隊水中処分隊の「爆発性危険物処分」訓練に密着同行。その様子をリポートしよう。
不発弾を処理する爆発性危険物処分
横須賀警備隊水中処分隊は、護岸工事などで見つかる不発弾や爆発性危険物などの処理にあたるEODの部隊だ。水中で発見された不発弾などで、安全を確認できないもの(陸上での移動・保管について危険と判断されるもの)は許可を得た海域で水中爆破処理する「爆発性危険物処分」を実施している。
今回密着したのは、その「爆発性危険物処分」の予行訓練。前もって発見・集積した不発弾を爆破ポイントまで運び、爆薬を設置して爆発させるまでの一連の流れを見せていただいた。
1:前もって発見・集積した不発弾の浮揚作業
まずEODが不発弾を一時的に集積した場所に潜った。実際の不発弾は厳重に流出防止の措置をして移動する。
不発弾を保管したかごにバルーンを取り付ける。訓練時の海中視界は約2メートル。天候や季節により海中の環境は変わる。
2:ゴムボートでえい航し、爆破ポイントへ移動
バルーンと不発弾を保管したかごがしっかりとつながれたことを確認し、バルーンに空気を注入して海面近くまで浮上させる。
ゴムボートに、海面に浮上したバルーンのロープをつなげ、爆破ポイントまでえい航する。移動の衝撃で爆発の恐れもあるため慎重な作業が求められる。
3:爆破処理用の爆薬設置作業
爆破ポイントにえい航した不発弾を設置し、安全な距離までボートで移動。発火位置に目印のブイを設置する。
EODが爆破処理用の爆薬の上に模擬の不発弾を設置。確実に爆発させるため、不発弾の上下に爆薬を重ねて設置する。
爆薬につなげた導爆線を設置。海流によって流されないよう海底に固定し、中間ブイに結びつけた発火用電線近くに固定。
4:雷管を装着し、安全確認後に不発弾を爆破
ボート上で発火用電線に接続した電気雷管を導爆線に装着。最も危険な作業であり、最小限の人数で行う。
爆破ポイントから十分に離れた位置で発火用電線に発火器を接続後、処分指揮官の指示でスイッチを操作して爆破する。
取材時は訓練のため実際に爆破することはなかったが、処理をする弾薬が多い場合、相当高い水柱が上がる。視界が回復したころに処分指揮官が潜水し、完全に爆破されたか確認する。
陸上でできるまで繰り返し水中での訓練に臨む
体ひとつで臨む危険な任務だからこそ、訓練も厳しいものになる。この道25年のマスターダイバーである栗原力也海曹長とEODとして初めて不発弾処理訓練に臨む羽鳥周作3等海曹と市川悟3等海曹に話を聞いてみた。
「海中では会話ができないため、事前に陸上で何度も練習をします。陸上でできないことは水中ではできません。訓練では若手がどこまで理解しているかを見極めます」(栗原曹長)
「臨機応変に、周りが作業しやすい状況を作るよう心掛けています。自分で考え、自分で行動し、機転が利くEODになりたいです」(羽鳥3曹)
「雷管を装着し、発火器を操作する役割です。慎重かつ冷静な作業を意識して訓練に臨んでいます」(市川3曹)
<文/鈴木千春(株式会社ぷれす) 写真/尾﨑たまき>
(MAMOR2019年9月号)