•  日本の平和は、世界各国間の外交や軍事による勢力争いなど、刻々と変化する国際情勢に大きく影響される。そのため、それを守るには、関係諸国の動きを正しく読み解き、適切に対処する必要がある。私たちも日ごろから理解に努めようと思っているが、複雑化する現代の国際状況を理解するのは、なかなか難しいものだ。

     そこでマモルは、「地図なら、スマートフォンの操作のように世界を直観的に理解できる」と考え、日本の防衛を読み解くためのマップをまとめた地図帳を作ってみた。

    日本の防衛が分かる逆さ地図

     現在、日本の周辺で起きていることの意味を知るために、まず周辺諸国にとって日本がどのような位置に置かれているのか理解する必要がある。見慣れた世界地図を逆さにして、大陸側から日本を見てみよう。

    見慣れた地図を逆さにして見ると、日本の特異性が分かる

    画像: 見慣れた地図を逆さにして見ると、日本の特異性が分かる

    「中国の艦艇が尖閣諸島周辺のわが国領海内に侵入」とか、「ロシア政府が北方領土周辺で長期間にわたる射撃訓練を実施」など、最近、近隣諸国に関するニュースを頻繁に耳にする。なぜ、広大な領土を持つ彼らが、決して広くはないわが国の領土・領海を脅かす活動を執拗に行うのか? それを直観的に理解する方法がある。それは、日ごろ私たちが見慣れた世界地図の天地を逆さまにして見ることだ。

     こうして見ると、日本は、ユーラシア大陸の東端に位置する中国やロシアが、太平洋やインド洋など外洋に進出しようとする際に、それをふさぐような場所に位置していることが一目で分かる。彼らが海洋覇権を唱えようとするときに、最初の障害となるのが日本列島と、そこに駐留する在日アメリカ軍になるのだ。

     このように、普段から見慣れた地図でも、見方を変えるだけで日本の安全保障環境を理解するための参考イラストになるのだ。そこで登場するのが、当「マモル・アトラス」。複雑で分かりにくい防衛関連のニュースを、「百聞は一見にしかず」と理解できる地図帳だ。道に迷ったときに役立つのは地図。さまざまに飛び交う情報に迷ったら、ぜひ、活用いただきたい。

     地図を見て、世界有数の軍事大国で、しかも、同盟関係にないロシアと中国に隣接しているという日本の位置を理解できただろう。この位置が持つ意味について、地理的環境から、国家間の関係を分析したり、外交や軍事戦略の理解に生かす学問である「地政学」の権威である奥山真司氏に解説してもらった。

    国内問題が片付き外部へと進出を始めた中国とロシア

     地図上で日本を見ると、中国、ロシアという世界の2つの軍事大国および北朝鮮の近くに位置していることが分かる。アメリカと同盟を結ぶ西側諸国と価値観を異にするこれらの国々に近接するという、地理的にも特殊な環境に日本は置かれている。そうした中、2008年の尖閣諸島周辺海域への領海侵入を皮切りに中国の日本周辺海域での活動が止まらない。また旧ソ連時代からあったロシア機の領空侵犯も1991年以降断続的に行われ、いっこうに収まらない。いったいなぜ彼らはそうした行動に出るのだろうか。

     奥山氏によると、中国、ロシアとも地政学上のキーワードであるユーラシア大陸の大陸国家「ランドパワー」に位置づけられ、周囲を海で囲まれた日本やアメリカのような「シーパワー」とは歴史的に対立してきたという。その典型的なランドパワーである両国が、現代において国外へ拡大し始めたのは2000年代に入ってから。中国は他国との国境紛争が一段落し、改革開放路線の推進で経済力がアップ。それにともなって国民への愛国教育を強化していった。

     同じくロシアも、91年のソ連崩壊後、共産主義に代わる資本主義がうまく機能しなかったところに、強いロシアの復権を掲げるプーチンが登場、折から2007~08年に原油価格が急上昇してロシアの国力が一時的に持ち直し、プーチンに権力が集中するとともに、かつてのソ連のようにロシアの力を国外に誇示しようとする。どちらも国内の問題に一応のけりが付き、力を外へと向けるようになったのだが、さらに奥山氏は以下のように付け加える。

    「中国もロシアも根底には、『かつて失われたものを取り戻す』という意図があります。彼らにとっては尖閣諸島やクリミア半島はもともと自分たちの領土。そのため、その周辺に他国が進出することに強い拒否反応を示し、排除しようとするのです」

    【奥山真司氏】
    国際地政学研究所上席研究員。戦略研究学会理事。戦略学博士。専門は地政学、戦略研究。防衛省幹部学校講師。主な著書に『地政学――アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、『"悪の論理"で世界は動く!』(フォレスト出版)など

    ※本特集内の地図は全て、概念を示すためのイメージ図です。地図上の範囲や航路、配置などは実際の正確なものではありません。

    (MAMOR2021年11月号)

    <文/古里学 地図製作/東海図版株式会社 地形レリーフ出典 : 国土地理院(グラフ出典/令和3年版防衛白書)>

    マモル・アトラス

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