•  自衛隊にはさまざまなフォルムを持った特殊な装備品がたくさんある。その掃除方法はやはり特殊なのだろうか?戦車や航空機、護衛艦など、「これはどうやって洗うんだろう?」と疑問に思った装備品の掃除法を調べてみた。

    野外入浴セット2型の掃除:浴槽に水を張り、掃除に活用

     災害派遣時に被災地で開設される入浴施設としても活用される野外入浴セット2型。掃除は浴槽に水を入れ、おけなどの付属品を洗う。その後、浴槽の汚れをブラシなどで落とす。

    画像: ボイラーや浴槽などがセットになった野外で入浴できる装備

    ボイラーや浴槽などがセットになった野外で入浴できる装備

    画像: 付属品は浴槽で洗う。天幕は汚れを落とした後、乾燥させる(天幕の掃除参照)

    付属品は浴槽で洗う。天幕は汚れを落とした後、乾燥させる(天幕の掃除参照)

    野外炊具1号(改)の掃除:洗浄用に専用トレイを携行して掃除する

     大型トラックでけん引して使用する移動式の調理器材、野外炊具1号(改)。かまどなどは濡らした布などで拭き、内釜などの調理器具や食器類は掃除用に用意した専用トレイで洗う。

    画像: 約250人分の主食・副食を同時に作れる調理装置

    約250人分の主食・副食を同時に作れる調理装置

    画像: 野外での掃除ではポリタンクに入れた水を使用。量に限りがあるため大切に使う

    野外での掃除ではポリタンクに入れた水を使用。量に限りがあるため大切に使う

    天幕の掃除:ブラシで洗った後、しっかり乾燥させる

     天幕全体に水をまき、デッキブラシなどで汚れを落とす。掃除後そのまま折り畳んで保管すると湿気がたまり、かびが生えることもあるので、折り畳む前にしっかり乾燥させる。

    画像: 陸上自衛隊のほぼ全ての部隊にある隊員が使用する装備品

    陸上自衛隊のほぼ全ての部隊にある隊員が使用する装備品

    画像: 1人がデッキブラシで汚れを落としながら、もう1人は穴などが開いていないか確認しながら掃除を行う

    1人がデッキブラシで汚れを落としながら、もう1人は穴などが開いていないか確認しながら掃除を行う

    92式浮橋の掃除:動力ボート部内の水濾し器に入った汚れを除去

     橋のない河川に、水に浮く橋節(橋げたにあたる部分)を浮かべて橋にする92式浮橋。掃除は橋節内部に溜まった水を排水し、泥などの汚れを高圧洗浄機で落とし、可動部分などに油をさす。

    画像: 橋のない河川に設置して、車両などを渡すための装備

    橋のない河川に設置して、車両などを渡すための装備

     橋節同士をつなぐロープ類は洗って乾燥させる。特に動力ボート部は、エンジンの冷却水を川から取り入れる際のフィルターにあたる「水濾し器」を使用後に分解清掃。中に入った藻や汚れを除去している。

    最大100メートル以上の浮橋を河川などに設置可能な92式浮橋。写真は橋として展開する前の「輸送状態」での掃除。高圧洗浄機で上から汚れを落としていく

    化学防護衣4形の掃除:ゴムの劣化を防ぎ、高機能を維持する

     有毒な化学剤などが存在する中で使用する化学防護衣。防護衣に穴や亀裂があるとそこから有毒成分が入り込むため危険だ。そのため、清潔に保ちゴムの劣化を防止することはとても重要。

    汚染された地域の偵察や除染作業で使用される防護衣

     石けん水で洗ってから水ですすぐが、両腕部と後頭部に防護服内の蒸れを調節する「排気弁栓」があり、普通に乾かすだけでは水滴が残るので、栓を開けて乾かす。また袖は2重構造になっており、表面が乾いたら外袖をまくり、内袖も乾かしている。

    画像: 乾燥後はタルク(ベビーパウダー)を内側に塗る。ズボン部分、腕部分など各部ごとに丁寧に実施。ゴム同士のくっ付き防止となり着脱もスムーズになる

    乾燥後はタルク(ベビーパウダー)を内側に塗る。ズボン部分、腕部分など各部ごとに丁寧に実施。ゴム同士のくっ付き防止となり着脱もスムーズになる

    洗浄後は、必ず日陰で乾燥させる。直射日光を当てるとゴムが劣化するためだ

    小銃の掃除:各パーツを磨いて銃身部分も清掃する

    画像: 89式5.56ミリ小銃は、単発、連発、3連発して止めることが可能

    89式5.56ミリ小銃は、単発、連発、3連発して止めることが可能

     89式5.56ミリ小銃などの掃除は、手あかなどが付くグリップ部などを布で拭き、汚れを落とす。銃身の掃除は、「手入れ棒」と呼ばれる短い棒を何本か組み合わせた道具を使う。

    画像: 左手に持った手入れ棒で銃口内を掃除し、右手で銃床を拭く。短時間で効率よく掃除を行う

    左手に持った手入れ棒で銃口内を掃除し、右手で銃床を拭く。短時間で効率よく掃除を行う

     先端に穴が開いているので、ウエスを通して入れ、手入れ棒を回して汚れを拭き取る。すす汚れが激しい場合は、ウエスを交換し、作業を繰り返す。

    84ミリ無反動砲の掃除:射撃の反動で発生するすす汚れを掃除

    画像: 対戦車砲だけでなく、照明弾や発煙弾も使用可能な火器。砲身を専用ブラシで磨き、内部のすすを落としていく。1人が支え、もう1人が掃除する

    対戦車砲だけでなく、照明弾や発煙弾も使用可能な火器。砲身を専用ブラシで磨き、内部のすすを落としていく。1人が支え、もう1人が掃除する

     84ミリ無反動砲は射撃時の反動を打ち消すために、砲弾発射と同時に砲口と逆方向の後方へ大量のガスや樹脂破片を高速噴射する構造だ。そのため、砲身内にすすがたまりやすい。

     掃除はウエスなどで外側を磨き、砲身は専用のブラシを使い、すすを落とす。約16キログラムと比較的軽量だが、安全のため、掃除は2人1組で行う。

    弾薬の掃除:1発1発丁寧に磨き品質を確認する

    画像: 弾薬は5.56ミリや7.62ミリなど複数の種類がある

    弾薬は5.56ミリや7.62ミリなど複数の種類がある

     自衛隊が使用する弾薬はけん銃、小銃から、戦車砲や大砲まで、種類も量も大量にある。これらの弾薬はメーカーから納入されると、隊員の手で1発ずつ掃除・点検が行われる。

    画像: 弾薬は1発1発状態を確認して磨いていく。小銃でも大砲の弾でも同様だ

    弾薬は1発1発状態を確認して磨いていく。小銃でも大砲の弾でも同様だ

     不具合があると命に関わる問題のため、1発1発を布を使って手で磨き上げながら、傷やへこみがないかなどを確認している。

    18式個人用防護装備(防護マスク)の掃除:入り組んだマスクは内部を丁寧に掃除

    画像: 単眼式のゴーグルで広い視野を確保できる防護マスク。防護マスク内部は汗がたまりやすい。ウエスなどで丁寧に水分を拭き取り乾燥させる

    単眼式のゴーグルで広い視野を確保できる防護マスク。防護マスク内部は汗がたまりやすい。ウエスなどで丁寧に水分を拭き取り乾燥させる

     有毒ガスなどが発生している中で使用する防護マスクは、亀裂などが絶対あってはならない装備品だ。掃除は、穴がないかを確認しながら、傷つけないようウエスなどで丁寧に汚れを拭き取る。「伝声呼気室」と呼ばれる声を通しやすくする部位は、汗などの水分が残るとかびの原因になるので、とくによく拭き取る。

    携帯用無線機の掃除:エアでほこりを落とし細部を磨く

    背負い式で上空に向けてアンテナを立てて使用する無線機

     携帯用無線機には、アンテナやケーブル類、隊員が携帯するケースなどを取り付けるベルトなど、接合部が多数ある。

    画像: 無線機はケーブル類の接触不良が命取り。汚れを残さないようしっかり磨く

    無線機はケーブル類の接触不良が命取り。汚れを残さないようしっかり磨く

     掃除の際は、これら接合部にエアダスターを吹きかけてほこりや水気などの汚れを飛ばし、布などで磨き、スイッチ類がきちんと動くか、ケーブル類の接点の異物および腐食などがないかなどを点検しながら掃除をする。

    靴の掃除は、汚れを持ち込まないためにも行う

    画像: 靴の掃除は、汚れを持ち込まないためにも行う

     自衛官は自分の半長靴(くるぶしと膝の中間あたりまでの長さのブーツ)を毎日磨いて手入れをするが、隊舎の入り口などにはシューズクリーナーがあり、エアコンプレッサーから噴出する風で靴の汚れを吹き飛ばしてから隊舎に入る。屋内に汚れを持ち込まないようにするのだ。

    画像: 風圧で汚れを飛ばす写真のシューズクリーナーのほか、ブラシで汚れを落とすタイプもある

    風圧で汚れを飛ばす写真のシューズクリーナーのほか、ブラシで汚れを落とすタイプもある

    (MAMOR2020年12月号)

    <文/臼井総理>

    自分を磨く自衛隊式掃除法

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