島しょ部防衛強化のため、2024年を目標に陸上自衛隊と海上自衛隊の共同部隊である海上輸送部隊が新編されることになった。海上自衛隊に要員配置され、艦船を運用するための教育を受けているのは、陸上自衛隊にある全てのものや人員の運搬、移送を担当する輸送科の隊員だ。
近年、災害派遣や国際貢献活動が多くなるにつれて輸送科の活動範囲も拡大してきている。その全国にある輸送科部隊に勤務する隊員の教育を一手に引き受けるとともに、輸送にかかわる研究を行っている陸上自衛隊輸送学校を紹介しよう。
防衛大臣直轄の学校に全国から輸送科隊員が集う
輸送科隊員に求められるのはプロとしての高い技術と対応力である。それを育てる輸送学校には、学生の立場に応じてきめ細かい課程教育が設けられている。座学、実物の戦車やトレーラーなどを実際に積み降ろしする屋外実習、演習における野外教育など、その内容は盛りだくさんだ。
陸上自衛隊の全国5つ全ての方面隊および師団・旅団には輸送隊が置かれている。部隊が訓練やイベントなどに参加するときは、必ず輸送隊が必要な物資を輸送する。また、陸・海・空各自衛隊がそろって行う統合演習や、PKOへの参加などで、輸送科職種が活躍する場は年々広がっている。民間の物流と比べ、自衛隊の場合は装備品という重量があり、運搬に危険を伴う物資を移送させなければならない。
そのため輸送科隊員にはプロフェッショナルとしての高い技術と対応力が求められる。そうした輸送のプロ集団を育てるのが、陸自で輸送に関する教育、研究を実施している輸送学校だ。東京都にある朝霞駐屯地内に所在する、防衛大臣直轄機関である。
学校の編成は大きく、輸送任務に携わる隊員の教育・訓練を行う教育部、輸送科部隊の運用のための調査研究を担当する研究部、教育、研究の支援と実際の輸送任務にも携わる第311輸送中隊からなる。教育部が担当する過程教育は、幹部または陸曹を対象にしたものに区分される。
幹部課程は主に、幹部任命後5~6年の隊員を対象とした幹部上級課程、一般幹部候補生課程修了者を対象とした幹部初級課程、選抜された準陸尉、陸曹長を対象とした3尉候補者課程などがあり、それぞれ輸送科部隊の運用や輸送に係る技術を教育する。期間は課程により約3カ月から約1年と異なる。
また陸曹課程は、陸曹候補生を対象とする初級陸曹特技課程「輸送」や、業務隊などで輸送業務に携わる隊員を対象とした上級陸曹特技課程「輸送業務」などがあり、期間は過程により約1・5カ月から約3カ月と異なる。いずれの課程も座学はもちろん、実際の輸送車両などを使った実務研修、さらに幹部は図上演習など各種演習に参加して実戦的な経験を積まなければならない。
38トンの戦車を動かしてトレーラーに積み込む訓練も
さまざまな教育項目の中でも輸送学校ならではの教育が、実物の戦車などを輸送のために大型トレーラーに積み降ろしする「積載・卸下実習」であろう。輸送学校の敷地内には2カ所の積載・卸下実習場があり、そこには鉄道コンテナ貨車や輸送ヘリなどの実物や輸送機や輸送艦の積み込み口の模型が置かれている。
学生は輸送の基礎事項や手順、装備品の諸元などを座学で学んだあと、第311輸送中隊による模範となる作業展示や教育支援の下、自分たちで積載・卸下実習を行う。例えば74式戦車を73式特大型セミトレーラに積み込むには、輸送科隊員の分隊長と誘導担当者が戦車の操縦手に指示を出して、戦車を荷台の上まで移動させてもらう。
重量38トンの74式戦車の車幅は3・18メートル。一方トレーラーの荷台の幅は3・29メートル。余裕はわずか11センチメートルしかない。実習に参加した、北部方面輸送隊の星野昇3等陸尉は「初めてだったので、ギリギリの幅の調整はとても難しかったですね」と振り返る。
教育部車両科の教官である森川明夫2等陸尉は、「戦車部隊との事前調査をしっかりと実施し、密接な共同連携が必要」と語る。
実習では、第311輸送中隊の隊員がそのときの教育内容によってさまざまな支援を行う。
「学生の技量を高めるためには、中隊の隊員は模範になりつつも、うまくやりすぎてもダメ。その兼ね合いが難しい」と第311輸送中隊長の瀬古口祐美加3等陸佐。学生とはいえ、一定の経験を積んできており、その技量のさらなる向上を助けるにはどうすればよいか、常に考えながらの支援になるという。
かつては自身も学生として輸送学校の教育を受けた瀬古口3佐は、「学生たちの熱意に応えるような教育支援を行い、学生の成長の一助となるよう心掛けています」と語る。
輸送学校では、階級や教育目標によってきめの細かい教育が行われており、実習もトレーラー、鉄道コンテナ、艦艇などさまざまな輸送手段に対して行っている。教育部教務科の計画班長である小鶴豊1等陸尉によると、今後はさらに、統合輸送教育の充実を図っていくため空自・海自と共に行う教育や、民間企業などと行う部外研修などもより一層積極的に取り入れていきたいそうだ。
(MAMOR2021年10月号)
<文/古里学 撮影/荒井健 写真提供/防衛省>