•  地対空誘導弾「ペトリオット」を装備して、敵の航空機や弾道ミサイルからわが国を守る航空自衛隊の高射部隊。今回紹介する航空自衛隊高射教導群は、全国各地にある高射部隊を、ミサイル迎撃の精強集団へと文字どおり「教え導く」部隊で、高射部隊の戦術戦技に関する練度向上を支援するとともに、空自の高射部隊の最精鋭部隊として模範を示している。

     そんな高射教導群ならではの訓練ともいえる、模擬部隊を使った「教導能力向上訓練」。教導員、模擬部隊の各隊員に、訓練の意義や教導群での仕事のやりがい、抱負を聞いた。

    隊長:模擬部隊の特別な「仕込み」で教導員を鍛えています

     2つの教導隊のうち、高射群隷下の「指揮所運用隊」の教導を担当する第1教導隊。指揮所運用隊は、文字通り各高射隊を指揮し、ペトリオット・システム運用の要となる。

    「最近はコロナ禍の影響もあり、一部教導内容をリモート化して臨機応変に対応しています」と現状を語る川野3佐

    「指揮所運用隊の教導訓練のほか、われわれ自身の通常訓練、教導能力向上のために模擬部隊を使った訓練と、さまざまな訓練および研究、調査を行っています。各部隊に年1回浜松に集合してもらうか、もしくはわれわれが日本各地を巡回したり、演習の場に出向いたりして教導します」と語るのは隊長の川野貴伸3等空佐。模擬部隊と対峙する訓練では、曖昧な指導をすると突っ込みが飛んできて、毎回かなり厳しい訓練になるのだとか。

    隊舎の前には、ペトリオットの前に装備し、1994年まで運用していた地対空誘導弾「ナイキJ」がモニュメントとして置かれていた

     そして高射教導群での仕事のやりがいについては、次のように語った。

    「全国の高射部隊の先駆けとして、全高射群の状況を確認しながら、部隊能力向上の役に立つ重要な仕事です。われわれの頑張り一つで日本の防空力が変わると考えると責任も重大です」

    アメリカでの実射訓練を通じて国防力をさらに高める

    「教導の仕事は、いかに相手に理解させるかが一番難しい点。自らの使命感を問い直すことも大事です」と語る是永2佐

     全国に24ある高射隊の教導を担当する、第2教導隊。その任務について隊長の是永和人2等空佐はこう紹介する。

    画像: ニューメキシコ州にあるマクレガー射場まで、自衛隊の装備を持ち込んで実弾射撃訓練を行う。ペトリオットでの実弾射撃は1990年から継続して実施

    ニューメキシコ州にあるマクレガー射場まで、自衛隊の装備を持ち込んで実弾射撃訓練を行う。ペトリオットでの実弾射撃は1990年から継続して実施

    「全国の高射隊が持つペトリオット・システムの性能を最大限に発揮し、弾道ミサイル対処を含む、総合的な防空能力を高めるのが私たちの仕事です。各装置の操作、クルーの連携などで現場の部隊が気付かない点を教導します。また、通常、年1回実施する実弾射撃訓練の支援も大きな任務です」

    画像: 無人の標的機を目標に行うペトリオット実弾射撃の模様。例年は9~11月の2カ月半ほどの間に全国の高射部隊が入れ替わりで訓練を行う。その間、第2教導隊はサポートし続ける(写真提供/防衛省)

    無人の標的機を目標に行うペトリオット実弾射撃の模様。例年は9~11月の2カ月半ほどの間に全国の高射部隊が入れ替わりで訓練を行う。その間、第2教導隊はサポートし続ける(写真提供/防衛省)

     アメリカで行う実弾射撃訓練は、なぜ重要なのだろうか。

    「操作自体は国内でも訓練できますが、安全装置を解除して実弾を取り扱う緊張感、発射する感覚は、実弾射撃でしか経験できません。その経験を日ごろの訓練と実任務に生かしてほしいですね」

     最後に、高射教導群での仕事について、是永2佐は「部隊の成長を実感することこそが、この仕事最大のやりがいです。部隊が強くなること、それは国を守ることにつながりますから」と語った。

    模擬部隊:訓練のため、教導員の目線で動く

    模擬部隊として、電源車、アンテナ・マスト・グループを担当(写真提供/防衛省)

    【第2教導隊 電気員/中谷千里 3等空曹】

     模擬部隊として、教導員の訓練が有意義なものになるよう「教導員目線」も意識しながら動いています。ささいな事柄でも疑問が湧いたら思い込みで決めてしまわず、それを探究、解消するように心掛けています。

     この仕事では、全国にいる高射部隊員の練度維持、向上につながるのが一番のやりがいです。部隊が教導訓練に参加することで、特に若手隊員の意欲向上のきっかけになればと考えています。

    あえて失敗を演じることも

    模擬部隊として、射撃管制装置、レーダー装置、発射機を担当(写真提供/防衛省)

    【第2教導隊 高射操作員/宮田雅人 3等空曹】

     模擬部隊員は、教導員が効果的に訓練できるよう正確、安全に器材を操作する部隊を演じることもあれば、的確な指導力を付けるためにあえて失敗を演じることもあり、意外に難しい仕事です。

     私たち模擬部隊担当は、直接全国の部隊と接することはありません。しかし、精強な高射部隊をつくるために重要な「教導員の能力向上」という形で携わることができ、国防の一翼を担っていることに大きなやりがいを感じます。

    教導員:教えられる側の思考を踏まえて

    高射指令官・発射幹部の指揮、部隊活動全般についての教導を担当

    【第2教導隊 運用幹部/芳賀智也 1等空尉】

     自分も教導を受けた経験がある身として、被訓練部隊の立場に立ち、彼らの考え方や心情を理解した上で「納得できる教導事項」を伝えるように心掛けています。

     私自身、この仕事のやりがいは、自分たちでは気付きにくいところを教え、伝えて理解してもらうことだと思っていますし、ただやらされるのではなく、きちんと納得してもらったときに初めて、隊員各自も、そして部隊も精強になると考えています。

    ワンランク上の隊員を目指す

    発射機の整備、発射機整備員および操作員に対する教導

    【整備隊 高射機械整備員/村上優貴 3等空曹】

     教導群に来て、以前にも増して手順書を熟読するようになりました。ここでは、隊員の能力、動作、勤務に臨む心構え、全てがワンランク上を求められます。私も、他部隊の隊員から「さすが高射教導群だ」と言われるように、部隊のベテラン整備員を見習いながら頑張っています。

     大変なこともありますが、他部隊を見て発見があることも多く、視野も広がり、自分の知見を大いに広げられる仕事で、やりがいを感じます。

    ささいなことも見逃さない

    発射機の教導担当。特に関連規則や操作手順の実施状況を見る

    【第2教導隊 高射操作員/前田明彦 2等空曹】

     教導にあたっては、作業での立ち位置、言葉や身振り手振りを含む隊員間での連携など、ささいな点も見逃さないよう気を配っています。私も高射隊での勤務経験が長いので、細かいやりとりについては各部隊の特色を踏まえた上で改善点を伝えています。

     訓練ではマンネリ化が何よりも怖いもの。部隊が教導訓練に参加することで「もっと向上できる」と気付き、ひいては防空任務能力向上のきっかけになればと思っています。

    全国各地の部隊を見る面白み

    電源車担当。陣地変換における器材操作、安全事項の教導

    【第2教導隊 電気員/葛島義久 2等空曹】

     教導員になり、器材操作の1つひとつを細かく意識するようになりました。ベテラン隊員にも教導するため、負けないように知識も付けないといけません。特に電源操作は、人員や器材に与える影響が大きいので気を使います。

     この仕事では、北から南までいろいろな部隊を見られるのが面白いですね。今後は教導員として、質問されたら何でも答えられるよう、さらに知識、経験を磨いていきたいと思います。

    普段の身なりから整えています

    レーダー装置担当。陣地変換の実行や器材トラブル時の対応を教導

    【第2教導隊 高射電子整備員/井手剛志 2等空曹】

     整備員経験は長く、その経験や知識、情熱には自信を持っています。教導員になって1年、教える経験が少ない分、学ばなくてはいけないですし、見られる立場であることを意識して身なりを整えるようにするなど、教導員ならではの緊張感もあります。今後、教導員として力を発揮し、ペトリオットを運用する多くの国の中で、航空自衛隊がもっとも精強だと認められるよう、微力を尽くしたいと思います。

    全国各地に「戦友」をつくれる仕事

    アンテナ・マスト・グループ担当。陣地変換での器材運用面を教導

    【第2教導隊 有線整備員/安藤光 2等空曹】

     担当するAMGは、マストの動きもあって油断すると危険です。器材を安全確実、迅速に配置させるための教導には自信を持っています。私自身、教導歴は9年ですが、昔は人前で話すのが苦手でした。どうやったら的確に考えを伝えられるか、どういう態度を取るべきか、経験を積むことでできるようになりました。全国の部隊に教導を行いますので、全国各地に戦友がたくさんできます。それが一番のやりがいですね。

    (MAMOR2021年9月号)

    <文/臼井総理 写真/村上 淳>

    正しいミサイルの迎撃法

    This article is a sponsored article by
    ''.