世界中で大ヒットを記録している映画『トップガン マーヴェリック』。1986年に公開された旧作に続き、新作もアメリカ軍のことや戦闘機について詳しく知らない人でも十分に楽しめる作品だ。が、戦闘機のことをよく知れば、旧作を見返すのも、新作を映画館で見るのも、もっともっと楽しめること間違いなし。
そこで、『トップガン』をより楽しむために知っておきたい戦闘機の基礎知識を紹介しよう。
戦闘機が登場してからの歴史を教えて!
登場は第1次大戦で、初期は航空機同士が並んで拳銃で撃ち合うなどした。プロペラの回転に合わせて機銃の射撃間隔を制御する同調機が開発されて本格的に発達し第2次大戦では零戦(注)など高性能なプロペラ機が開発された。大戦末期にはドイツ空軍で初のジェット戦闘機が実戦投入され、戦後はジェットエンジンで音速を超える機体が登場。
さらに電子機器が発達し、昼夜天候を問わず活動できる全天候型戦闘機が出現。ベトナム戦争のころにはレーダーで目標を追尾するミサイルで視程外の目標を攻撃できるようになった。東西冷戦期には対戦闘機戦闘を行う制空戦闘機、爆撃を行う攻撃機など用途が分かれていたが、冷戦後は1機で多様な任務をこなすマルチロールファイターが主流に。
最新鋭の戦闘機はステルス性のほか、戦闘機や無人機などがネットワークでつながり、誰かがロックオンすれば誰からでも撃てる性能や、レーダー反射断面積の低い航空機なども探知できる高性能アンテナやセンサー技術が重要視されている。
(注)零戦:旧日本海軍の「零式艦上戦闘機」
戦闘機の塗装にはどんな意味があるの?
機体表面を保護するとともに、基本的には敵から見つかりにくい迷彩効果を狙った色や塗り分けが多く用いられている。空の上で目立たないグレー系や薄いブルー系をはじめ、森林地帯で効果の高い緑色迷彩や、洋上で発見されにくいブルー迷彩などがある。
中東地域などでは砂漠を模した塗色も存在するなど、各国の運用場所や地理的状況などを考慮して使い分けられている。最近ではレーダーで捉えづらくして、ステルス性能の向上を狙った、電波吸収材を混ぜた塗料も使用されている。
戦闘機パイロットは緊急時にどうやって脱出するの?
コックピットからロケットモーターによって座席ごと打ち上げ、機体から分離させる“射出座席”(イジェクションシート)で脱出する。上空で座席とパイロットは切り離され、パイロットはパラシュートで降下する。脱出時にはサバイバルキットも身に着けている。現在は射出の前にキャノピーを爆砕する方式が多く、『トップガン』でのグースのような事故は起きにくい。
空自の次世代の戦闘機はどんな特徴があるの?
空自ではF−2戦闘機の退役が始まる2035年ごろの配備を目指し、次期戦闘機「F−X」の開発に着手。特徴は機体形状やミサイルの内装化など優れたステルス性と、高度なネットワーク戦闘ができること。さらにハイパワーレーダーや高性能赤外線センサーなど高度なセンシング技術を有することだ。
同時に技術の進展に柔軟に対応できる十分な拡張性と、改修の自由度を確保することも重要視している。三菱重工業を開発主体に国内7社とエンジンや機体、レーダーなどを共同で設計するとともに、ロッキード・マーチンをパートナー企業の候補に選定、支援の調整をしている。
「マーヴェリック」は誰の名前?
トムクルーズ主演の航空アクション映画『トップガン』(1986年・アメリカ)の続編、映画『トップガン マーヴェリック』。本作ではパイロット養成学校、通称“トップガン”に、マーヴェリック(トム・クルーズ)が教官として帰ってくる。アメリカ海軍の全面協力による、実機を使ったリアルで迫力のある飛行シーンも大きな魅力だ。
映画に出てくる「マーヴェリック」は主人公ピート・ミッチェルのコールサインで、所有者を示す焼印のない子牛のこと。一匹狼や異端児の意味もある。パイロット同士や地上の兵器管制官が無線通信時に使う呼名をTACネーム(アメリカ軍ではコールサイン)という。
同姓でも間違わない、個人の特定を防ぐなどの理由で使われ、呼びやすく短いものが良いとされる。本人の希望も出すが、名前や出身地、エピソードなどから付けられることも。配置換えなどで似た名前があると変更もあるという。
(MAMOR2021年6月号)
<文/野岸泰之 撮影/近藤誠司>