世界中で大ヒットを記録している映画『トップガン マーヴェリック』。1986年に公開された旧作に続き、新作もアメリカ軍のことや戦闘機について詳しく知らない人でも十分に楽しめる作品だ。が、戦闘機のことをよく知れば、旧作を見返すのも、新作を映画館で見るのも、もっともっと楽しめること間違いなし。
そこで、『トップガン』をより楽しむために知っておきたい戦闘機の基礎知識を紹介しよう。
そもそも戦闘機ってどんなことをするの?
軍用機のうち戦闘機は、敵機への攻撃や迎撃、味方航空機の護衛を主な任務とする。戦闘機の性能が限られていた時代には、制空戦闘機や要撃戦闘機というように分類されていた。制空戦闘機とは相手の戦闘機を撃墜し、その空域の支配権を確立するのを目的とする。要撃戦闘機とは、攻めてきた敵の攻撃機や爆撃機を撃墜するのが主な目的だ。
F−15はもともとアメリカで制空戦闘機として開発されたが、現在ではさまざまな派生型が開発されており、航空自衛隊が運用するF−15J/DJもその1つだ。ちなみに攻撃機とは、敵陣に攻め入って基地や施設、艦船などを破壊するための航空機を指す。最近では役割ごとに機体を分けるのではなく、1つの機体とそのバリエーションで多くの任務をこなせる“マルチロール(多用途)化”された戦闘機が多い。また、艦艇に乗せて運用する目的で設計された航空機を艦載機と呼び、格納時に翼が折り畳めたり、垂直離着陸が可能な機種もある。
『トップガン』でマーヴェリックが乗っていたF−14は東西冷戦期にアメリカ海軍が使用した代表的な艦載戦闘機で、新作で登場するF/A−18E/Fも現在艦載機として活躍している。
戦闘機のメカニズムについて教えて!
戦闘機は高い機動性を確保するため、旅客機や輸送機に比べて機体が小さく、胴体の後部に単発もしくは2基の大出力ジェットエンジンを搭載しているのが一般的だ。旋回時にかなり大きな負荷がかかることから胴体、主翼は頑丈に作られている。素材はスチールやジュラルミンなどのアルミ合金、チタン、炭素繊維強化プラスチックなどが使われる。
主翼は旅客機よりも横幅が短く前後方向に長い形状で、前縁部に角度がつけられた“デルタ翼”と呼ばれる三角形状のものが多い。F−15はこれの翼端を切り落とした“クリップトデルタ翼”を採用している。F−14は翼の角度を変えられる可変翼となっている。武装は主翼や胴体の下に空対空、空対地などのミサイルや爆弾などをつり下げて搭載し、機体には機銃を備えるのが一般的だ。
機体には天候、地形の確認や索敵をするレーダーや各種のセンサーなどのほか、兵器管制のためのコンピュータ、航法システム、通信機器などアビオニクスと呼ばれる多くの電子機器が搭載されている。操縦席の計器は丸いメーターが並ぶアナログではなく、現在では液晶ディスプレーを用いた“グラスコックピット”が主流だ。
複座機(2人乗り)のパイロットの役割分担は?
前席は主に機体の操縦と、近距離での赤外線誘導ミサイルや機銃によって敵機を攻撃する役割を担っている。後席は中、遠距離でのレーダーによる敵の捜索や、ミサイルなどの火器とセンサー類を総合的に制御する“火器管制装置”の操作を主に担当する。
複雑なシステムの運用や状況判断などを分担できるメリットがある半面、運用するには1機につき2人の乗員が必要なほか、コックピットのスペース増が必要になる。電子機器の進化や低コスト化のため複座は減りつつあるが、操縦教育時に後席に教官が乗り込むための、複座の練習機などの需要は引き続きある。
アメリカの空軍・海兵隊・海軍の戦闘機の役割は?
本土防空を主任務とする空軍では、制空戦闘機としてF−15Cとその複座型F−15D、精密誘導爆弾も搭載できる多用途型のF−15Eを運用。また、軽量多用途機としてF−16、優れたステルス性能を持つF−22とF−35Aも保有している。
海兵隊は水陸両用作戦を行うため陸海空の兵器を運用する。上陸作戦支援や艦船護衛のために航空団があり、強襲揚陸艦で運用可能な短距離離陸・垂直着陸が可能なF−35Bを運用している。
海軍では突発的な紛争に備え、世界の海に差し向けられる即応性と機動力、作戦持続能力から航空母艦を保有。搭載戦闘機は『トップガン』の時代はF−14だったが、現在の主力はF/A−18E/F。今後は艦載機に必要な低速時の揚力増加と安定性が強化された、F−35Cも導入される。
(MAMOR2021年6月号)
<文/野岸泰之 撮影/近藤誠司>