国を守るためのパートナーとして犬を養成・運用していることは自衛隊もアメリカ軍も同じ。警備犬・軍用犬に関する知見を共有し、互いにスキルアップを図るため、アメリカ軍との共同訓練が実施されている。橫田基地にあるアメリカ空軍第374憲兵中隊軍用犬班を取材した。
より実践的な経験を積むアメリカ空軍との共同訓練
アメリカ空軍における軍用犬の所属は憲兵中隊(セキュリティー・フォース)。基地内での警備・警察業務を行う“ミリタリーポリス”としての役割も担っている。
アメリカ空軍では軍用犬を英語で「イヌ科」を表す「canine(ケイナイン)」から「K−9」という通称で呼んでおり、アメリカ空軍内ではその表記が一般的だ。実際、橫田基地にある軍施設の案内や隊員の上着につけられたワッペンも、全て「K−9」で統一されていた。
空自では、警備犬の任務は基地の警備と不審物探知、災害現場での捜索が柱となるが、アメリカ空軍では軍用犬が被災者の捜索を担うことはない。そのかわり、というわけではないが、自衛隊では行われていない麻薬探知の訓練も行っている。ここアメリカ空軍横田基地では、基地内のさまざまな施設を使い、より実践的な爆発物探知訓練が行われているという。
信頼関係が試される爆発物探知訓練
取材当日は空自とアメリカ空軍の共同訓練と聞いていたため、何となく、双方所属の犬が一堂に会して訓練を行う場面を想像していたのだが、実際には、ハンドラーと犬とのペアが1組ずつ、日米交互に同じ訓練を行っていくという形式だった。不測の事態に備え、日米の犬同士は常に5メートル以上の距離を保つのがルールだという。
「これから、倉庫内に隠した爆発物を捜索します」。大久保英一1等空尉の言葉に続いて現れたのは、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアのモグ号(1歳)とハンドラーの斉藤大樹3等空曹。訓練ではハンドラー自身も爆発物の隠し場所は知らない。
モグ号は倉庫に積まれた木箱などの周りをぐるぐると回り、ポイントを探っていく。このとき大切なのは、ハンドラーが警備犬の動きを観察しながら疑わしい範囲を絞り、警備犬の集中を促すこと。ハンドラーには常に警備犬の意思を敏感にくみ取る能力が要求されるのだ。こうした過程を経て、警備犬とハンドラーの訓練が同時に行われる。
ピンポイントで爆発物の場所を特定すると、モグ号は静かに「伏せ」の体勢を取った。音で爆発する危険もあるので、声は出さない。人と犬との、息の合った連携プレーだ。斉藤3曹&モグ号ペアに続き、アシュリー・グリーン軍曹&ロズウェル号のペアも、見事なチームプレーを見せてくれた。
「アメリカ空軍のシステムは、理想的なモデルケース」
第374憲兵中隊軍用犬班のケンネルマスター(犬舎長)のセス・シャノン軍曹は、「自衛隊のハンドラーは、非常にうまく犬の訓練を行っています。われわれは多くの訓練を重ねることで、お互いに新たな発見をしています。これはお互いにとって、とても有意義なことですし、今後も共同訓練を発展させていきたいです」と話す。
一方で、大久保1尉にとって「アメリカ空軍のシステムは、理想的なモデルケースの1つ」という。例えば、アメリカ空軍はテキサス州にあるラックランド空軍基地にハンドラーと犬を養成する専用の学校を持っている。世界中に配属される軍用犬を養成するための施設だ。ここで学ばなければ、ハンドラーとして犬に触れることはできない。
さらに、トレーナーコースに進むことで、ハンドラーを指導するトレーナーとしての資格を得ることも可能だ。トレーナーは経験と資格を重ね、ケンネルマスターを目指すといったシステムが構築されている。
アメリカ空軍の各基地には獣医師が必ず常駐し、定期的な健康診断のほか、簡易な手術も可能。ハンドラーは現場での応急処置などを学び、海外への派遣には必ず獣医師も同行するという。つまり、予算も規模も日本とは桁が違うのだ。実際、橫田基地で目にした軍用犬の移動用トレーラーは冷暖房完備。待遇の良さがうかがえた。とはいえ、日本国内では災害現場での警備犬の活躍が世間に広く知られるようになり、期待が高まりつつある。日本独自の在り方を探りつつ、頑張ってほしい。
(MAMOR2021年2月号)
<文/真嶋夏歩 撮影/荒井健>