2017年4月、防衛省は積極的な女性の活用に取り組む意義と、人事管理の方針などを明文化した。時代に即し、女性の活躍を促す自衛隊の在り方とは?
女性が働きやすい組織には優秀な人材が集まる
年々人口を減らしつつある日本の現状において、高い意欲と能力を備えた優秀な人材の確保は、自衛隊にとって大きなテーマだ。とりわけ、募集対象人口の半分を占める女性は、重要な人材源として近年ますます注目を集めている。
目下最大の目標は、2015年1月に策定した「防衛省における女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」に基づき、17年度以降の女性自衛官採用の割合を10%以上にすること、併せて全自衛官に占める女性自衛官の割合を、27年度までに9%以上とすることだ。女性自衛官の採用割合については、取組計画策定時(14年)の9.4%から19年度採用実績では16.1%にまで伸ばしている。防衛省人事教育局ワークライフバランス推進企画室の緑川桂子室長は、具体的な施策について次のように語る。
「まずは各駐屯地・基地における女性用トイレや浴場の新設・改修、隊舎・庁舎の女性用区画の整備や学生舎の新設などが挙げられます。そのほか、仕事と生活の両立支援に関する施策として、フレックスタイム制やテレワークの推進、自衛隊の任務の特殊性を踏まえた庁内託児施設の整備や、災害派遣の緊急登庁時における子どもの一時預かりのための態勢の整備を進めています。
これと並行して、職員のワークライフバランス推進、意識啓発のための講演会や研修の実施などにも取り組んでいます。女性が働きやすい組織づくりとは、男女を問わず育児や介護などの事情を抱えた隊員が勤務しやすい組織であり、それが結果的に優秀な人材確保につながると考えています」
女性の離職率が低い自衛隊の職場環境
災害派遣では緊急出動の必要もある。小さな子どもを抱えた隊員などへの支援も急務だ。
「女性自衛官の配置制限に関しても、18年12月に海自の潜水艦について解除したのを最後に、労働基準法などの趣旨を踏まえ、『母性の保護』の観点から女性を配置できない部隊を除き、全ての役職が女性に開放されました。そういった意味で、自衛隊という組織はほぼ男女平等を実現していると言っていいと思います」と、緑川室長。
現在では、自衛官全体に占める女性自衛官の割合は、7.4%にまで伸びている。また、女性自衛官の中途離職率は3.3%。厚生労働省の調査によると、18年の女性の離職率は日本全体で17.1%となっている。民間の企業と比較しても、自衛隊における離職率の低さは、注目すべき数字といっていいだろう。
「自衛隊というのは独特な組織であり、組織内に医療関係から整備などの技術系、通信、会計、医療、音楽などに至るまで、さまざまな職域が存在しています。デスクワークが多い職域もありますし、現在では女性が潜水艦にも戦闘機にも乗ることができます。
多種多様な志向を持つ女性が、これほどバラエティー豊かなジャンルにチャレンジできる職場環境が整っている組織は、民間企業を含めても、ほかにないのではないでしょうか。そういった意味では、女性が活躍できる可能性を無限に秘めた組織と言うことができると思います」
(MAMOR2021年3月号)
<文/真嶋夏歩>