試験機をはじめ、近い将来陸上自衛隊で使われることになる航空機や搭載器材をテストする飛行実験隊。この熟練集団を率いる各部署のリーダーたちに、飛行実験隊での仕事と、任務に臨む意識などを聞いた。
※UH-1J多用途ヘリコプター
<SPEC>
全幅:14.69m 全長:17.44m(寸法はローター回転時) 全高:3.97m 全備重量:約4.8t
迅速に部隊を移動させたり、物資の輸送、負傷者の輸送などに使用される多用途ヘリコプター。災害派遣においては、映像伝送により現地の状況を生中継するとともに要救助者のつり上げ救助を行う。
試験飛行を行うのはどんなパイロット?
試験飛行を担当するのは経験豊富なパイロットが中心だが、特にTPCやTOC(注)を修了した資格保有者が試験内容に応じて試験機の操縦を行うこともある。どちらも専門的で高度な知識、技能を持った飛行試験のスペシャリストを養成するコースだ。海・空各自衛隊と合同で行われ、固定翼機、回転翼機に限らず自衛隊が持つ全ての航空機に習熟しなくてはならない。
各コースでは、高度な飛行技能の修得はもちろん、柔軟かつ論理的な思考力を養う訓練や、試験機の評価を行うために必要な知識と技能を身に付けさせる教育が行われる。
(注)TPC(Test Pilot Course、試験飛行操縦士課程)は海上自衛隊厚木基地で約1年をかけて試験機のパイロットを養成する教育課程のこと
(注)TOC(Test engineering Officers Course、幹部技術課程)は航空自衛隊岐阜基地で約7週間をかけて研究開発に携わる技術幹部を養成する教育課程のこと
飛行班
操縦かんを握るすご腕のテストパイロット
試験機のパイロットを務めるのは、第一線の部隊で経験を積んできた、いずれも劣らぬ者ばかりだ。しかしテストパイロットには、通常とは違う技量が要求されるという。「データを取るための飛行は、ベテランパイロットでも難しい。配属された当初は戸惑いました」と田村健治3等陸佐。
飛行実験隊の任務について山口透3等陸佐は。「試験は、陸自だけではなく海・空の各部隊やメーカーなど多くの人たちの協力で成り立つので、それらに応えていきたいですね」と語った。
整備班
運用後を見据え最適な整備を追求
飛行実験隊の整備班は、一般の飛行部隊では行わない、エンジン交換など高度な整備能力を持つ。班長の矢内克之3等陸佐は「試作機を整備するには、1機種だけの経験では不足。複数機種を担当した経験が必要だ」と言う。UH−Xには、ベースとなった民間機の説明書だけでは、自衛隊の運用に対する情報が少ないため、メーカーなどに対して整備の方法などの記載の追加案を進言することもしばしば。
「最適な整備については、自分たちで一から考えねばならないことも多いですが、試験中に指摘しなければ、運用後に現場部隊が苦労します。私たちはそれを防ぎたい」。
計測解析班
データを扱うプロ。飛行試験任務に誇り
計測解析班は、飛行実験隊ならではのチームだ。試験機から得られる性能や特性などのデータを計測し、解析するほか、試験の企画や統制など幅広い業務を担当している。「班のメンバーは皆高いスキルを持っているので、それをフルに発揮できるよう環境を整えるのが私の役割です」と語る班長の小山祐輔3等陸佐。
「計測で予想と反するデータが出ることがまれにあり、その際は、なぜそうなるのか徹底的に考えます。試験条件は適正だったか、データの取得や処理にミスはなかったか。データはうそをつかないので、感情や感覚に惑わされず、試験を行うようにしています」
UH-X試験隊
UH−X試験の要。臨時編成の専門部隊
飛行実験隊内に編成されたUH−X試験隊は、スケジュール調整や試験計画・方案の作成や試験の実施と成果報告など担当業務が多岐にわたる、試験の中心となるチーム。「配備後、部隊が困らないようにするのが私たちの任務。実際にどう使われるかを想定しつつ、改善点や運用上の注意点を見つけていきます」と、隊長の泉道昭2等陸佐。
UH−Xの印象を聞くと、「航空機のシステム、特にアビオニクス(航空機に搭載される電子機器)は格段に進歩しています。現有機が黒電話ならUH−Xはスマホくらい。任務においてどれだけ航空機の能力を活用できるかは、その理解度により大きく差が出ます」と教えてくれた。
隊長・運用訓練幹部
部隊のスローガンは「運用部隊のために」
飛行実験隊は、航空機の専門家だけが集まるのではなく、さまざまな知見を持った隊員が集まる部隊だ。これは、幅広いユーザー(隊員)を代表し、新装備を試験・評価する目的があるからだ。
「飛行実験隊の任務は、新規開発された装備品や、海外から導入した装備品など、未知の機体を試験、評価することです。扱うのは、全てが初めてのものばかり。多方面で蓄積された知見を生かして予測、想定しながら仕事を進めることに、私たちの存在意義があると考えます」と語る、飛行実験隊隊長の横山純一1等陸佐。
設計や要求通りに航空機が飛ぶかを試験することはもちろん、最終的なユーザーの「使い勝手」を考えながら日々の試験に臨む飛行実験隊。「われわれがどれだけ多くの不具合を見つけ、改善点を提案できるかによって、配備先での使い勝手が変わる。それが一番のモチベーションです」とも、横山1佐は語る。
隊長を補佐する青嶋秀雄3等陸佐は、飛行実験隊を「高度なスキルを持つプロフェッショナルが集まっている部隊。私たちの意見が採り上げられることも多い分、大変なこともありますが、やりがいも多い部署です」と語った。
(MAMOR2021年4月号)
<文/臼井総理 写真/花井健朗>