2011年3月11日。東日本を襲った最大震度7、マグニチュード9.0という観測史上最大級となる東北地方太平洋沖地震は、最大遡上高40.1メートルの津波と、それによる原子力発電所事故を引き起こし、東日本大震災と命名された未曾有の大災害となった。そんななか、大規模な災害派遣を即座に実行し、献身的な活動で、被災者をはじめ多くの国民の信頼を得た自衛隊。
あれから10年を迎え、組織や装備など、時代のすう勢に合わせて自衛隊は変化をしている。当時と今を比較して、時代の流れを感じ取り、その先へつなげたいと思う。
女性自衛官の配置制限
2011年:一部職域に制限あり
直接戦闘を行う普通科中隊、戦車中隊、戦闘機など肉体的な負担の大きい職域において、女性自衛官の配置が制限されていた。1993年に隊員の配置制度の見直しを始めて以降、任務の多様化などに的確に対応し、女性が活躍できるフィールドを拡大するために配置制限は徐々に緩和されていたが、全ての職域で解除されてはいなかった。
2021年:18年に配置制限撤廃
段階的に緩和されてきた女性自衛官の配置制限は、15年に戦闘機が、18年に潜水艦について制限が解除される。化学物質を扱う陸上自衛隊の特殊武器(化学)防護隊の現場部隊や粉じんが発生する現場で活動する陸自坑道中隊など、母性の保護の観点から女性を配置できない部隊を除いて、原則として制限が解除された。
自衛官の採用年齢
2011年:18〜26歳までが対象だった
自衛官のうち、2〜3年の任期制で任期の延長も可能な「自衛官候補生」、部隊の中核を担い原則定年まで勤めることができる曹階級の自衛官を育てるための「一般曹候補生」の募集対象は、11年当時は18~26歳だった。
2021年:採用年齢を見直し門戸が広く
装備品の高度化や任務の国際化などに対応するため、多様な人材を幅広く確保する必要があった。そのため18年10月より自衛官の採用区分の中で「自衛官候補生」と「一般曹候補生」の採用年齢の上限が26歳から32歳までに変更された。
防衛関係費
2011年:約4兆6000億円
防衛力整備や自衛隊の維持運営のための経費である防衛関係費は11年度までは減少傾向が続いていた。だが、南西諸島などの離島防衛に対処するための水陸両用車AAV7などの装備品調達などのため、予算の増加が検討されていた。
2021年:約5兆900億円
防衛関係費は2012年以降9年連続で増加。これは宇宙やサイバー、電磁波など新たな防衛領域への対応や災害対策費などが関係している。災害時に自衛隊が出動する際の費用やドーザなど必要な装備品などの調達も含まれる。
自衛官の定年
2011年:一般の公務員より定年が早い
自衛隊は60歳が定年の一般の公務員とは別体系の「若年定年制」を主として採用している。これは国防の任務に対する知識や技能などの精強性を維持する必要があるためで、自衛官の大半が50代半ばで退職する。
2021年:階級ごとに定年が引き上げに
少子高齢化が進む中で知見を豊富に備えた人材を有効活用する考え方から、20年1月より若年定年制自衛官の定年年齢を段階的に引き上げることが発表された。階級ごとに53~56歳と定められている3曹〜1佐以下の定年を、22年までにそれぞれ1歳引き上げる予定だ。
自衛隊の防衛態勢
2011年:均等に防衛力を配備する方針
わが国の安全保障政策は、おおむね10年後までの基本指針を定めた「防衛計画の大綱(防衛大綱)」を策定し、これに基づき5年ごとに具体的な政策などを定めた「中期防衛力整備計画」を策定している。自衛隊は発足から10年度まで、日本列島に均等に防衛力を配備する「基盤的防衛力」の方針で各部隊を配置してきたが、11年4月からの10年間の方針は、即応機動力を重視する「動的防衛力」へ転換が示され、部隊配備の再編などが計画されていた。東日本大震災は、防衛力の転換期に起きた。
2021年:南西地域の防衛力を強化
世界の安全保障環境を鑑みて方針を定めた11年度からの防衛大綱に基づき、自衛隊は「動的防衛力」を整備する方針で北方の戦車削減や南西地域の監視力の強化などを進めていた。さらに次期の改定を待たず、14年度の防衛大綱では即応性、持続性、強靱性などを重視した「統合機動防衛力」に方針を転化。その対応として、18年、陸自では水陸両用作戦を展開する水陸機動団を佐世保に新編。空自も南西域を飛行する国籍不明機に対処すべく、第9航空団を16年、那覇に新編した。
(MAMOR2021年5月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>