自衛隊には、実はたくさんの広報担当者が配置されている。防衛省本省をはじめ、陸・海・空各自衛隊のあちこちにいる広報担当たちが、刊行物の製作、報道・SNSなどでの情報発信、イベント運営や映画・ドラマの撮影協力など、様々な広報活動にあたっている。
そんな自衛隊の広報活動について、数多くの有名テレビCMを手掛けたプランナー・福里真一氏に意見を聞いた。
「自衛隊の広報活動が幅広いことにびっくりしました」
「びっくりしました。こんなにいろいろやっているとは、思いませんでしたね」
編集部が用意した自衛隊の広報資料を見た後、開口一番、このように語る福里氏。印刷・刊行物、動画、イベントなど幅広く行われている自衛隊の広報活動も、今まではあまり意識していなかったという。
「いろんな人をターゲットにしながらも、対象別に媒体や表現を切り分けていて、情報の届け方もさまざま。正直、これだけ手広くやっていることに驚きました」
福里氏は、自衛隊による広報の取り組み、例えば関係者が一様に悩む、硬軟織り交ぜた表現についても、好意的な見方をする。
「『防衛白書』などは、文章量も多く、表現も硬いものがありますが、これはこれでいいでしょう。今の自衛隊の広報は、真面目なものは真面目なものとして、親しみやすいほうがいいものはアニメやイラストなどを使って親しみやすくできていますし、バランスもいいと思います」
自衛隊の広報に足りないもの
一方で、広告のプロから見ると、自衛隊の広報には重要なものが欠けていると感じるとも語る。
「『核』がないんですよね。全ての起点となるものが。『自衛隊といえば○○』というものがあれば、そこからいくらでも展開できると思います」
例えば、熊本のマスコットキャラクター「くまモン」は、熊本といえばくまモンという印象付けに成功している。
「ビジュアル以外にも、歌やCMで使われるサウンドロゴなど『音』も核になり得ます。もしくはキャッチフレーズでもいい。自衛隊全体をくくる、共通した分かりやすい目印がほしいですね。自衛隊といえばこれ、というものを前面に押し出し、統一して使えばもっと効果は上がるでしょう」
自衛隊の広報の「核」となり得る一例として、福里氏が挙げたのは「旗」だった。
「自衛隊では『旗』を使いますよね。海上自衛隊の船で掲げているものとか。でも、陸・海・空で統一はされていない。全自衛隊で統一された旗印のようなものがあれば、ニュースなどで自衛隊が活躍しているシーンにそれが映りこむだけで、これは自衛隊だと、より認知されるようになります」
MAMOR読者はご承知かと思うが、陸・海・空各自衛隊ではそれぞれ別の旗を使っており、国旗以外には統一した旗印は使われていない。福里氏は、それに準ずるような、全自衛隊のアイコンとなるものがあればいいのではと教えてくれた。
若者の心に響くのは、真面目でストレートな言葉
では、自衛隊広報はどうあるべきなのか。自衛隊広報の大きな目的の1つである「募集」をテーマに、ターゲットとなる若年層の傾向を踏まえて分析してもらった。
「今の若い方々は、自分ではなく『他』のために貢献したいと思っている人が多いですね。自衛隊は、まさに利他の精神を体現する組織。若者に対して変にこびたりおもねったりせず、自衛隊の思いをストレートに、真面目に伝えるのがいいでしょう」
同氏が例として挙げたのは、若い隊員が自衛隊を選んだ理由や、自衛隊に入隊して見つけたことをリアルな言葉で伝えるようなCM。
「一番大事なのは、自衛隊が世の中の役に立っているのだと、自慢ではなくリアルにPRすること。素晴らしいことをやっているのに伝わらないのはもったいない。『中の人』のメッセージを、真っすぐ照れずに伝えてほしいですね」
自衛隊のテレビCMをつくるなら……
最近、人々の価値観は大きく変化しつつあると語る福里氏。中でも大きいのは「うそか、うそでないか」が重視されるようになったこと。きれいだが、うそで飾り付けているよりも、真実をストレートに述べるほうが評価される時代になった。
「立派な理由ではなく、いいかげんな理由で自衛隊に入った隊員の方がいるとして、でも、その方は自衛隊に入ってやりがいを見いだし、今では入隊した自分を誇りに思っている。そんな話をそのまま伝えてもいいんじゃないでしょうか」
近年、テレビCMの世界でもドキュメンタリー番組のような作品があるという。今の時代、こうしたストレートで、真面目な内容のもののほうが話題になりやすく、SNSなどで拡散されやすいとのこと。
最後に、福里氏が実際に自衛隊の広報を手掛けるなら、何をしたいか聞いてみた。
「私が自衛隊のCMを作るなら、直球で、リアルなドキュメンタリーにしますね。自衛隊では、各部署でバラバラに広報をしていますが、それでは効果も薄まります。いっそのこと全部の予算を足せば、相当大規模にテレビCMが打てます(笑)。
CMは、SNSで拡散されると効果は何倍にもなります。現在、自衛隊が注力しているSNSを活用すれば相乗効果も期待できますし、ぜひCM制作も検討してほしいですね」
【福里真一氏】
クリエイティブディレクター・CMプランナー。電通を経て2001年よりワンスカイ所属。これまでに1500以上のテレビCMを企画、制作。主な仕事はサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」、ENEOS「エネゴリくん」など
(MAMOR2021年5月号)
<文/臼井総理 撮影/林紘輝(扶桑社)>