陸自「偵察部隊」のオートバイは抜群の機動力を誇るため、災害派遣においても活躍する場面が多いという。実際に偵察オートで災害派遣出動し、被災地で活動した宮内勇河3等陸曹にそのときの状況を伺った。
土砂を乗り越え、現場へ急行。機動力を生かした偵察隊の任務
宮内3曹が活動したのは2016年4月に発生した熊本地震に伴う災害派遣だという。
「発災から2日後の朝、第12偵察隊のある群馬から熊本に向けて出発しました。天候や、全体的な運用状況による判断で、私はオートバイで約1300キロメートルを自走しましたが、トラックなどと一緒に移動したので、到着まで36時間かかりました。途中で雨が降っても休憩予定地まで止まれないのがつらかったですね」
被災地では実際にどのような活動を行ったのだろうか。
「オートが運用されるのは土砂崩れなど4輪車が通行できない場所で、いち早く現場に入り、後続の4輪車が通れるのか、トラックなど大型車はどの道なら通れるのかなど、経路の状況を調べて報告するのが主な任務です。同時に家屋などの被害状況についても情報収集しました」
活動中はどんなことに気を付けていたのだろうか。
「道路の小さな亀裂を見逃しただけで後続部隊の車両が通れないこともあり得るので、まずは与えられた任務をきちんと全うするのが第一。そして、自分たちがけがをせず無事に戻ることです。また、被災地では自衛官として恥ずかしくない行動をするよう自分を律し、オートバイに長時間乗る際も姿勢が崩れないよう気を付けたり、疲れを表に出さないよう心掛けていました」
復興の一助となるため、どんな状況下でも任務を完遂
ハードな日々だったが、つらかったのは体力面ではなかったと宮内3曹は言う。
「自分たちの任務は情報収集活動が最優先だったので、被災した住民の方から家具の移動などを頼まれても断らざるを得ませんでした。手助けしたいのにできない、これは歯がゆくてつらかったです」
そんな中、普段の訓練が役に立ったな、と思うこともあったという。
「偵察隊では水や食料を制限し、十分な休憩も取れないまま山の中で1週間偵察行動をする、という訓練を行っています。その際に培われた“どんな状況下でも絶対に任務を完遂する”という使命感は、長期間にわたった災害派遣活動において、大いに役立ったと思います。住民の方から直接お礼を言われる任務ではありませんでしたが、われわれが迅速に被害状況を報告することで、少しでも早い復興の一助になったのかな、と思っています」
(MAMOR2021年8月号)
<文/野岸泰之 撮影/楠堂亜希>