•  陸上自衛隊には、オートバイを自由自在に操り山河を駆け巡って情報を集める部隊がある。そんな「偵察隊」のオートバイ要員になるためには、どんな資格が必要なのだろう。また、部隊ではどんな教育や訓練を行い、一人前のライダーに育てているのだろうか。教官を務める中里成昭2等陸曹に語ってもらった。

    偵察オート隊員になるために必要な資格

    「操縦技術以外に道路状況や地形の判断能力、危険予知能力、あらゆる状況に単独でも対応できる能力なども必要です」と中里2曹

     偵察オートに乗るには普通2輪免許の保有が条件で、持っていない場合は民間や自衛隊の教習所で免許を取得する。その上で自衛隊内の資格である自動2輪操縦特技(通称:M−MOS。MOSとは自衛隊内で資格を取得する特技のこと)を取得しなければならないという。

    「自動2輪操縦特技は自隊で検定に合格して、規定の技量に達していると認められれば偵察隊長から資格を付与されます。その教育をわが隊では“特技『自動2輪操縦』集合教育”と呼んでおり、相馬原演習場にあるオートバイ訓練場や駐屯地内の自動車教習所技能コースを使って行われます。期間は約3週間です」

    特技『自動2輪操縦』集合教育で、ハイレベルな技術を取得

    画像: 偵察隊に配属されてから2輪免許を取得する隊員も多いため、ライディングの基礎から始めて徐々にレベルの高い走りができるよう、カリキュラムが工夫されている

    偵察隊に配属されてから2輪免許を取得する隊員も多いため、ライディングの基礎から始めて徐々にレベルの高い走りができるよう、カリキュラムが工夫されている

     この特技の取得は偵察隊員にとって必須なのだという。ではその教育はどんな内容なのだろうか。

    「教習所のコースで道路交通法に基づいた操縦や路上での基本的な走り方を教えるほか、“路外機動”と呼ぶ、フラットダートや砂地など、未舗装路の走り方を習得します」

     舗装路でオートバイの基本的な乗り方を教えたあと、未舗装路、そしてもっと荒れた不整地での走行技術の習得へと移るのだという。

    「林道走行やデコボコした不整地の走行、8の字やスラロームなど、まずはオフロードバイクの基本的な走り方を教えます。個人のレベルや体格に応じて徐々に難易度を上げ、障害物を越えたり、場合によっては山中の道なき道や獣道での走行テクニックに至るまで、だんだんとステップアップする感じになります。

     ライディングテクニックは感覚的な部分も多いので、言葉で伝えるのは難しいこともあります。ですからまずは実際に教官がやって見せて、隊員が頭と体で覚えられるよう工夫しています」

    ※オート隊員のライディングテクニックはこちら

    操縦技術だけでなく、整備や愛車精神も教える

    画像: 訓練場内にはバランス感覚を鍛えるための「一本橋」と呼ばれる狭路があるが、民間の教習所にあるものと違い、波打っているのでかなり難易度が高い

    訓練場内にはバランス感覚を鍛えるための「一本橋」と呼ばれる狭路があるが、民間の教習所にあるものと違い、波打っているのでかなり難易度が高い

     この特技の取得に当たってはオートバイの簡単な整備や点検のやり方、故障の際の対応、タイヤ交換やパンク修理の方法まで教えるという。そんな教育において、中里2曹が気を付けているポイントはどんなことなのだろう。

    「オートバイは転倒すると乗員や車体へのダメージが大きいので、安全管理には特に気を配っています。けがをしにくいうまい転び方も教えるんですよ。

     あとは、愛車精神を養うことですね。オートバイが無事に動いて初めて任務を完遂できるので、教育後はマシンを隅々まで磨いてきれいにするよう教えています。これは、細かいトラブルを事前に発見することにもつながります」

     特技を取得後も、さらなる技術向上を目指して訓練が続くという。

    (MAMOR2021年8月号)

    <文/野岸泰之 撮影/楠堂亜希>

    自衛隊ライダー、参上!

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