陸、海、空自衛隊の42基地にある163航空保安施設の飛行点検を実施している飛行点検隊。現在はU-125を2機、U-680Aを3機運用して任務を遂行している。これらの機体と退役したYS-11FCを比較してみよう。
50年以上も運用された歴史を感じるYS-11FC
昨今の大型ジェット旅客機と比べれば小さいが、機体の近くに立てばその威容に圧倒されるYS−11FC。クラシックな趣のあるプロペラエンジンを眺めながらタラップを昇り搭乗口に着くとこれが小ぶりで、背を屈めてくぐった先のキャビンの天井も低かった。
コックピットに入るとそこには計器類がびっしり。全ての位置と用途を覚えるのは並大抵の労力ではないだろう。興味深かったのは、管制官とやりとりするためのヘッドセットにはマイクがなく(手持ちのマイクが別にある)、キャビンとの通信にはこのマイクと座席後方に取り付けられた黒電話の受話器(!)で対応しているという。
キャビンの前部に設置された自動飛行点検装置は開発当初のコンピュータのように大きく、キャビンの横幅の約半分を占めている。点検装置はレトロな外観で、ディスプレーに表示されるのは文字情報のみだ。機内の設備も飛行点検用の器材も、何から何までベテランの風格があるYS−11FCだった。
機体や飛行点検装置がスリムになったU-125
イギリスのブリティッシュ・エアロスペース社製のビジネス用ジェット機を原型とするU−125。1960年代に開発されたとはいうものの、機体やエンジンが改修・換装されながら現在でも生産が続けられているというだけあって、YS−11FCのような古風なイメージではない。コックピットの計器類も少なくなっているし、もちろん通信用のヘッドセットマイクも装備されている。自動飛行点検装置もかなりコンパクトだ。
ただし、ビジネスジェットとして開発された機体なので機体自体もかなりコンパクト。さまざまな器材を搭載したキャビンはとにかく狭い。YS−11FCとU−680Aの中間に位置する、過渡期の機体という印象を受けた。
機体も点検機材も最新鋭。空間も広いU-680A
美しい流線形の外観は一見してピカピカでツルツル。アメリカのテキストロン・アビエーション社製のビジネスジェット機を原型とするU−680Aは、なにより新品感が際立つ。
キャビンに一歩足を踏み入れると、そのゆったりした空間はハリウッドスターやアラブの石油王のプライベートジェットを思わせる。YS−11FCのように大きな箱型の点検装置ではなく、ノートパソコンのようなコンソールとプリンターのみという構成だ。
コックピットにはアナログ計器が1つもなく、MFD(マルチ・ファンクション・ディスプレー)をはじめ、各種データがディスプレーに表示されている。操縦席は外車のシートのような高級感があり、これならパイロットの負担が軽減されるというのもうなずける。この最新鋭の機体であれば、飛行点検任務がはかどるに違いない。
(MAMOR2021年7月号)
<写真/荒井健 文/魚本拓>