• 核(Nuclear)・生物(Biological)・化学(Chemical)物質を使用した「NBC兵器」。その脅威から日本を守る隊員たちが陸上自衛隊にいる。中でも「化学科」という職種(任務区分)に属する隊員は、高度な専門知識と特殊技能を求められるため、資格を必要とし、その検定に合格する必要がある。検定を実施するのは、対NBC兵器の専門部隊である第1特殊武器防護隊だ。マモルでは、練馬駐屯地(東京都)で行われた検定に挑戦した4人の隊員と、彼らを支える検定官たちの行動を追った。

    検定の現場に密着!若い彼らの挑戦にせまる

    画像: 検定の現場に密着!若い彼らの挑戦にせまる

    検定に臨むのは、2025年に入隊した教育隊の同期の4人。新隊員教育修了後は、赤石1士と菊池1士は練馬駐屯地の第1特殊武器防護隊に配属され、出口1士と吉田1士は、霞ヶ浦駐屯地(茨城県)で化学器材を扱う部隊への配属となったため、検定を受けることに。「同期全員で検定を突破するぞ!」――そう意気込みを口にした。

    名前:菊池 階級:1等陸士 
    年齢:19歳 性別:男性
    所属部隊:第1特殊武器防護隊
    入隊:2025年 出身地:東京都
    趣味:カードゲーム『デュエルマスターズ』

    第1特殊武器防護隊に所属しています。この日のために先輩隊員たちは親身になって指導してくださいました。化学手のプロとなり国民を守れるよう合格目指して頑張ります!

    名前:出口 階級:1等陸士
    年齢:19歳 性別:男性
    所属部隊:第101全般支援隊(装備品の整備、回収、補給を駐屯地および野外で行う部隊)
    入隊:2025年 出身地:滋賀県
    趣味:化学の勉強、甘いものを食べること

    普段は霞ヶ浦駐屯地で化学装備品の整備などを行っています。全部の化学器材を正しく扱えないとできない任務なので、この検定は絶対に合格したいです!

    名前:吉田 階級:1等陸士
    年齢:19歳 性別:男性
    所属部隊:関東補給処(関東甲信越地方における
    補給品の保管、整備支援を行う部隊)
    入隊:2025年 出身地:埼玉県
    趣味:サバイバルゲーム、スノーボード

    普段は茨城県にある関東補給処で化学検知機器の整備を行っています。専門性の高い装備品をしっかり扱えるよう検定を突破してみせます!

    名前:赤石 階級:1等陸士 
    年齢:21歳 性別:男性
    所属部隊:第1特殊武器防護隊
    入隊:2025年 出身地:群馬県
    趣味:ライブ鑑賞、スキー

    第1特殊武器防護隊に所属し、普段から除染などの訓練に励んでいます。教官からいただいた“獅子奮迅”という言葉を胸に、必ず検定を突破します!

    化学科のプロになるための最初の試練

    画像: 特殊武器防護隊では、生物・化学兵器や放射性物質に対処するため、定期的に大規模な訓練を実施している。例えば、化学工場で薬品が漏出した事故を想定した訓練では、救出した負傷者の救護や有毒物質の洗浄、消毒の手順の確認・実施などが行われる(写真提供/防衛省)

    特殊武器防護隊では、生物・化学兵器や放射性物質に対処するため、定期的に大規模な訓練を実施している。例えば、化学工場で薬品が漏出した事故を想定した訓練では、救出した負傷者の救護や有毒物質の洗浄、消毒の手順の確認・実施などが行われる(写真提供/防衛省)

    化学科の隊員が受ける検定には大きく3段階ある。最初に登竜門として受けるのが「初級化学特技検定」だ。入隊後に陸上自衛官として必要な基礎教育を終え、職種が化学科に決まり、部隊に配属後、最初に受ける検定だ。それはどのようなものなのか。第1特殊武器防護隊隊長の松下3等陸佐に話を聞いた。

    「合格した暁には、結果に満足することなく、化学科の隊員に必要な知識と技能を貧欲に追求していってほしい」と語る1特防隊長の松下3佐

    「本隊は核、生物、化学、放射性物質などの目に見えない特殊兵器による攻撃に対して、汚染された地域の汚染物質を分析し除染して無毒化する専門部隊です」

    第1特殊武器防護隊(1特防)の任務について、松下3佐がそう説明してくれた。

    「1特防の前身である第1師団司令部付隊化学防護小隊は1995年の地下鉄サリン事件、1特防に改編後は、2011年の東日本大震災に伴う福島第1原発事故(注1)における放射線汚染区域での偵察や除染などの活動を行っています」

    (注1)2011年に起きた東日本大震災で巨大な津波・地震の影響により発生した福島第1原子力発電所の事故。全ての電源がストップしたことで原子炉を冷やす機能が失われ、水素爆発を起こし放射性物質が飛散した

    こうした高い専門知識を備えたスペシャリストである1特防の任務の1つに、化学科隊員に対する検定の運営がある。

    東日本大震災では、福島第1原子力発電所の事故の対処のために1特防が派遣され、航空機で空中の放射線のモニタリングを実施。その際、隊員たちは放射線から身を守るため、鉛が織り込まれた防護衣を着用した(写真提供/防衛省)

    「NBC関連の任務に就く化学科の隊員はスペシャリストであるために、化学科の検定を受ける必要があります。おもに関東近郊の化学科の隊員がわが隊に来て、1特防の隊員が教官となり熱心にその高度な技術を教えながら検定を行うのです。

    化学科の検定には初級、中級、上級がありますが、今回4人の隊員たちが受ける初級化学特技検定には、筆記検定と実技検定があり、1年に1回ほど実施しています。

    筆記検定では、核と化学、生物による特殊武器の種類やそれらの防護に関する基礎的な知識が問われます。実技検定では、特殊武器への対処の現場で使用されるさまざまな検知器などの基本的な取り扱いと、化学物質などによる汚染源(ホットスポット)やその周囲の道路、生育している植物など、汚染地域の除染活動が正しく行えるかが試されます。

    画像: 化学科の検定には、今回、実施された「初級」のほかにも「中級」と「上級」がある。中級は3曹以上の隊員が受検する検定で、その資格を取得すると小隊長が任務の目的などを部下に伝達する「命令下達」が可能になる。上級は2曹以上の隊員が受検し、資格取得後は班長として班の指揮や教官としての役割が担える。

    化学科の検定には、今回、実施された「初級」のほかにも「中級」と「上級」がある。中級は3曹以上の隊員が受検する検定で、その資格を取得すると小隊長が任務の目的などを部下に伝達する「命令下達」が可能になる。上級は2曹以上の隊員が受検し、資格取得後は班長として班の指揮や教官としての役割が担える。

    隊員たちはその後、化学科の隊員としての経験を重ね、階級が上がるに従って、『中級化学特技検定』、『上級化学特技検定』と、さらに上位の資格を取得し、化学科のスペシャリストとなるのです。その最初のステップとなる初級化学特技検定は初めての検定で緊張すると思いますが、プレッシャーに負けずに合格を目指し挑んでほしいですね」と、松下3佐。

    いよいよ初級化学特技検定が始まった!

    特殊武器への対処に関わる初級化学特技検定。その実施のために使用される器材や駐屯地内の用地の点検など、前日から行われていた検定の準備が整い、初級化学特技検定が開始された。

    筆記試験からはじまり、検知器材の取り扱い、汚染地域の除染、車両での除染まで――多岐にわたる検定に挑んだ隊員たちの合格をかけた奮闘に迫る。

    基礎的な知識が問われる筆記試験からスタート

    画像: 【筆記試験の前に検定の概要を説明】試験会場となる練馬駐屯地に着隊した受検者たちは、荷物の整理を終えた後、廊下に並び、教官から伝えられる検定の注意事項について耳を傾けた

    【筆記試験の前に検定の概要を説明】試験会場となる練馬駐屯地に着隊した受検者たちは、荷物の整理を終えた後、廊下に並び、教官から伝えられる検定の注意事項について耳を傾けた

    練馬駐屯地内にある検定会場前の廊下では、教官であり検定官である石原陸曹長が受検者4人に対し、これから実施される検定のスケジュールなどについて説明を始めた。

    4人の隊員たちは「いよいよ検定が始まった」と緊張の面持ちで静かに検定官の話を聞いていた。

    画像: 【約100問におよぶ筆記試験】筆記試験では、CBRNE兵器(注2)の基礎や化学器材を使用する際の安全管理規則、毒劇物の取り扱い法など専門性の高い問題が約100問出題される

    【約100問におよぶ筆記試験】筆記試験では、CBRNE兵器(注2)の基礎や化学器材を使用する際の安全管理規則、毒劇物の取り扱い法など専門性の高い問題が約100問出題される

    (注2)Nuclear(核)、Biological(生物)、Chemical(化学)、Radiological(放射性物質)、Explosive(爆発物)の各頭文字。NBC兵器は、近年、RとEを加え、CBRNE兵器と呼ばれ、戦争以外にも、テロや事故などを含めた『特殊災害』の中で語られることが主流となっている

    まず初めに実施されたのは2時間に及ぶ筆記試験だ。その設問の内容は、特殊武器に関する基礎的な知識についてだという。

    有毒化学剤や生物剤、放射性物質の種類や、それらを防護するための要点など、約100問の問題に解答。受検者の4人はこの日のために、所属部隊で行っている通常任務をこなしながらも、任務後や休日の隙間時間を活用し、教材の読み込みや暗記に専念してきた。

    筆記試験の合格ラインは高めのハードルを設定されている。受検者たちは真剣な面持ちで解答用紙にペンを走らせていた。

    (MAMOR2026年8月号)

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    <文/魚本拓 写真/荒井健>

    ー検定を突破するぞ!ー

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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